第7話 捜索

 早朝。

 朝の6時起床入浴。


 曇りの空の下で、昨夜の電話からアンジェたちは戦闘モードを、実に2年ぶりにしていた。ヨハは後で修理したほうがいいかもしれないが、アンジェたちのような正常な頭部は今現在はどこも製造されていない。


 僕はゆっくりとシーザークロワッサンと玉子とウインナコーヒーで朝食を摂った。

 

 気持ちの上下が僕にはない。

 いつもの日課のテレビをつけようとしたが、手が滑って間違えて云話事町TVのチャンネルのボタンを押してしまった。

 

「おっはよーッス!! 云・話・事・町!! TV―――!!」

「はいっ、藤元 信二です!!」

 美人のアナウンサーがピンクのマイク片手に、曇り空の下でA区の街並みを背景に話し出した。隣の藤元は呑気に空を眺めたりしていた。


「今日は大変おめでたいお話です。2年前の日本全土をひっくり返した野球の試合で、大活躍をした流谷 正章さん(男)がお子様を産みましたーーー!! お子様誕生でーーーーす!! おめでとうございますー!」

 青緑荘というアパートの正面にあるコンビニで、カメラ目線の流谷は照れ隠しに顔を一度、伏せた。

「本当―――に、おめでとうございます。どうですか、今のお気持ちは?」

「……大変、嬉しいです……。妻の梨々花(りりか)も顔が奈々川さんに似ていて、とても嬉しかったです」


 美人のアナウンサーはピンクのマイクで、容赦なく流谷の口の周りを攻めている。藤元は時々、カメラに向かってピースをしたりしていた。

「そうですか。前奈々川首相(晴美の父親)に?」

「ええ。はい。そうですね」

 

 流谷は顔を真っ赤にして、恥ずかしいといわんばかりに顔を伏せた。

 妻であろう梨々花という美しい女性が、後ろで赤ん坊をベビーカーに乗せて笑っていた。ういういしい新婚夫婦である?


「では、それでは今日の天気と運勢コーナーです――」

「はい。お天気は時々、細かいものなどをなくさないようにとでました。今日の運勢は……晴れですね」 

「それでは、いってらっしゃいー。って、お天気と運勢が逆だろ! コラ!!」


 僕はテレビのチャンネルを変えて、珍しく二杯目のウインナコーヒーとピザトーストと、ハンバーガーをアンジェに頼んだ。


 食後。テレビを消すと、僕は駐車場に降りようと玄関口からマルカを護衛に連れ、エレベーターに向かったが、途中、武装したヨハがついてきた。


「私~も連れてって~、ダ~メ~~ですか~」

 僕はこっくりと頷いて、武器と弾薬を持ったマルカだけを車の助手席に乗せていった。


 まずは原田の居場所を探さないといけない。

 昨夜から九尾の狐の情報をアンジェたちに探させているが、相手がわるいのか日本の全警察署のデータを調べても、名前しかでてこかなかった……。


 云話事町で一番、裏の世界を知っていると言われる人物に会いに、僕は車を走らせた。その間。会社にはアンジェが連絡をしていた。

 

 今頃は全部の仕事を押し付けた河守が大変だろうが、まあいいか。

 後、僕は10年ぶりに拳銃を所持した。

 旧ソビエト軍の正式拳銃マカロフだ。

 昔はよくハト撃ちで遊んでいたけれど、治安が良くなるとボディガードやアンジェたちだけで身辺警護は十分になっていたので、使わなくなった。


「雷蔵様。ヨハが心配していましたよ」

「……」


 僕は涼しい顔で車を走行して云話事ベットタウンへと向かった。国道6号線と高速道路を乗り換えていけばいい。その人物は云話事ベットタウンから更に東でA区よりの。云話事イーストタウンにいるという。


