第20話 ドラゴン退治

 ドラゴンの咆哮が洞窟全体に響き渡る中、フレンとルーナは全速力で洞窟内を駆け抜けていた。


「おいおい、こんな狭い場所でよくあんなデカブツが動けるよな!」


 フレンが息を切らしながら後ろを振り返ると、ドラゴンが巨体を揺らしながら追いかけてきていた。地響きとともに岩が崩れ、彼らのすぐ後ろに落下する。


「フレン様、余裕そうに見えますが、それは錯覚でしょうか?」

「余裕なわけあるか、スルースキルなかったらとっくに死んでるぞ」


 フレンはそう言いながらも冷静に洞窟内の地形を観察していた。

 ドラゴンが追いかけてくるたびに、洞窟の壁が削られ、地面が崩れる。

 特に大きな岩棚の下に来ると、そのたびに崩落の危険があることに気付いた。


「おい、ルーナ。これ、もしかして仕掛けがあるんじゃないか?」


 フレンは足を止めずにルーナに話しかけた。


「仕掛け、ですか?」

「そうだ。ほら、壁の一部が不自然に削られてたり、足元が妙に平らだったりするだろ?」

「確かに……言われてみればそうですね」


 ルーナは周囲を見渡しながら頷いた。

 フレンは息を整え、さらに洞窟の奥へと進む。


「この洞窟、昔はもっとちゃんとした鉱山だったんじゃないか? その時に仕掛けたトラップが残ってるんだろ」

「なるほど、それを活用するのですね」


 ルーナが理解したように微笑むが、フレンは苦笑いを浮かべた。


「いや、活用するって言ったって、俺らの手でトラップを動かすのは無理だ。だから……ドラゴンに動かしてもらうしかないな」

「なるほど、フレン様らしい策ですね」

「皮肉か、それ?」


 ドラゴンがさらに迫る音が聞こえた。

 フレンはすぐに近くの通路を曲がり、壁際の石柱のそばに陣取った。


「こいつにここを攻撃させる。回避出来るのは俺しかいないから、ルーナは下がって身を隠していてくれ」

「承知しました」


 フレンはドラゴンが通路に差し掛かるのを待ち、わざとらしく大声を上げた。


「おーい! ここだぞ、こっちだ!」


 ドラゴンが咆哮を上げながら短い通路に入り込み、その巨体で動こうとした瞬間——


 ゴゴゴゴゴ……!


 ドラゴンの尾が石柱にぶつかり、天井が崩れ始めた。


「よし、いいぞ!」


 フレンは即座にルーナの手を引き、さらに奥へと逃げる。

 振り返ると、崩れた岩がドラゴンの動きを鈍らせていた。


「やったか?」


 ルーナが振り返りながら尋ねるが、ドラゴンは怒りの咆哮を上げながら瓦礫を払いのけ、再び彼らを追いかけてきた。


「……やっぱり、そんな簡単にはいかないか」


 フレンはため息を吐きつつ、さらに洞窟の奥へと進む。


「フレン様、次の策はどうしますか?」

「まだ逃げる! ほら、さっきから見てるだろ? この洞窟、案外広いんだよ。それに奥に行くほど通路が複雑になってる」


 ドラゴンを翻弄するように進んだ先には、広い空間が開けていた。


「ここか……!」


 フレンは足元の不自然な段差に気付き、その上に立った。


「ルーナ、こいつをここに誘い込む。多分、この場所が最後の決め手になる」

「わかりました」


 ドラゴンが通路から姿を現し、広い空間に入ってくる。

 その巨体が動くたびに地面が揺れ、岩が落下する。


「おい、こっちだ、ほら来いよ!」


 フレンはドラゴンを挑発しながら、足元の仕掛けが反応するように動き回る。ドラゴンが大きく尾を振り回した瞬間——


 ガシャン!


