第5話
霜も降りないクリスタルの両開き自動ドアが開くと、そのまま液晶のワイドスクリーンが目立つ会社の宣伝を堂々としている地下へと入った。矢多辺コーポレーションは外部の人でも車でしか入る人がいない。
駐車場に正面玄関が広大な地下30階に一つずつある。
B区では車の免許を持っていない人はいない。
全体の62パーセントを占めるお年寄りや子供たち、あるいは障害のある人たちは、バスや電車などの乗り物以外では大きな建物の中には入れない。病院もそう。大きな建物の中に入るには救急車かバスや電車などの乗り物だけだ。
そういう。……歩道がないわけじゃないけど……。車両優先の構造を道路全体に施工されてあった。余談だが、大部分を都市開発プロジェクトでノウハウが建設し、滅多に交通事故が起きない世界になった。
地下26階に僕の車がおける駐車スペースが三つある。通路のゲートキーパーに挨拶をして、受付に手続きしてもらったら、車を駐車し、そこから少しだけ歩いて正面玄関から会社へと入った。
玄関から右に向かって歩くと、正面に社員用の高速エレベーターが10基ある広いホール。エレベーター内は60名が乗れる仕様だ。正面には受付と左側には自動販売機の列がある。
13名の重鎮とアンドロイドのノウハウが3体。いつもの時間に、急いでエレベーター内に入ってきた。
「雷蔵さん。おはようございます!」
「雷蔵様。おはようございます」
「おはようございます!!!」
社員の声に軽く会釈して、
僕はエレベーターに乗って、136階のボタンを押した。
「雷蔵さん。今日はおはよう」
河守がエレベーター内の壁に寄り掛かり、いつもの挨拶をしてきた。
僕はニッコリと会釈をすると、秘書のノウハウから資料を渡された。
ノウハウは全て甘いマスクと鋼鉄製の体にガリ痩せの腹部をしている。身長175センチのアンドロイドで、一体38万円で買える安価だが高性能な機械だ。
その資料を注視していると、
「ねえ、スリー・C・バックアップって、一体幾らくらいするの? お金持ちの雷蔵さん」
冷やかした表情の河守が僕の顔を覗いてニッと笑った。
「……」
僕は資料を注視していたが、ノウハウに数点だけ指示をだして、資料を戻させた。エレベーターが136階に着いた。
扉が開くと、すぐにオフィスだ。時間を無駄にしない作りだった。広々としたフロアに入ると、各々のディスクへ向かう人々を見て、僕は思うところがあった。
晴美さんのことを考えていた……。
スリー・C・バックアップを僕が海外に横流しすると、君はどう思うだろう?
僕がやったとはわからないだろう?
でも、もし……知ってしまったら?
「雷蔵さん! また上の空よ!」
気付くと、河守が僕の目の前に座っていた。
時計を見ると、いつの間にか、午前の仕事を終えていたようだ。松坂牛定食を102階のいつもの高級和食レストランで食べて、午後の仕事をして、そして、もう会議の時間になっていた。
「もう! ここんとこ、いっつもそう! 私が来てから毎日じゃないの!」
今年に入社した河守がぐるりと、長いテーブルを見回す。河守を含めて13人の人たちはノウハウから渡される資料を見つめて我関せずとしていた。
僕にそんな一言が言えるのは、河守ひとりだけだった。
「そんなに思い詰めるのなら……しなければいいのに……。因果応報って、言葉知らないの?」
「…………」
スリー・C・バックアップの横流しのことは、恐らく矢多辺コーポレーションで社内で発言することができるのは(外部に知られるとまずいのだけれど)、僕と原田とこの13名しかいない。
元々、矢多辺コーポレーションは、非合法擦れ擦れや時には絶対に公に出来ないことをしてしまうという事業を行っている余り健全じゃない会社なのだ。
でも、C区の技術開発を受け持つ会社や工場は、金になるのならば、どんなところにでも売り出そうとしている。けれども、今では世間と国のためを優先して会社イメージのために奈々川さんに協力をしているだけなんだ。
悪いことをしようとしているのは僕たちだけじゃないが、きれいごとをやっていないといけない社会になった。
だけど、勿論C区の技術を非合法で海外に流すと、日本の国は更に衰退していっていしまう可能性がある。
それは特許だ。
横流しの場合は特許が相手が持つようになってしまい。利益に大いに影響がでてくる。日本の企業がもともと特許を持っていても、僕たちが海外で売ってしまうと、どっちが先に技術を開発してきたかで相手の企業が裁判をしたりと大変だ。
さっき電話にでた坂本 洋子は産業スパイのようなことをしたんだ。
簡単にいうと、僕たちがC区の企業の秘密情報を勝手に坂本 洋子を使って持ち出し、自分たちの利益のために海外に安く売りさばいてしまうのだ。
恐らく、海外でもノウハウが活躍するこのご時世じゃ、他企業も狙っているんじゃないかな?
それと、証拠もなにも残さない。……いつものことだ。
「ねえ? 本当に大丈夫なの? 顔色が悪いわよ。悪いことは密かにしていても、いつかは日の目にでるものよ……。今なら止められるわよ」
河守がいつの間にか、僕の席に淹れたてのコーヒーを置いてくれていた。本当に心配しているのだろう。河守がこんなことをするなんて……。
「ああ……大丈夫です」
僕はニッコリ笑うと、河守が淹れてくれたコーヒーを口に運んだ。
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