 そこで、坂本の所在を突き止めて、原田と共にスリー・C・バックアップのデータを奪う。至極簡単だ。金は渡さない。


 閑静な住宅街が居並ぶ云話事ベットタウンの国道6号線を走行中。バックミラー(電子式のミラー)に赤い点滅が出てきた。助手席にいたマルカが急に銃を抜いて合図をした。


 遥か後方から猛スピードで、赤い車が走って来た。

「雷蔵様!! スピードを上げてください!!」

 マルカの銃は大型マシンピストル。

 ソ連のスチェッキン・マシンピストルだ。

 赤い車は僕のランボルギーニの運転手側にあっという間に追いつくと、窓を開けて、撃ってきた。車の中にはノウハウが二体だ。

 一体は運転に専念しているようで、もう一体はアサルトライフルを装備していた。


「雷蔵様!!」

 マルカが身を挺して僕目掛けて撃たれた弾丸を跳ね返した。マルカの身体の皮膚はその辺のアサルトライフルの弾丸よりも頑丈なのだ。


 マルカは、相手がカートリッジ交換のため撃ち終わると、反対のランボルギーニの左窓から、上半身をボンネットの上に乗り出してマシンピストルを撃ち放った。


 連続する発砲音が道路のど真ん中で鳴り響く。マルカのマシンピストルの銃撃と新しいカートリッジを装填したアサルトライフルの赤い車からの激しい銃撃の応戦で、周りの一般車両が巻き込まれた。煙を上げる車や横転する車が現れ、各々の車両が急ブレーキをしたり逃げ出したりと大混乱が起きる。


 猛スピードで走り回る赤い車は車体が弾丸でべこべこになって半壊した。だが、頑丈な作りのようだ。ノウハウはしっかりと体を固定させて何事もなかったかのように撃って来る。運転中のノウハウは、マルカの射撃を交わすための右に左にハンドルを切ることもない。


 激しい銃撃の火花と相手の応戦で、お互いの車が見えにくくなるほどの硝煙があがった。


 しまいには、僕のランボルギーニに無数の穴が空いてきた。

 僕の車は防弾の特殊仕様でできているが、アサルトライフルで撃たれ過ぎて、車体が持たなくなってきた。


 そして、一発の弾が貫通してしまった。


 僕は腕を怪我して、止むなく対向車線の車を避けながら道端へと突っこんだ。

 停車すると、すぐさまマルカが車から降りると、手榴弾を赤い車の車内目掛けて放り投げた。


 赤い車は内部から爆発し、ボロボロの状態でどこかへと走り去って行った。

 

 その後、負傷した僕はマルカによって、応急手当をされ近くの病院へと向かった。病院で処置を待っている最中。駆け付けた警察官と裁判官も兼ねるノウハウに幾つか質問された。


 だが、僕は当たり障りのないことだけを淡々と告げた。

 白くL字型の大きな総合病院。云話事・仁田・クリニックでは、ヨハが心配していた。僕の腕はマルカによって包帯を巻かれていたが、真っ赤な血だらけになった腕を見て、ヨハは険しい表情を作った。


「雷蔵様~~。大丈夫じゃなさそうで~~す。先生早く来てくださ~~い」

 間延びした声のヨハが、ひっきりなしに白衣のノウハウ、看護婦が行き来する通路で仁王立ちした。


 すぐに近くの白衣のノウハウをヨハが捕まえた。


「大丈夫ですか? 今、お調べしますね……。マイナンバーカードを見せてください」


 ノウハウの持つ、手のひらサイズの識別装置で、挿し込んだマイナンバーカードを認識している間。僕は通路の長椅子に腰かけた。痛みは酷かったがあまり気にしていない。


 それより、僕はさっきの赤い車はきっと坂本 洋子の送った刺客だと思ったが、隣に座っているマルカに赤い車を調べてもらっていた。マルカは僕の腕の包帯をきつく締めたりしながら、全警察暑のデータバンクと体内で通信している。


「だから~~。私を~~。連れてって~~~て、言ったのに~~」

 

 ヨハは白衣のノウハウが僕を奥の診察室に案内するのを見送った。

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