第十三幕「後夜祭」

旧校舎での一連の事件は、ついに終焉を迎えた。しかし、その静寂の中で、一人だけ無事ではなかった者がいた。


木村さんである。


彼が目を覚ましたとき、目の前に広がっていたのは、まるで悪夢のような光景だったであろう。

全身が水浸しで、身体中にはロープで縛られた跡やアザが無数に刻まれていた。

さらに、幽子が投げた際に出来たであろう打ち身も痛々しく、彼の仮装のメイクも相まって、何かの災害にでも巻き込まれたかの様に、ボロボロで満身創痍のように見えた。


特に酷かったのは、彼の腕だった。

後に聞いた話によれば、骨にひびが入っており、靭帯も痛めていたという話だった。

しばらくの間、木村さんは腕を吊ることを余儀なくされることになったのだ。

まぁ、あの異常な体勢で、幽子や自分自身を持ち上げようとしたのだから、当然の結果とも言える。


でも、一時は本当に危ない状態だったので怪我はしたけど生還出来て何よりである。


木村さんは、仮装のメイクを落とし、着替えを終えた後、最木先生に保健室へと連れ去られていった。


そして自分たちは、旧校舎に向かう準備をしなければならなかった。

着替えや怪談会の片付けが待っている。

あの恐ろしい出来事が起こった場所に戻るのは、正直言って気が進まなかったが、片付けがあるので仕方がない。


その時、幽子はみんなから一歩引いて、

「私はもう十分仕事をしたから、君たちゼッッッタイに呼ぶんじゃないぞ!ふんっ」と、まるで子供が拗ねたように膨れっ面で言い放ち、彼女は星野さんと共に、学園祭の賑わいの中へと戻っていった。


しかし、そんな言葉を吐いていた幽子に、部員のみんなは、「幽子さん、本当にありがとう」、「ありがとう」、「幽子さんお疲れ様」と感謝の言葉をかけていた。

幽子は驚きと、少し照れくさそうな表情をしていたのを自分は見逃さなかった。


彼女を見送った後、部長の関口さんが声を上げ、少し疲れた感じで「みんな、戻ろうか!」その言葉に促され、自分たちは旧校舎の控え室へと足を進めた。

心の中には、あの恐怖の記憶がまだ色濃く残っていたが、仲間たちと共にいることで少しだけ安心感を得ていた。


会場に戻ってきたものの、怖い気配はまだ会場を包んでおり、心の奥にまだ恐怖の影を抱えていた。

しかし、片付けが始まると、忙しさがその不安を少しずつ薄めていった。

部員たちと共に作業を進めながら、笑い声や会話が飛び交う中で、先ほどの出来事は次第に遠い記憶となっていった。


早めに片付けを始めた自分達は、学園祭の終了まであと1時間というところで、旧校舎の片付けを完了させていた。

そして自分は、仲間たちと肩を並べて旧校舎を後にする。


外に出た時に自分は一瞬振り返り、旧校舎の入り口を見た。

自分の心の中にはもう二度とこの場所には戻りたくないという強い思いが渦巻いている、自分は、仲間達に導かれるように静かにその場を離れた。


自分達は一旦部室に戻り後夜祭までの時間を過ごしていた。

部室の中は、旧校舎とは一転して、和やかな雰囲気に包まれていた。

片付けをしながら、雑談に花を咲かせる部員たちの声が響く。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったもので、先ほどの恐怖の記憶は、まるで薄れゆく霧のように消えかけていた。


「木村さん、大丈夫かなぁ?」と誰かが呟くと、別の声が続ける。

「結局あの現象って、何だったんだろうね?」と、笑いながら会話は続き、部室は徐々に活気を取り戻していく。

「幽子さんのお祓いもすごかったね。初めて見たよ!」と、興奮気味に話す者もいた。


そんな楽しいひとときを過ごしていると、部室のドアが静かに開き、関口さんが姿を現した。

彼は保健室に行き、木村さんの様子を見に行っていたのだ。

「木村さんの様子はどうでした?」と問いかけると、関口さんは少し心配した様子で答えた。

「木村くんはさっき帰ったよ。やっぱり病院に行った方が良いって話になってね。」


その言葉を聞いた部員たちは、互いに顔を見合わせ、納得の表情を浮かべた。

「そりゃそうだよなぁ~」と、誰かが呟やいた。


そんなやり取りをしてた時に放送が鳴り響いた。


「ピンポン!パンポーン」

「生徒の皆さん、学園祭お疲れ様でした。17時15分よりグランドで後夜祭を行います。一旦片付けを終えてグランドにお集まりください。」


「おっ!後夜祭かぁ」と自分は

心の中でつぶやくと、関口さんの声が響いた。


「じゃあみんな、グランドに行こうか!」


彼の号令と共に、部室いたみんなは一斉に動き出し、夕暮れのグランドへと集まっていった。


グランドに集まった生徒たちの姿は、特に整列することなく、各々が好きなグループに分かれ、笑い声や話し声が響き渡っていた。

中央には、いつの間にか木組みの枠が立てられており、それは恐らくキャンプファイヤー用のものだろう。

夕暮れの空が徐々に色を変える中、期待感が高まっていく。


生徒会のメンバーが段ボールを抱え、飲み物を配っているのが目に入った。

自分たちもその列に加わり、冷たい飲み物を手に取る。

彼らは周囲の生徒たちに「お疲れ様でーす」と声をかける。彼らの笑顔が、疲れを忘れさせてくれた。


その時、グランドの壇上に校長先生が姿を現した。彼の声が賑やかな声に包まれたグランドに響き渡った。

「皆さん、学園祭お疲れ様でした……」と、穏やかな口調で挨拶が始まる。

生徒たちはその言葉に耳を傾け、心の中でこの一日を振り返る。


校長先生の話が終わると、次は生徒会長が壇上に上がった。「皆さんお疲れ様でした。本日の学園祭は皆さんのお陰で盛況で終わりました。このあとの後夜祭も楽しんでいきましょう。」彼の言葉に、期待が高まる。そして……


「皆さん、飲み物はお持ちですか?学園祭が無事に終わったことを祝して、乾杯をしたいと思います。」その瞬間、周囲の空気が止まって彼の号令の合図を待つ。


「では、学園祭お疲れ様でした、カンパーーイ!」


という掛け声と共に、近くにいた部員たちと飲み物を合わせた。


「カンパーイ!」、「お疲れー!」と、歓声が響き渡った。

楽しい雰囲気がグランドを包み込み、笑顔が溢れる。

空は夕暮れに近付いていて少し幻想的な雰囲気へと変わっていった。


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