第38話

 爆風は完全に横を通り過ぎていっただけだった。


「ヨハ……」

 マルカは煤ぼけて壊れたヨハの頭部を撫でた。

「ヨハ!!」

 僕はヨハの規格外の頭部に大きな損傷があるのを見て、真っ青になった。修理は不可能なのだ。

 僕はすぐさま向かいの応援席に向かって、デザートイーグルを抜いた。

 一発の銃声の後、向かいのノウハウが青い火花を飛ばして倒れた。

 美人のアナウンサーと藤元。放送局の人々も無事だった。

 美人のアナウンサーはすっくとピンクのマイクを突出し、藤元に吠えた。

「藤元!! 機械も直せ!!」

「無理かもしれないけど……了解ッス!!」


 そうこうしているうちに、原田とニスモGTR LMが一騎打ちをしていた。

「雷蔵さん。見ててください!!」 

 土煙をまき散らし、滅茶苦茶なスピードで原田はストレートを走り抜ける。サイド・バイ・サイドからコーナーに入ると、ニスモGTR LMがアウト・イン・アウトをした。原田は上級ドリフト。 

 サイド・バイ・サイドとは、二台の車が横一線に走行することだ。

 再びインの場所に僅かながら原田の速度に軍配が上がった。

 そのままコントロールラインへと向かう。


「ゴール!! 原田選手!! やりました!! 腹をくくったのでしょうか!!」

 竹友はテンションを上げていた。

 今はレースに集中するだけ。

「ええ。素晴らしいドリフトでした」

 斉藤は立ち上がり、

「後、一台で勝ち負けが決まります」

 斉藤はストップウオッチを見て、

「遠山選手か流谷選手か津田沼選手がゴールに近いです。相手のCチームはペンズオイル ニスモGT-Rです。山下選手と広瀬選手はまだまだです」


 ペンズオイル ニスモGT―Rと10tトラックがストレートを加速してきた。遠山と流谷は必死でブロックをしていると、10tトラックが遠山にクラッシュした。

 遠山はスピンをして、コースアウトしてしまった。


「あ、遠山選手コースアウト! 勝負は流谷選手とペンズオイル ニスモGT-Rの一騎打ちですね。後方からも続々とCチームの多種多様な車が走っています。全長12メートルのトレーラーや10tトラックの敵のブロックに広瀬選手と山下選手。津田沼選手が悪戦苦闘しています」

 竹友はマイクを持ち出して、立ち上がった。

「このままでは、確かに流谷選手が負ければそのままCチームの勝ちとなりますね」


「流谷くん……。頑張って」

 河守は熱意を秘めて自分の手を固く握っていた。

 島田と田場と原田も走って戻って来た。

「いやー、凄いレースだね」

 原田はお調子者特有に笑った。

 島田と田場は興田 道助チームに殴り込みをしようかと考えていた。

「さあ、殺しに行こう!!」

 田場は島田を連れて、マルカのマシンピストルとアンジェの持つサブマシンガンを手に手に取った。

 僕は島田と田場に「大丈夫だよ」と言った。

 河守の肩に手を置いて、それからすっきりした気持ちで九尾の狐にも微笑んだ。

 僕の心の中では日本の将来はもう決まっていた。

 そう。より良き人間性を得た国。日本だ。


 流谷は必死にペンズオイルニスモ GT―Rを追い抜こうと、10tトラックの間をかいくぐりコーナーからスローイン・ファストアウトをした。ペンズオイルニスモ GT-Rも負けずにコーナリングスピードを限界まで振り絞る。

 お互いのマシンが悲鳴に似た咆哮を発した。


 角竹は歯を食いしばり、

「興田くん。道助くん。何としても勝つんだ。人間性より未来の方が重要だ!!」

 老いた角竹は作業班にも怒鳴った。この試合で勝てば、間違いなくノウハウの援助や介護を受ける余生を受け入れなければならない。

 人と余り関われず、せいぜい乏しい感情を持て余して、日に日に衰退する体と心を自分自身で慰めなければならない。

「社長。慎ましやかな余生をお送りしてください」

 興田は頭を下げると、満川の方に向いた。満川は技術班に言った。

「相手を殺すのよ」


「あれ? 流谷選手の車に、後方からの10tトラックがぶつけてきましたね」

 竹友は真っ青になった。

「ええ……。それもかなり攻撃的です……」

「試合はどうなるのでしょう?」

 斉藤はストップウオッチを見ると、

「今から何かが起きますよ……」


 津田沼は350キロの速さの中。流谷の車に後続の10tトラックがまるで、車の上を車が走るように巻き込んだ様を見て、真っ赤になった。

「ちくしょー!! 夜っちゃん見ててくれ!!」

 津田沼はアクセルを踏み切り、ノウハウの10tトラックを全力で追い抜こうとした。しかし、10tトラックはこちらに寄って来て、津田沼の車にクラッシュをしてきた。


「あ、津田沼選手は周りの車を巻き込んでスピンをした!!」

 竹友は震えた声を振り絞った。

「あ、駄目だ!!」

 斉藤は目の前の悲惨な惨劇を予想した。


 晴美さんはゆっくりと目を開けて、夜鶴に支えられながらも立ち上がった。カメラマンの男がその様子を写していると、応援席から大勢の悲鳴が聞こえて来た。

「藤元―!! ヨハの修理は後だ!! 流谷君と津田沼のところへ行ってこーい!!」

 美人のアナウンサーはピンクのマイクを振り回した。

「ハイっす!! あれ……? 何か変……?」 

 飛ぼうとした藤元は不可解な顔で、首を傾げた。


 コースアウトした遠山は少しの間。気を失っていた。

 芝生の上に足を置いて、車を押そうとしたが、サイドボードにある何かの液体が入った瓶を見て、呟いた。

「栄養ドリンク……か?」

 遠山は手を伸ばし一気にそれを飲み下した……。


「遠山さん……頑張って下さい……」

 晴美さんは心の中で精一杯のエールを送った。

「遠山さん……」

 夜鶴は流谷と津田沼が死んでしまったことで、この勝負は遠山一人に掛かってきたことを知った。

「ねえ、なんか変じゃない?」

 河守はコーナーへと戻った遠山の走りが、どこか切羽詰っていることを訝しんだ。


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