第6話
八時半自宅。
アンジェたちは僕のことを心配していた。
云話事帝都マンション48階のトレーニングジムの滅多に使わないサンドバッグを前に、僕は体中に大量の汗を掻いていたからだ
。
「雷蔵様~~。ヒレカツ定食は~~。後で~いいですか~~」
ヨハだ。
「雷蔵様。お体の調子はいかがですか? 今夜の夕食は胃に優しいもののほうが?」
マルカ。
「もう一時間ですよ。雷蔵様」
アンジェは心配の声を一際大きくした。
僕は一時間も続けていたサンドバッグを打つのを止めた。
グローブを外して、荒い呼吸を鎮められずにいると、ヨハがタオルを持って来てくれた。
「ありがとう」
僕はぜぇぜぇと鳴る呼吸をし、汗をタオルで拭いていると、携帯が鳴った。近くの丸椅子に置いてあった。マ〇―ン5の「ラッキーストライク」がなっている携帯をアンジェが持ってきてくれた。
僕はタオルをマルカに渡して携帯に出る。
相手は十中八九。原田だろう。
「こんばんは……あなたは矢多部 雷蔵さんですよね。今に死にますよ」
「原田なのかい? え、いや、はは。間違い電話だよね?」
機械のような冷徹な声の主は明らかに女性だったが、僕は何かの間違い電話だと思った。
「雷蔵さん。原田 大輔ならここにいますよ」
「君は誰? 原田はどうしたのかな?」
「ここにいます……」
僕は、「あっ」そうかと思った。
「坂本 洋子さんだね?」
「……そうです…………」
「どこにいるの?」
この人が九尾の狐と言われる女性なのだろう。
会ったこともなく。声も聞いたこともない。
「本題に入りますよ……あなたはしっかり聞かないといけない。あんな危険なものを私に盗ませておいて、そして、お金もくれない。なら、命を狙うのが当然でしょ」
「原田がお金をくれなかった? どうして?」
僕の友人の原田は云話事特進学院大学といって、エリートコース専用の大学からの友人だった。そうだ、河守も世代が違うが、たぶん同じ大学だったのだろう。
「ご機嫌よう……こんばんは……さようなら。原田 大輔はお金を持っていなかった。これからあなたを狙う。すぐにお金を用意してほしい。では、死なないように」
「え?」
僕はすぐそばのアンジェに目で合図を送った。
アンジェたちには僕の家での電話の全通話内容は筒抜けなのだ。
アンジェたちは腰のベルトにある小型拳銃を素早く取出し、辺りを警戒する。家庭用ではなくて、戦闘モードになったのだ。
ヨハだけは服を脱ぎ始めて、鼻唄まじりに銭湯モードになった……。
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