第15話
「ふー……もういいでしょ。姉さん」
僕は驚いて振り返った。
そこにいたのは、会社で見たまんまのスーツ姿の河守 輝だった。
「どうして? 君が? ……こんなところに?」
僕は九尾の狐の妹が河守だということが意外だった。
「今、仕事から急いで帰って来たのよ。雷蔵さんには、もう言ってもいいかな。原田さんには協力してもらっているし」
いつもの気楽な調子で河守が、ここからそう遠くない喫茶店を指差した。九尾の狐も片手を挙げて周囲の狙撃銃を持った複数のノウハウを引っ込ませたらしい。僕の方へと歩いてきた。
「事は大きすぎて、私たちだけじゃ無理なのよ」
「……?」
「雷蔵様。その人も河守様も丸腰です」
マルカは僕の顔を心配そうに見つめている。僕はこっくりと頷くと九尾の狐と河守の後について行った。
ヨハは険しい顔から心配そうな顔をした。
喫茶店の店内は人が疎らで、コーヒーの匂いだけで落ち着く場所だったが、九尾の狐の指示で窓際には座らないようにした。奥のテーブルに向かった。
「周囲はノウハウが警戒しているわ」
九尾の狐はそう言うと、コーヒーと砂糖を頼んだ。
マルカは僕の隣に座り、ヨハは傍の丁度、僕が窓際から守られる位置に立った。
「雷蔵さんは、スリー・C・バックアップのことをどのくらい知っているの?」
河守は正面に座ると、開口一番その言葉を口にした。
河守の隣の九尾の狐は大き目のサングラスを外した。なるほど、目の辺りが河守にすごく似ている。
「うーんと、ノウハウを人間に近づけるための技術をC区が開発をした。それがC区の全面的技術提供案。スリー・C・バックアップの要……くらいは」
僕がそう言うと、河守が呆れかえった。
「雷蔵さん。ノウハウ……つまり、国家規模のアンドロイドたちを人間に近づける技術は、どれくらい凄いと思うの? それこそ20億円でも安いわよ」
「?」
九尾の狐は小型の端末を開いて見せ、僕のマイナンバーカードを差し込んだ。支払った10憶の金が戻ると、九尾の狐が別の検索画面を写した。僕は気になった部分を見た。それには、こう書かれていた文があった。
「ノウハウに4千万人の老人の介護をさせる?」
「そう……C区は元々B区の一部で、前奈々川首相(晴美の父親)は老人福祉も視野に入れていたの。ノウハウが介入すれば、この国は安泰だということになるわね。何故ならお金があまり掛からないから……」
九尾の狐はそう指摘した。
「うーん。それくらいのことだったのかな?」
「それだけじゃないわ。現奈々川首相(晴美)はこの計画には前々から反対していたの」
河守が言った。
確かに晴美さんならそうするだろう。
「変だよ。晴美さんは可決したはずだ。……それに、そんなことでは僕たちは襲われない」
「違うわ!」
河守は急に真面目な顔をして叫んだ。
「この計画には裏があるの。エレクトリック・ダンス……。スリー・C・バックアップは表向きなの。……その裏では65歳以上のお年寄りを強制的に介護福祉を必要とさせることができる政策を打ち上げ。利益をA区から機械的に搾取していくことを目的とし、この表舞台(社会)から老人を完全に退場させる。そう、隔離をして利益を自然に生み出すための道具にしてしまう計画。それが、エレクトリック・ダンスよ。そして、もう一つ……可能性として高いのは……現奈々川首相の暗殺よ」
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