第15話 明かされた理由

 ルーナが冷静な口調で問いかける。


「アランさん、どうしてここまで抵抗するのですか? 山賊とつながっているという話、本当なのですね?」


 アランはしばらく沈黙した後、苦笑を浮かべた。


「……ふん、知ってどうする? どうせ、あの村なんて守り切れやしない」

「どういうことだ?」


 フレンは眉をひそめると、アランは目を伏せたまま言葉を続ける。


「山賊どもが村を狙う理由は金だけじゃない。鉱山に眠る“あの原石”が欲しいんだよ」

「原石……?」


 ルーナが怪訝そうに首を傾げる。


「詳しいことは知らねえが、あの原石には普通の鉱石とは違う力があるらしい。それを手に入れるためなら、あいつらはどんな手段でも使うだろうさ」


 フレンは大きく息を吐き、腕を組む。


「なるほどな。結局、欲に目がくらんだ連中が問題を引き起こしてるってわけか」


 ルーナは冷たい目でアランを見下ろしながら静かに告げた。


「そのために村を襲わせたのですね。それだけでなく、私たちにまで危害を加えようとした……許されることではありません」


 アランは何も言わず、ただ苦笑を浮かべているだけだった。

 フレンがアランを押さえつけている中、ルーナは冷静な視線をアランに向けた。

 その表情には冷たい怒りが滲んでいる。


「アランさん、山賊と繋がっているだけではなく、さらに何かを隠しているようですね。どうしてそこまで原石に執着するのですか?」


 アランは苦笑を浮かべたまま、ルーナを見上げる。



「……ふん、どうせお前たちには関係ない話だ。いくら知ったところで、この村を守るには何も変わらねえよ」


 フレンが呆れたようにため息を吐き、腕を組む。


「またその話かよ。いい加減にしろよな。さっさと全部話してくれりゃ楽なのに」


 ルーナはフレンを制止するように軽く手を挙げると、さらにアランに問いかけた。



「アランさん、貴方はただの村の側近ではないのでは? そのスキルを持っていることが何よりの証拠です」

「どういうことだ?」


 ルーナはきょとんとした表情をしながら答えた。


「覚えていないのですかフレン様、スキルというものは誰にでも得られるものではありません。基本的にスキルは、裕福な者や身分の高い者が教会に多額の献納をすることで授けられるものです」


 フレンは首を傾げ、少し面倒くさそうな顔をしながら言った。


「そうだっけ……まぁ、元々興味なかったから忘れたのかもしれない」


 ルーナはため息をつきながら、呆れたようにフレンを見つめた。


「フレン様、知識というものは状況を見極める上で非常に重要なのです。まったく、私が何度お教えしたと思っているのですか?」

「それはごめん。俺には関係ないことだと思ってたんだよ」


 とフレンは肩をすくめる。

 ルーナはアランに視線を戻し、少し声を低くして言った。


「では、改めて説明しますが、スキルというのは誰にでも手に入るものではありません。裕福な貴族や、教会に多額の献納ができる身分の高い者しか得ることができないのです」


 フレンは頷きながら口を挟む。


「ってことは、アランはただの村の側近じゃないってことか?」

「その通りです」


 とルーナは厳しい表情で続ける。


「上位スキルではないとはいえ、『影分身』のような能力を持つ者は、身分の高い出身であるか、相応の後ろ盾を持つ者であるはずです。そして、そのスキルを使ってまで何かを隠そうとするということは……」


 フレンが興味を引かれたようにアランを見つめる。


「なるほど。ということはお前、何か大事な秘密を抱えてるわけだな?」


 アランは歯を食いしばり、目を逸らした。


「……だからなんだ? 俺の出自なんてお前たちに関係ないだろ」


 ルーナはアランの反応を見て、さらに追及を続けた。


「つまり、貴方は山賊たちと繋がっているだけではなく、その背後にいる“身分の高い者”とも関わりがある、ということでしょう?」


 アランはわずかに身じろぎしたが、冷たい笑みを浮かべた。


「ふん、そうだとしたらどうする? 村の連中には逆らえるわけがない」

「その“身分の高い者”とは誰なんだ?」


 いつになく、フレンの声には冷たさが増していた。

 アランは視線をそらしたまま、低い声で答えた。


「……アルフォード侯爵だ」

「アルフォード侯爵……」


 ルーナがその名を呟くと、フレンは少し眉をひそめた。


「そいつ、有名なのか?」

「ええ、フレン様。アルフォード侯爵は貴族の中でも特に強欲で、悪名高い人物です。財産や権力を手にするためには手段を選ばないことで知られています」


 フレンは腕を組み直し、深いため息を吐いた。


「悪名高いって……それがどうして村なんかにまで手を出すんだ?」


 アランは静かに笑いながら答えた。


「原石だよ。あの鉱山に眠る“特別な原石”が欲しくてたまらないんだ。あれにはただの鉱石とは違う力があるらしい」


 ルーナが眉をひそめる。


「特別な力……?」

「詳しいことは俺も知らねえ。でも、その原石があれば新しいスキルを生み出せるって話だ。それを知った侯爵が欲しがらないわけがないだろう」


 フレンは呆れたように肩をすくめた。


「スキル絡みかよ。ほんと、金持ちってのは欲深いな」


 ルーナは毅然とした表情でアランを見下ろした。


「村の平和を犠牲にしてまで手に入れるべきものではありません。アルフォード侯爵にこの村を渡すつもりはありません」


 アランは皮肉げに笑った。


「お前たちに何ができる? 侯爵に逆らうなんて無謀だ」


 フレンは疲れたように首を振りながら、「逆らうかどうかは別として、お前みたいなやつを放っておくわけにはいかねえだろ」と言い放った。


 ルーナは冷静な声で告げる。


「アラン様、これ以上の抵抗は無意味です。すべてを村長様に伝え、この事態を解決する方法を考えます」

「そうだな、後のことはあいつらに任せよう」


 フレンとルーナは彼を連れて森を抜け、村へと向かう。

 だが、楽に生きたい——フレンの思惑通りにはまだいかなさそうだった。

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