第11話 また厄介ごとに
村に到着したフレンとルーナは、村長と村人たちに出迎えられた。
村長は中年の男性で、逞しい体格に深い皺が刻まれている。その表情には娘が無事に戻ったことへの安堵が見え隠れしていた。彼は駆け寄ると、アリーを力強く抱きしめた。
「アリー! 遅かったから心配したんだ……よく無事で帰ってきた、本当に良かった……」
「お父さん、心配かけてごめんなさい。でも、このお二人が助けてくれたの!」
アリーが指差した方向を見ると、フレンとルーナが立っていた。
フレンは少し気恥ずかしそうに立ち尽くし、ルーナはいつもの落ち着いた笑みを浮かべている。村長は二人に向かって深々と頭を下げた。
「お二人とも、本当にありがとうございました。娘を助けていただき、心から感謝いたします」
「いえ、大したことではありませんよ」
フレンが肩をすくめて答えると、ルーナが少し前に出て優雅に一礼した。
「ご無事で何よりです。アリー様がこのような目に遭われたと聞き、私たちも胸が痛みます」
「なんて上品で丁寧な方なんだ……!」
村長が驚く一方で、フレンはぼそぼそと不満げに呟いた。
「いやいや、俺はただ巻き込まれただけで……」
ルーナは振り返り、無言の圧をフレンに送るので、彼は仕方なく口を閉じた。
そんな二人の様子を見て、村長は微笑みを浮かべた後、再び表情を引き締めた。
「本当に感謝しております。お二人には村に泊まっていただき、ぜひお礼をさせてください。それと、少しだけお話をさせていただきたいことがあります」
「お礼は結構ですけど、宿をもらえるならありがたいかな」
フレンが答えると、ルーナがそっと微笑んで村長に向き直った。
「もちろんお話を伺うのは構いません。私たちでお役に立てることがあれば幸いです」
「え……そうだな、休みながら話を聞くくらいなら……」
話を聞いたらまた厄介ごとが降りかかってくるのではと思ったが、やめた。
フレンはぼそぼそと続け、村長の案内で広場の一角に設けられた木の椅子に腰を下ろした。
「お二方、ありがとうございます」
村長の隣には、鋭い目つきの青年が立っていた。
短く刈られた髪に整った顔立ちを持つその青年は、村長の側近だという。名をアランと言い、彼が村の状況を補足する形で話を始めた。
「我が村は山間部に位置し、特殊な鉱石を産出しているのですが、そのせいで山賊たちの目を引いてしまったようです」
「鉱石? そんなに価値のあるものなのか?」
フレンが少し興味を引かれたように顔を上げると、村長が頷いた。
「ええ。あの鉱石は武器や魔法具の素材として珍重されており、多くの商人が取引に訪れるほどです。ですが、その価値が高いがゆえに、山賊たちが頻繁に狙うようになりまして……」
「それで、娘さんまで巻き込まれたってわけか」
フレンはやや不機嫌そうに言ったが、アリーが肩を落とす姿を見て、少し言葉を和らげた。
「ま、助けられて良かったな」
「はい、本当にありがとうございます……」
アリーが小さく頭を下げる姿を見て、ルーナがフレンにささやくように言った。
「フレン様、もう少し優しい言葉をかけて差し上げても良いのでは?」
「はいはい、分かったよ……」
その言葉に、村長が少し苦笑しながら続けた。
「村を襲う山賊だけでなく、最近では鉱石採掘場付近に魔物が現れるようになり、村人たちは恐怖に怯えています。このままでは鉱石の採掘も難しく、村そのものが衰退しかねません」
「魔物まで出てくるのか……そりゃ確かに厄介だな」
フレンが思わず口を挟むと、アランが静かに視線を向けた。
「ですが、先ほどの話を聞いていると、お二人は非常にお強い方々だとお見受けしました。どうか、この村をお助けいただけませんか?」
「いやいや、俺たちにも都合ってものがあるからな——」
フレンが慌てて断ろうとした瞬間、ルーナが微笑みながら口を挟んだ。
「もちろん、私たちでお力になれることがあれば協力いたします。明日、詳しい状況をお聞かせいただければと思います」
「は?」
フレンは目を丸くし、思わずルーナへと振り向くが、彼女は全く意に介さない。
村長は彼女の言葉に感激した様子で、深々と頭を下げた。
「おお、本当にありがとうございます! ぜひ、よろしくお願いいたします」
「もちろんですわ」
村長が深々と頭を下げる中、フレンは不満げに小声でぼやいた。
「おいルーナ、勝手に決めるなよ……また面倒ごとになるだろ」
「フレン様、私たちが助けなければ、この村の人々はどうなってしまうのでしょう?」
ルーナが穏やかに答えると、フレンは言葉を詰まらせ、仕方なく肩をすくめた。
「……はぁ、分かったよ。どうせ断ったって、巻き込まれるんだろうしな」
やってしまったものは仕方ない。
今回だけだぞと念を押し、フレンは折れることにした。
「本当にありがとうございます! 村のみんなもきっと喜びます!」
村長が深々と頭を下げる。
その姿を見て、フレンは「どうせ断れないしな」と思いつつも、感謝されることが少し悪くない気持ちにさせた。
そして、フレンはすぐに表情を引き締めると、村長に向き直った。
「じゃあ……村を見て回るって言ってたけど、今すぐに行こうぜ。さっさと面倒ごとを終わらせたいからな」
「フレン様、焦りすぎです」
ルーナが軽く手を挙げて制止する。
「なんでだよ? 早く終わらせた方が楽だろ?」
「それはごもっともですが、長旅の疲れが残った状態で行動するのは賢明ではありません。それに、まずは村長様から詳しい状況を聞いて、対策を考えるべきかと」
「対策なんて、行って見れば分かるだろ」
「いいえ、準備不足のまま行動して失敗すれば、それこそ面倒な事態になります。フレン様も少し冷静になってください」
ルーナは柔らかな声ながらも、一切譲る気配を見せない。
村長も慌てて言葉を補足した。
「そうです、今夜は宿をご用意いたしますので、まずはお二人ともゆっくりお休みください。村のことは私たちに任せてください」
「いや、でも——」
「フレン様」
ルーナが軽く名前を呼び、フレンを諭しにかかる。
「疲労が溜まった状態では、フレン様の“強いスキル”も十分に活かせませんよ。それとも、明日、大事な場面で失敗されますか?」
「……分かったよ、休めばいいんだろ、休めば」
フレンは不機嫌そうに視線を逸らした。
「ありがとうございます、フレン様。では、今夜はしっかり休養をとり、明日万全の状態で行動しましょう」
ルーナは満足げに頷き、村長に向かって一礼する。
フレンは納得がいかない様子でため息を吐きながらぼそぼそと呟いた。
「なんか俺、最近ルーナにどんどん丸め込まれてる気がするんだよな……」
その小声に、ルーナが微笑みを浮かべて耳打ちする。
「お聞き逃しませんよ、フレン様。それは主従関係として正しい在り方です」
フレンはさらに大きなため息を吐き、肩を落とす。
アランの案内で宿に向かう道中、彼のぼやきはしばらく続いていた。
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