第3話

「はっ!」

 軍神アレス――いや、黒神アレス青年が次に目を覚ましたのは、築五〇年になるぼろいアパートの一室だった。その六畳一間には小さいキッチンにユニットバスが付いており、テレビとベッド、そしてコタツ机が置いてある。

 そのベッドの上でなぜか制服姿のままで目を覚ましたアレス。

身体を起こし、ふと机の上に目をやると、幸せカウンターと二つ折りの紙が置いてあるのが見えた。

「これは……手紙か?」

 アレスがその紙を開き読み始めると、それはテミスからの伝達事項だった。


 ――アレス様へ。

 このままでは先が思いやられますので、少しだけお助けいたしましょう。

 黒神アレスという青年は、日本人とアメリカ人の両親から生を受けました。しかし若くして事故で二人と死別し、その後は身寄りもなく一人暮らし。残された遺産で生活を……という設定にしております。

 当面の資金は机の下の通帳に入れておりますから銀行で引き出してお使いください。そしてなくなったらご自身で稼いでくださいませ。(錬金術や犯罪行為は禁止ですよ)

 それと、今日から新しい学校へ転入していただきますが、それは天河(てんかわ)高校という学校で場所は下に書いてある地図をご確認ください。

 初回の登校は二年生一学期開始の今日、四月六日です。

 八時二〇分までに、校内の職員室にいる『雨宮(あまみや)』という教師をお訪ねくださいね。時間厳守ですよ。

 それでは、次にお会いするのは八〇年ほど先であると期待しながら、天界より応援しております。

テミスより――。


 アレスは手紙の下側に書いてある地図を見る。

 その道はシンプルでわかりやすいようだが距離がよくわからない。

「えっとぉ。学校に行くのは、たしか……今日からだったな。しかし、いきなり過ぎるだろ。八時二〇分に教師を訪ねろと言われても、今の時間は――」

 そう言いながら、自然と壁にある時計に目をやるアレス。

 テミスが説明していた通り、彼はこの世界の一般常識を理解した状態で転移したようで、この世界の時間の概念や時計の見方も理解しているようだった。

「今の時間は……。んん? 八時十五分?」

 今が夜か朝かもよくわからず咄嗟にカーテンを開けてみる。

そして今は朝であることがわかった。

「あと五分で着けということか?!」

 アレスはメモを握りしめ、すぐに部屋を飛び出すのだった。

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