第9話 村長の娘 アリー
山賊たちが去り、戦いが終わった後、フレンはふと気づいたように、怯えていた少女の方を見た。彼女はまだ震えているが、安心した様子でフレンとルーナを見上げている。フレンはため息をつきながら、優しく手を差し伸べた。
「ほら、もう大丈夫だ。立てる?」
少女はフレンの手を掴み、震えながらも何とか立ち上がる。
「ありがとうございます……助けていただいて……」
「お礼なんていいさ、まったく……なんで俺が助けるハメになるんだか、ちゃんとスキルがどの程度回避できるのかまだ分かってないのに、ルーナが首根っこを掴むから……」
ルーナは微笑を浮かべながら、フレンを軽く咎めるように言った。
「スルースキルをお持ちだからといって、何もかも避けるわけにはいきませんよ、フレン様」
フレンは眉をひそめ、不満げにぼやく。
「だからって、もう少し俺の意思を尊重してくれよ。危ない目に遭うのは嫌なんだよな、ほんとに。ああもう、俺の気楽な旅が……」
「でもこうして助けられたのですから、フレン様も少しは気持ちが良いのではありませんか?」
「……はぁ、なんでそんな風に気持ち良くなると思ってるんだ? 危険な目に遭わずに済む方がよっぽど気分が良いってのに」
フレンは「ルーナが出ていかなかったら俺はいかなくて済んだのに……」とぶつぶつ愚痴をこぼしながら、怯えていた少女に視線を向けた。
「悪いな、君の前で痴話喧嘩みたいになっちまって。ところで君はなんて名前だ?」
少女は少し緊張しながらも、フレンに向かって小さな声で答えた。
「はい、私アリーといいます。この先の村の村長の娘なんです……!」
「村長の娘? もしかして、そういうわけで狙われたのか?」
フレンの憶測は正しかった。
「はい……山賊たちは私を拉致して、村の情報や財産を聞き出そうとして……私、怖くて……」
「マジか」
ルーナがアリーの肩に手を置き、優しく微笑みかける。
「ご無事で良かったですね、アリーさん。しかし村では大変なことが起きているのですね」
「はい……私たちの村には、貴重な鉱石があり、それを狙う山賊やモンスターが増えているんです。村長も対応に追われていて、私はそのせいで今日もここまで……」
フレンはそれを聞き、また少し不満げに顔をしかめる。
「ほらな、だから言ったろ? こんな面倒ごとに巻き込まれるなんて、俺の旅の予定にはなかったんだってば。俺のペースを乱さないでくれよ、ルーナ」
だが、彼女は真剣な眼差しでフレンを問い詰める。
「フレン様、もし私が無理やり止めなかったら、彼女はどうなっていたでしょうか?」
「うっ、それは……分かってるけど……」
「アリー様も拉致され酷いことになっていたでしょう、例えば——」
ルーナはフレンに耳打ちをし、小声で何かを囁く。
フレンは少し顔を引きつらせたかと思うと、頬を赤らめて視線を逸らした。
「いやいや、人質をそんな風にするなんて、あり得ないだろ……!」
「そうでしょうか? 女性であるアリー様がどんな酷い目に遭わされる可能性があったか、少し想像をお伝えしただけですが?」
「……なんか、ルーナ、お前の方がよっぽど怖いぞ」
そんなフレンを見て、ルーナは満足げに微笑む。
「ふふ、フレン様がスルースキルをお持ちでも、こうした現実には敵わないようですね」
「冗談を言ってるんだよな?」
「冗談とは一体なんでしょうね? 私はただ、アリー様も女性ですから、脱がされて男たちに凌辱の限りを尽くされる……その可能性の一部を述べただけです」
フレンは思わずルーナをちらりと見てため息をつき、しぶしぶ口を開いた。
「はぁ……分かったよ。もう一言もそんな話しないでくれ、頼むから」
ルーナは微笑みながら、アリーに優しく声をかける。
「ではフレン様、ひとまず彼女を村まで送って差し上げませんか? それが紳士というものでしょう?」
フレンはぼやきつつも、アリーの不安げな顔を見て、結局しぶしぶ頷いた。
「まぁ、ここでほっとくのも後味悪いしな……よし、村まで送ってやるよ、アリー」
アリーは嬉しそうに小さく頭を下げ、礼を述べる。
「ありがとうございます! 私、勇敢なお二人がいてくれて本当に助かりました……」
フレンは「勇敢」と言われたことに少し照れくさそうな表情を浮かべ、またぼやくように口を開く。
「勇敢っていうより、ただの巻き込まれたってだけなんだけどな……」
ルーナはそれを聞いて小さく笑いながら、フレンに言う。
「フレン様、なんだかんだ言って、最後はいつも人助けをしてしまうんですよね」
「それ、ほめてるつもりか? もう少し俺のスルースキルを尊重してほしいよな、ほんとに」
フレンはため息を吐いた後、再び少女に向き直った。
「はぁ……さ、行こうか。村長さんも心配してるだろうし、さっさと村まで戻ろうぜ」
「はいっ、道中よろしくお願いします!」
少女は嬉しそうに頷き、フレンとルーナに感謝しながら道を歩き始めた。フレンはぶつぶつと文句を言いながらも、どこか誇らしげな様子で、彼女たちと共に村への道を進んでいった。
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