 地面が崩れ落ち、ドラゴンの巨体が穴に飲み込まれた。


「やった……!」


 ルーナが小さく呟きながら微笑む。

 フレンは大きく息を吐き、肩を落とした。


「……いや、本当にやったのか?」


 崩れた地面の下から、まだドラゴンの怒りの咆哮が響いていた。


「フレン様、どうやらまだ完全には終わっていないようですね」

「……そういうことは早く言えよな」


 フレンは再び逃げる準備をしながら、次の策を考え始める。




「さすがにしぶといですね。ですが、フレン様、ここまで来たらとどめを刺さねばなりません」


 ルーナが毅然とした声で言うと、フレンは眉をひそめた。


「いやいや、俺にどうやってやれってんだよ。あれだけの巨体、簡単には倒せないだろ」

「いいえ大丈夫です 回避スキルをお持ちのフレン様なら、きっと何とかできますわ」

「無茶ぶりにも程があるだろ!」


 フレンがぼやきながらも考えを巡らせていると、ドラゴンが崩れた地面から這い出し始めた。その巨体が岩を砕き、再び迫ってくる。


「ちっ、もう一回仕掛けを使うしかないか……ルーナ、今度は少し離れてろ」

「ですが、フレン様——」

「大丈夫だ、俺がルーナを守るから」


 フレンは軽くルーナを押し戻しながら、ドラゴンの動きを観察した。


「……こいつ、怒りに任せて動いてるな。なら、もっと誘導できるかもしれない」


 フレンはドラゴンの注意を引くように、足元の小石を蹴りつけて音を立てる。


「おい、こっちだぞ、バカドラゴン!」


 ドラゴンがフレンの声に反応し、大きな顎を開いて向かってくる。

 その巨体が地面を踏みしめるたびに洞窟が揺れる。


「よし、思った通りだ……あの柱を狙わせれば、今度こそあの天井を崩せる!」


 フレンはさらに奥の石柱の周りを駆け回り、ドラゴンを引きつけた。

 その動きを見ていたルーナが声を上げる。


「フレン様、どうか無茶はなさらないでください」

「大丈夫だ、今度こそ……!」


 フレンが口ずさみながら、柱に追い込まれた瞬間を見逃さなかった。

 ドラゴンの尾が振り下ろされる直前、フレンはスルースキルを発動して一瞬でその場を離れる。


「——ここだっ、回避ッ!!!」


 ゴゴゴゴゴッ……!


 ドラゴンの尾が柱を直撃し、それが引き金となって天井が大きく崩れ落ちた。


「グギャアアアアアアァァァァァーーッ!!」


 大量の岩がドラゴンの頭上に降り注ぎ、巨体が押しつぶされる。


「おお……やったのか?」


 フレンが息を切らせながら振り返ると、ルーナが駆け寄ってきた。


「フレン様、さすがです。本当にお見事でしたわ」

「いやいや、見事って……お前が無茶振りするからだろ」


 フレンは肩で息をしながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべた。


「これで洞窟も少しは静かになるだろうし、原石も探しやすくなる……って、おい、ルーナ?」


 振り返ると、ルーナが早速崩れた岩の隙間を覗き込んでいる。


「フレン様、こちらに光るものがあります。もしかすると原石では?」

「おいおい、もうちょっと落ち着けよ……って、マジかよ」


 フレンがルーナの隣に立ち、崩れた岩の中を覗き込むと、そこには青白く光る美しい鉱石が埋まっていた。


「これが……原石か?」

「間違いありません。フレン様、本当にありがとうございます」


 ルーナは満面の笑みを浮かべながらフレンを見上げた。

 その表情を見たフレンは、思わずため息を吐きつつも、どこか満足そうに頷いた。


「はぁ……やれやれ、俺のスルースキルも万能じゃないな」


 その言葉を最後に、二人はようやく一息つくことができる——そう思った瞬間だった。


『——そうじゃな、お主のスキルはまだ万能ではないのう』

「「!?」」


 どこからか、年老いた者の声が聞こえてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんでもスルー出来る回避スキルで楽して生きようとしたけど、なかなかスローライフできない件 れっこちゃん @rekkochan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