三軒目「昇太」
話は昨年の夏の事だった。
町内会の日帰りキャンプは、陽射しが眩しい晴天の下で行われていた。
昇太くんと美奈子さんは、元気いっぱいに遊び回る子供たちの中にいた。
美奈子さんの体調を気遣い、当日は陽介も参加していたとの事だ。
昼食を終え、片付けをしている一瞬の隙に、昇太くんが忽然と姿を消しまった。
周囲には子供たちの笑い声が響いていたが、誰も昇太くんの行動に気づいていなく、近くにいた保護者たちも、彼の姿を見た者はいなかった。
まるで、神隠しにでもあったかのように。
事態は急を要した。
保護者たちはすぐに捜索を開始し、陽介もその一員として必死に呼びかけ懸命に探し回るのだが……。
しかし、昇太くんの行方はようとして知れず、警察も介入し、警察犬も動員されたが、手がかりは一向に見つからなかった。周囲の大人たちの不安が募る中、自分の両親も知らせを受けて駆けつけ、捜索に加わっていた。
そして数日後、昇太くんは冷たい姿で発見された。
キャンプ場から数キロ離れた川の中だったそうだ。
水深は子供の膝上ほどで、警察や保護者たちが何度も捜索した場所にもかかわらず、なぜか見逃されていた。
陽介の家族に降りかかった出来事は、まるで悪夢のようだったであろう。
こんな名探偵でも解決できないような事件は、マスコミが食い付き、波に乗って連日報道を繰り返した。
軽率なコメンテーターたちの発言は、まるで火に油を注ぐかのように、SNS上では母親を責める誹謗中傷が飛び交った。
美奈子さんは心労に苛まれ、ついには入院する事態に追い込まれてしまった。
しかし、幸運にも親戚や周囲の助けを得て、今は何とか平穏を取り戻すことができていた。
だが、その平穏が訪れた途端、日向ちゃんの件や、美奈子さんが見たという幽霊の話が再び陽介の家族に闇を照らし出してきたのだ。
これだけの不幸が続くのは、さすがにおかしいとしか言いようがなかった。
陽介は真剣な眼差しで、自分に向かって、「しんいちって、昔からそんな話が好きだったじゃん?俺が言ってることは不謹慎かもしれないけど、ここまで来るとオカルト的なことが関わっているんじゃないかって考えが、どうしても頭から離れなくて……。だから、もしかしたら何か分かるかと思って相談に来たんだ。」と訴えてきた。
陽介の真剣な頼みに、なんとか応えてやりたいと思い、自分は少し考え込み陽介にこう答えた。
「家と言えば、やっぱり事故物件が一番に頭に浮かぶけど、陽介の家は新築だったよね?自分も行ったことあるけど、すごく綺麗だったし、新築特有の匂いもしたしさぁ。そう考えると今の家が問題があるとはちょっと考えられないんだよ」
陽介は頷きながらも、何かを考えている様子だった。
自分はさらに続けた。
「あと、考えられるのは土地かなぁ?」
「土地?」陽介は疑問の表情を浮かべ、自分の言葉を繰り返した。
自分は少し身を乗り出し、「陽介の家が建つ前のことなんだけど、何か聞いてない?その場所に何が建っていたとか、そこで何か起こったとか。噂でもいいんだけど……」と尋ねた。
陽介はしばらく考え込んでから、首を振った。「ごめん、聞いたことないなぁ……。何か調べる方法ってあるのかなぁ?」と、自分に問いかけるように言った。
自分はさらに考えを巡らせた。
土地に関する情報なら、登記簿を調べることができるかもしれない。
もしその場所で事件や事故があったのなら、新聞記事を探すことも考えられる。
しかし、そんなことをするにはかなりの時間がかかるだろうし、中学生の自分たちにできることなのだろうか?最近では事故物件を調べるサイトもあるが、新築の物件に何かしらのマークがついているのかどうか、疑問が残った。
考えが行き詰まったとき、ふと一人の女性の顔が思い浮かんだ。「幽子だったら分かるのかなぁ?」と、自分はポツリと呟いた。
陽介はその言葉に反応し、しんいちの目を見つめた。
「幽子……?、あぁ、前にしんいちが言ってた変わった女の子の事?彼女何か知ってるの?」陽介の声には期待が混じっていた。
自分は静かに頷いたが、心の奥では少し唸っていた。幽子がこの手の頼み事に全く乗り気にならないことを、自分は知っていたからだ。
最近では、「やる気を引き出すため」という妙な理由を口にし、報酬を要求する始末だ。その言葉を聞くたびに、自分は少しだけ苦笑いを浮かべてしまう。
幽子にとって、霊感は決して良いものではないらしい。彼女はそれを「障害」と呼び、その力を嫌っている印象を受ける。
さらに、幽子の霊感の噂を聞きつけて、視てもらおうとする人々の中には、霊感や霊視を占いと勘違いしている者が多い。
そんな人々を選別し、断るための理由として「報酬を取る」と言っているのではないか?と自分は思っている。
他にも懸念する事があった。
良く幽子が言っている事なのだが、彼女は「霊感は万能ではない」とも言っている。
「霊感とは、単純に霊を視たり、感じたり、声を聞いたりも出来る。もちろんお祓いなんて物もあるが、でも出来ることと言えばそれくらいだよ」と、彼女はいつもそう説明する。
さらに幽子は「良く、サトリのように心を読んだり、未来予知や遠くにあるものを言い当てたり、他には性格やオーラを言い当てるなんてものもあるが、それは霊感ではなくて超能力や占い、もしくは洞察力や推理で、霊感とは全く違うものだよ」とも言っていた。
本当に幽子が言うように霊感とは、幽霊のような存在を感じるだけの能力なら、美奈子さんが見たという幽霊は、幽子なら何とかなるかもしれない。
土地や、建物に何かいると言うなら、それもきっと何とかなるのではと思う。
しかし、ただの偶然や不幸の連鎖という話になってしまったら、幽子でもどうしようもないよなぁ?という考えが頭をよぎり、少し不安な気持ちが胸をよぎった。
その時、陽介が真剣な表情でこちらを見つめ、「その幽子さんって方なら分かるかもしれないんでしょ?どんな結果になっても良いから、彼女を紹介してくれないかなぁ?」と頼んできた。彼の目には切実な思いが宿っていて、思わず心が揺れた。
自分は少し考え込みながら、「陽介の家のことは早くしないと、もっと酷くなってしまうかもしれないし、幽子なら自分にはない知識で新しい発見もあるかもしれない……」と、心の中で葛藤しつつ考えを続けた。
「今回はちゃんとした依頼になるし、幸い、報酬なら陽介は料理の達人だ!幽子が要求するものは何でも作ってくれるだろう」と、少し安心感が広がった。
決心を固めた自分は、力強く頷いて、「分かった、幽子に聞いてみるよ。」と告げた。
陽介の表情が明るくなり、少しホッとしたように見えた。
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