第九幕 「助言」
「月静おばちゃん」とは……、幽子の祖母の事である。
確か本名は静(シズ)さんだったと思うが、子供の時に回りの大人が「月静先生」と言っていたのを真似て、自分は幽子の祖母の事を「月静おばちゃん」とか「月静さん」と言っている。
ちなみに、幽子の祖母に名前について聞いたところ、月静おばちゃん曰く「特に意味はないよ、強いて言うならただの芸名じゃよ!」と言っていた。
祖母の名前を聞いた幽子は「アッ!」と思い出したかのような声を上げて、そして少し冷静に戻ったのか、「おばあちゃんに聞いてみるよ。」と言ってポケットから携帯電話を取り出して電話をかけ始める。
電話をかけ始めておそらく何コールかしたくらいのタイミングで「あっ、おばあちゃん!」と幽子が電話に向かって喋り始めた。
「良かった!」
と、自分も含めその場にいた部員達は、少し安堵の表情をした。
もし幽子の祖母が電話に出てくれなければこの場は、詰みになっていたであろう。
でも、まだ問題が解決した訳ではない。
あとは幽子と幽子の祖母に命運がかかっている。
自分達は、祈るような気持ちで幽子の電話に聞き耳を立てていた。
幽子は、「おばあちゃん!ちょっと今大変な事になっていて……」と言って、今控え室で起きている事を祖母に説明している感じだ。
そして、祖母から何か指示を受けているのか「うん…、うん…」と、幽子は返事を返しているのだが、突然幽子が「えっ!私、無理だって!」と言う返事が聞こえた。
そんな言葉が聞こえ、焦った自分は「頑張れ幽子!頑張れ幽子!君なら出来る。」と、幽子に念を送り始めた。
そして、「うん…、うん…、うん……」と、何度か頷いたあと「分かったよ……、それでどうするの?」と、幽子の電話の内容が解決へと向かっている返事に変わって行くのが分かる。
そして幽子が、「おばあちゃん、ちょっと待って。」と言う言葉を発して、自分達に「紙とペンを持ってきてくれ。」と指示をしてきた。
その言葉に先輩が「ちょっと待って!」と言ってポケットからペンを取り出して、別の先輩が会場近くに貼ってあった怪談会のポスターを剥がして裏面を見せて渡してきた。
機転が効く先輩達である。
幽子はそれを受け取ると、ポスターを廊下に置いてしゃがみこみ、「おばあちゃん良いよ。」と受話器に言って何やら書き始めた。
自分達はその様子をしばらく見ている。
しばらくした時、「うん、うん、分かった!また終わったら連絡する、おばあちゃんありがとう。」と幽子は言って、携帯電話の通話ボタンを切った。
そして少し考えた幽子が「今から作戦と、ちょっと準備してもらいたい物があるから聞いてもらいたい。」とみんなに告げた。
幽子の作戦を聞いた部員のみんなは「あぁ、分かった。」、「了解。」と了承したが、一人の先輩が「ちょっと待って!」と意見を述べてきた。
先輩は、「作戦自体は問題ないんだけど、万が一があるから隣の怪談会が終わってからにしないか?」と提案を求めてきた。
そう!隣の会場では怪談会は続いていたのだ。
どうやら、自分が幽子を探しに行ったあと司会の方は部長の関口さんが引き継いでくれたみたいで、怪談会の方も何とか数名のメンバーで回して続けてくれているみたいだ。
流石にこう言う時は、本当に頼りになる部長である。
さて!話を戻そう。
先輩の意見を聞いた部員からは特に反対の意見は出ず、怪談会の方もどうやら部長の関口さんの話を残すのみである。
これならば怪談会終わりに決行した方が人目もつかず、お客さんを出した後に安全に作戦を行えて、さらに。多少時間もあるのでそれまでに幽子に言われた物を準備も出来る。
それを聞いた幽子の方も「了解した、君の言う通りにしようよ」と先輩に言って、続けて「では、決行は隣の怪談会が終わったあとにする、みんな作戦の準備を頼む。」とその場にいた者に告げた。
時間まであまり時間がない、早速全員で作戦の準備に取りかかった。
自分と幽子は木村さんの様子を控え室の外から監視しながら、作戦の打ち合わせをしていた。
幽子の話では先ずは木村さんを旧校舎から出さないと行けないとの事で、おそらく素直に外に出ないであろう木村さんを、どちらが取り押さえるか相談をしていた。
「やっぱり俺がやるよぉ、仮にも幽子は女の子だし、危ないじゃん」と、自分は真面目に幽子を止めた。
その忠告に幽子は「仮にとは何だ!私はれっきとした女の子だぞ。
まぁ、心配は無用だ、それにしんいちよりも私の方が上手いじゃないか。」と幽子はやる気満々で答えてきた。
先ほどの怯えた幽子ではなく、いつもの幽子に戻っている。
「じゃあ、分かったよ。自分も直ぐに加勢に入るから任せてよ。」と幽子に言った。
そんな話をしていると幽子に頼まれていた物を持った部員の皆が集まってきた。
そして星野さんも戻ってきて、「幽子ちゃんこれでいいの?」と幽子が御札を作る時の道具が入っている巾着袋を手に持っていた。
幽子は「ありがとう星野さん。」と言って受け取ると、一度中身を確認してから、また星野さんに渡して「ゴメン、少しの間預かっててくれないか?」と頼んだ。
星野さんは快く引き受けて自分のリックサックの中に巾着袋を締まっている。
そんなやり取りをしていると、隣の怪談会の会場から大きい拍手が聞こえ賑わい出してきた。
どうやら怪談会が終わったようだ。
拍手が鳴止んでしばらくすると会場のドアが開いて来場者の方々がガヤガヤと出てくる。
自分達は不自然にならないように廊下に並んで、来場者の人達に「ありがとうございました。」と挨拶をしてお見送りをした。
来場者がすべて出たあと、関口さんが会場から出てくると自分達を見つけ、「おーぉ!皆揃っているじゃん。」と声をかけてきた。
緊張の糸が切れたのか関口さんは少しお疲れの様子だ。
自分は透かさず「お疲れ様でした、大変でしたね。幽子連れてきましたよ。」と関口さんに労いの言葉をかけたあと、関口さんに先ほど控え室で起こった事や、これからのやる作戦を伝えた。
関口さんは、「まぁ、仕方ないね。こうなってしまっては僕ら達では解決出来ないから、幽子君としんいちに任せるよ。」と、言って最後に一言「気を付けてね。」と心配の言葉をかけてきた。
自分は関口さんに「ありがとうございます。」と、お礼を言って、幽子に向かって「ボチボチやろうか!」と告げた。
幽子も「じゃあ!作戦開始だな。」と返してきて控え室のドアノブに手をかけた。
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