第17話 洞窟に行こう

 その後、村長と村人たちがアランを引き取るための手配を進める中、ルーナがふと落ち着いた声で口を開いた。


「フレン様、今回の問題は私たちが解決しませんか?」

「……は?」


 何を言っているんだ、と。

 フレンは彼女を見上げながら、呆れたような表情を浮かべた。


「ちょっと待て。やっと一件落着したところだろ? これ以上何をやるって言うんだ?」

「もちろん、村を根本的に救うためです」


 ルーナはにっこり微笑みながら続けた。


「私たちが直接、原石を取りに行ってしまいましょう」

「はぁ?」


 フレンは大きなため息を吐き、頭を抱えた。


「お前さ、本当にどこが簡単な話だと思ってるんだよ?」

「フレン様、それほど難しいことではありません。原石を手に入れて、それを交渉材料としてアルフォード侯爵に取り引きを申し込むのです。そして、この村の安全を確保してもらいましょう」

「なあルーナ、自分がどれだけ無茶苦茶なこと言ってるかわかってる?」


 冗談だとしてもなかなか笑う事の出来ないフレンは、ルーナをジト目で睨んでしまう。


「俺たちが原石を取るって、それが簡単な話なら誰も苦労しないんだよ。それに侯爵なんて、村のことなんか興味ないだろ」

「興味を持たせるのが重要なのです。原石はそれだけの価値があるものなのですから」


 ルーナはあくまで冷静な態度で答える。


「そりゃ、そうかもしれないが」


 フレンは腕を組み直し、少し考え込むように視線を逸らした。


「でもさ、本当にそれで村が守れるって確信できるのか?」

「もちろんです」

「えっ」


 ルーナの返事は即答だった。


「フレン様、私を信じていただけますか?」

「まぁ……信じてるけどさ」


 フレンは曖昧な返事をしながらも、どこか落ち着かない様子だった。

 彼の頭にはいくつもの懸念が浮かんでいる。


 例えば、洞窟で強力なモンスターが現れてしまったら倒せるのか。

 また、長年放置されている洞窟は崩落の危険があるかもしれない。足場が脆い、空気が薄い、有毒ガスが発生しているといった状況も考えられる。


「こういった場合はどうするんだ?」

「フレン様のスキルがあれば死ぬことはありません」

「そ、そうなのか……?」

「はい」


 とても自信満々に言うので、信じてしまいそうになるフレン。


「でも、もし失敗したらどうするんだ? 俺たちじゃ原石を守りきれないかもしれないし、侯爵がその気にならなかったらどうする?」

「その場合も、次の手を考えるまでです」


 ルーナは少し微笑みを浮かべて答える。


「次の手って、そんな簡単に言うけどなぁ」


 フレンは不満げに顔をしかめながらも、ルーナの自信満々な態度に圧倒されていた。


「フレン様は、いつもこうして慎重に考えられるところが素敵ですね」

「いや、そういう問題じゃないだろ……」


 フレンは呆れたように肩をすくめた。


「でも、だからこそ大丈夫です。フレン様と私がいれば、この村はきっと守られます」


 ルーナの真っ直ぐな言葉に、フレンは返事をする気をなくしてしまった。


「はぁ……ほんと、お前のその無駄な自信はどこからくるんだよ」

「それは、フレン様がいるからです」


 その言葉にフレンは一瞬、言葉を失った。

 ルーナの瞳が自分に向けられていることに気付き、何かを言おうとして口を開きかけたが、うまく言葉が出てこない。


「おいおい、そんなこと言われてもだな、家を追放されたら俺はもうただの一般人。まぁ、スキルはあるかもしれないけど凡庸だぞ」

「いいえ、フレン様は普通ではありません。スルースキルを持ち、それを活かして困難を乗り越えてくれるでしょうから」

「いや、それでここまでやらされたことのほうが多い気がするけどな……」


 フレンはさらに大きなため息を吐いた。


「俺だって平和がいいんだよ。でもなんで俺たちがそこまでやらなきゃいけないんだよ?」


 ルーナはその言葉に微笑を浮かべながら、少しだけフレンに近づく。


「フレン様、いつも面倒だとおっしゃいますけど、結局最後には誰よりも誠実に行動するのは貴方です。私、それを知っていますから」

「おいおい、なんだよそれ……」


 フレンは頬を掻きながら目を逸らした。

 何故なら、真っ直ぐに期待の目を向けてくるルーナの瞳がキレイで、とても眩しかったからだ。

 これは果たしてスキルによるものか。


「それでは、村長様に原石の洞窟まで案内していただきましょうか」

「あ、ちょっと待てよ」


 ルーナは村長に向き直り、にっこりと微笑んだ。

 村長は少し驚いた顔をしたが「分かりました」とすぐに頷いた。


「まったく、俺のスルースキル、どこで役立つんだよ……」

「フレン様、きっと大事な場面で役に立つに違いありませんわ」


 ルーナはその言葉を聞いて小さく笑みを浮かべながら優しく言った。

 フレンはその言葉に肩をすくめつつも、「あんまり期待するなよな」と小声で呟くのだった。


 結局、村長は洞窟の場所を知っている唯一の人物ということで、彼に案内を頼むことになった。ルーナの提案通り、原石の力を使って村を守る方法を模索するため、一行は再び準備を整え、洞窟へ向かうことになった。

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