幽子さんの謎解きレポート
しんいち
Epiphone0 プロローグ
「僕の友人」
自分には1人の友人がいる。
名前は
彼女の本名は
普通は嫌がりそうなものなのだが……。
ちなみに自分の名前は、
幽子との出会いは、思い返せば小学3年生の頃に遡る。それはある晴れた日のことだった。
その日、道場に練習に行くと、いつもとは違う雰囲気が漂っていた。道場の扉を開けると、そこにはかわいらしい少女とおばあさんが立っていた。
その少女が幽子だった。
当時の彼女は小柄で、少し緊張した面持ちでおばあさん(幽子の祖母)の手を握り下を向いていた。
道場の先生が「新しく入る子だから。しんいち仲良くしてやってくれ」と彼女を紹介された。
どうやら彼女は最近、自分と同じ学校に転校してきたそうで、家も近く同い年だった。
ただ、道場では一年先輩という立場。少しの緊張感が漂う中、自分は彼女に微笑みかけてたことを思い出す。
幽子の祖母からも「おとなしい子だからお友達になってあげてね」と言われたその言葉が、自分の心に小さな期待を抱かせていた。
単純な自分は、無口な彼女と仲良くなるために、毎日のように話しかけることにした。
道場の練習が終わった後、自分は彼女に色々なことを話しかけた。
学校のこと、友達のこと、好きな遊びのこと。幽子はいつも静かに聞いているだけで、時折、微かに頷くことはあっても、言葉を返してくれることはなかった。
彼女の目はいつも寂しげに下を見つめているようで、まるで自分の声が届いていないかのようだった。
あとで知ることになるのだが、自分は幽子が抱えていた心の闇を知ることになる。
当時の、彼女はあることが切っ掛けで人間不信に陥っていたのだ。
おとなしいから無口だったのではなく、自分の存在を無視していたのだと。
幽子は、自分が無邪気に話しかけるたびに心の中で「ウザイ!」と呟いていたらしい。
しかし、自分のしつこさに彼女は次第にこんな風に思うようになっていったそうだ。「おそらくこの人は、私が喋るまで諦めないんだろうな」と。
そんな彼女の心の中で、ある考えが芽生えた。「いっそ喋った方が、コイツは静かになるんじゃないか?」
そんな感じで、幽子は少しずつ自分に言葉を返すようになってきた。最初は小さな声で、まるで自分自身の心の中で葛藤しているかのように。
自分の存在が、彼女の心の壁を少しずつ崩していったのだと思う。多分……。
今の幽子も、相変わらず無口で、周囲には人を寄せ付けないオーラを常に放っている。彼女はそのオーラを「
ただ、自分にはその「不言不語の術」が効かないらしい。
普通に話しかけてくる自分に対して、幽子は時折首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべている。「何故、私の術が効かないんだ?」と。
まるで自分の力が通じないことに戸惑っているかのようだ。
彼女との日々は、時に奇妙で、時に心温まるものだった。彼女の無口なオーラの裏には、どこか愛らしい一面が隠れていることに気づいたのだ。
幽子の事は大切な友人でもあり、今では一緒に不思議な事件を解決していくパートナーだと思っている。
もちろん、彼女も自分の事を友人だと思っているに違いない。
多分……。
自分たちの間には、言葉以上の何かが存在しているように今は感じている。
そんな幽子には「不言不語の術」以外にもさまざまな特殊能力がある。
その中でも特に際立っていたのは、人には見えないものを感じ取る力……
いわゆる霊感であった。
その事を知ったのは幽子と知り合って、しばらく経った事だった。彼女との会話が少しずつ増えていく中で、ある日、静かな声で彼女が口を開いた。「私……」と。彼女は自分の特異な能力について語り始めたのだ。
幽子にとって、自身の力を打ち明けることは、いつも通り気味悪がられ、自分との距離が空いて離れてくれることを狙ったのかもしれない。
しかし、自分の心は彼女の言葉に引き寄せられた。生来のオカルト好きな自分は、彼女の話を聞くうちに目を輝かせ、「えっ!マジ?」「どんなものが見えるの?」「恐い体験あるの?」と、矢継ぎ早に質問を投げかけた。幽子の驚いた表情が、自分の興奮をさらに掻き立てていた。
当時の自分の周りには、オカルト的な話をできる友達がいなかった。だからこそ、幽子の能力を知った瞬間、「絶対仲良くなりたい」と心の中で叫んでいた。「オカルト話ができる友達ができた!」という喜びが、自分の胸を満たしていった。
彼女の境遇を知ったとき、自分は思わず「俺たちもう友達じゃん、ずっとそばにいるよ」と言った事もあった。彼女の特異な力が、自分と幽子の距離を埋めるきっかけとなったのだ。
ただ、幽子の方は、自分の反応に驚きと戸惑いを隠せなかった。「しまった!こんな人がいるなんて」と、内心で自分の能力について話してしまったことを後悔していたそうだ。
しかし、自分にはその微妙な心情は全く伝わらず、学校で会うたび、道場で顔を合わせるたびに、自分はニコニコと話しかけ続けた。
「もういいや、諦めよう」と幽子は思ったのだろう。彼女の心の中で、自分との距離が少しずつ縮まっていくのを感じながらも、彼女はその思いを抱えたまま、自分との関係を受け入れることにしたそうだ。
今、自分たちは同じ高校の同じクラスに通っている。幽子の不思議な能力のせいなのか、あるいは自分自身のオカルト的な興味を引き寄せる力なのか、彼女と一緒にいると、さまざまな不思議な体験が次々と訪れる。
そんな幽子と一緒に体験した話を、みんなにも聞いてもらいたいと思う。
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