第七幕 「捜索」
旧校舎の外へ出たものの、うちの高校はかなり大きい。
校舎をしらみ潰しに探しても時間がかかり過ぎてしまい、勘で探しても全く見つかる気がしない。
自分はまず、携帯電話を取り出して幽子に電話をしてみるのだが、コール音がするのみで全く電話に出てくれない。
幽子の事だ、自分からの呼び出しに備えて携帯の電源を切っているのか、バッグの中にでも置きっぱなしにでもしているのだろう。
幽子のしたり顔が浮かんだ。
でも、幽子の好きにはさせない!
自分は一計を案じてすぐに、放送室に走って行った。
放送室の前まで来た自分は、ゆっくりと重い防音扉を開けて「すみませーん」と挨拶をした。
「はーい!」と言う声が聞こえて、放送室の中を見ると放送部の方が2人いて、自分の様子を伺っている。
自分は改めて「すみません、ミステリー研究会の者ですが、至急放送で呼び出してもらいたい人がいるのですがお願い出来ますか?」と2人に頼んでみた。
放送部の方は、自分が来た理由が分かったのか「あっ、はい!分かりました。誰を呼びますか?」と丁寧な対応で聞いてきた。
自分は「部員を呼んで欲しいのですが、ちょっと紙とペンをお借りしてよろしいですか?」と言って読んでもらいたい内容を書き出して放送部の方に渡した。
内容を読んだ放送部の方は「これを放送するんですか?」と困惑した表情を浮かべ答えてくる。
自分は「ちょっと変わった奴でこれくらいしないと来ないんですよぉ、本当にすみません。」と手を合わして懇願してみた。
放送部の方は少し困った様子だったが「あぁ……、はい!良いですよ……。」と言って放送をしてくれた。
「迷子のお知らせをします。
1年4組のササキ セイラさん、1年4組のササキ セイラさん。
ミステリー研究会のスギモト シンイチさんが旧校舎の入り口で待っています。
至急、旧校舎入り口までお越し下さい。
尚、もし来ない場合はササキさんの秘密を部員の方にばらすと言っております。
至急、旧校舎入り口までお越しください。」
と全校中に放送が流れた。
流石に幽子もこれならば来るだろうと、自分はまるで映画の悪役のように「ニヤリ」とほくそ笑む。
そして放送部の方に丁寧に御礼をして急いで旧校舎の入り口まで戻った。
入り口近くで幽子の到着を待っていると、遠くの方で赤黒い闘気をまとった幽子の姿が見えてきた。
「あーぁ!来た、来た。」
自分は「こっち!こっち!」と手を振って幽子にアピールする。
それに気づいた幽子は、回りを威圧するように近づいて来る。
「わーぁ!怒ってるな~ぁ。」
と、幽子の方を見ていると、横でクスクス笑いながら「まぁ!まぁ!」と言わんばかりに幽子をなだめている星野さんの姿もあった。
自分のところに来た幽子は手にチュロスを持っていて、端から見たらまさに迷子の子供だが、表情はギリシャ神話のメデューサのような恐ろしい目で睨みつけてきた。
そして幽子は開口一番、「君はなんて放送をするんだ!常識と言うものはないのか?」といろいろと文句を言っているみたいだが、自分はそんな幽子の言葉を完全に無視をして星野さんに、「楽しんでる時に呼び出しちゃってゴメンネ。
ちょっと幽子借りるけど良いかなぁ?
すぐに返すから。」
と、星野さんに向かって手を上げてゴメンと言う表情をしてお願いをした。
星野さんは心良く応じてくれて、自分は幽子の捕獲に無事に成功した。
星野さんとそんなやり取りをしてる間にも幽子は何か文句を言っていたみたいなのだが、完全に無視をしていたので特に聞こえていない。
自分は文句を言っている幽子の手を持って、星野さんに「ありがとう!」の手を振って幽子のを旧校舎まで引っ張って行こうとする。
そうすると、幽子が焦った顔で「ちょっと待て!ちょっと待て!」と抵抗をしてくる。
「なんだよぉ!急いでるのに~ぃ。」
と焦りの気持ちが出ている自分に幽子は、「君はおかしいのか?何の理由も言わずに人を連れていこうなんて、人さらいと一緒じゃないかぁ。」とじたばたと抵抗している。
そんな幽子を見て「あれ!言ってなかったけ?」と言ってとぼけてみせる。
流石の幽子も怯えて星野さんを盾にして後ろに隠れてしまった。
2人のやり取りを見てた星野さんは大笑いをして「まぁ!まぁ!」と言う感じで幽子を落ち着かせ星野さんは幽子に変わって「何があったんですか?」と自分に聞いてきた。
同い年とは思えぬ大人の対応である。
自分は幽子と星野さんに怪談会で起こった事を説明をした。
その話を聞いた幽子はため息を漏らしながら、「君に言ったよなぁ、絶対に連絡してくるなと……。」
さらに幽子が「それでどうなんだ?そんなにヤバいのか?」と自分に質問をしてきた。
その質問に自分は一言「ヤバいね!」と返す。
幽子は「ハーァ」と一つため息をついて、「しょうがない……、早く案内したまえ。」と諦めたように言ってきた。
幽子の横にいた星野さんは「幽子ちゃん!頑張って!」と肩を叩いて励ましている。
2人のやり取りはまるで発表会直前のお母さんと子供のようだ。
自分は「じゃあ!行こうか。」と言う言葉と共に気を引き締めて、2人を連れて控え室に急いで向かった。
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