第37話

 原田はスピンをした。

 相手のニスモ GT-R LMが体当たりをしたのだ。

 その後ろを走る。トラックによって流谷と遠山もスピン。

 ノウハウの時速300キロはでるトラックは妨害作戦をしだした。


「この勝負に勝つんだ!!」

 角竹は作業班にしわがれた声を振り絞る。

「ええ……大丈夫ですよ。ノウハウには高度な思考ルーチンもあります。富田工場の最新データをアップデートしてありますから。妨害からゴールまで、人間よりも賢く攻め続けます」

 茶色い作業服の男は少しだけ余裕を見せる顔をした。

「そうだといいが……」

「父さん。奈々川 晴美の暗殺。やっぱりそれもこの際は強化したらどうだい?」

 道助は真剣な表情で言葉を噤む。

 興田は何も言わなかった。

 そして、更に、

「日本の将来は俺が立て直す。その言葉は小さい頃から繰り返していた。それが、今は実現っていう魅力ある現実を手に出来るんだからさ。これからもエレクトリック・ダンスを進めるために勝負にも勝って、奈々川 晴美も消さなきゃ」

 道助は幼少時から日本の衰退ぶりを落胆していた。そして、政治家の道を歩んだ。

「道助くんの言う通りだ。興田くん。あの手を使おう。満川くん。もう一体のノウハウを応援席に潜ましてくれ」

 角竹は満川の方を向いた。

「はい……」


 応援席にテレビ局のカメラマンが撮影の準備をした。

「ここから、見えますのが……Aチームの応援席にてございます」

 美人のアナウンサーは晴美さんのいる応援席で、藤元とタッグを組んで、放送していた。

「ハイっす!!」

 藤元は晴美さんを面前に据えて、神社なんかでお祓いに使う棒を振り熱心にお祈りしていた。

 晴美さんはカメラに向かって、ウインクした。

 アンジェたちが一瞬緊張した。

「晴美様!! 何か変です!!」

 アンジェは向かいの応援席を調べた。

 高度な対人データ解析をしていると、一体のノウハウがロケットランチャーを隠している姿が瞳に映った。

「ヨハ!! 敵がいます!!」

 アンジェはハンドガンを抜いた。

 だが、一発の砲弾が放たれた。

 砲弾は一直線に晴美さんの場所へと吸い込まれる。

 夜鶴がコルトを抜いた。

 砲弾の中心に弾丸が命中すると、恐ろしい爆風と熱が応援席の一角を襲った。

 ヨハとマルカとアンジェがその脅威の前に立ちはだかった。


「あ!! 応援席にノウハウが爆発物を撃ったようです?! 斉藤さん。爆発しましたね……?」

 竹友は東側の応援席に目を凝らした。

「あそこは、奈々川 晴美がいるところです。何が起きているのでしょう?」

 竹友はノウハウの脅威はこの時代。どうすることもできないことを知っていた。

「警察沙汰ですが、証拠がないんですよね。今は奈々川 晴美が無事なのを信じて、レースを続行していましょう」

 斉藤は訝しんで、

「犯人というか興田 道助チームでしょうが、ノウハウは誰でも操作できますし、プロフィールデータしか、痕跡を残しませんからね。今の時代はノウハウが怖いならこっちもノウハウを使うという時代です。私たちは無力でもあって、力持ちでなんです。こんな色々とあるレースは私も初めてだな……」


「やった!! これで、いい。」

 角竹が満面の笑みで答えた。

 応援席の周辺のマスコミたちは、こぞって晴美さんの居場所へと向かっていった。

「これで、この勝負は勝ちだね……これから、C区が日本の未来を変えていくのだろう」

 道助は興田の肩を叩いては、レースをもう取りやめようかと考えた。

 しかし、興田と満川は訝しんでいた。

「道助? ロケットランチャーより強いものは何だ?」


「何しやがんだー!!」

 美人のアナウンサーは起き上がると、叫んだ。

「みんな無事か?」

 僕は起き上がった。隣の倒れていた夜鶴が立ち上がり、真っ黒になったアンジェが抱きかかえている晴美さんの方へと向かうと、晴美さんは気を失っていた。

 僕は晴美さんの無事をアンジェに早く確認したかった。

「雷蔵様。外傷も何もありません。晴美様は無事です。ご安心下さい」

「アンジェ……よかった……」

 応援席の一角は少し離れた観客たちや黒服も無事だった。

 煤ぼけたマルカが倒れたヨハを看ていた。

「ヨハ……。大丈夫なのか?」

 僕はマルカに言うと、

「みんな無事?」

 芝生の上で伏せていた河守が立ち上がり、辺りを見回した。

 九尾の狐も伏せていた。

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