第13話 大切な人


お、おい。

いくら仮とは言え愛人?愛人って何だ。

そう思いながら俺は心臓をバクバク鳴らしながら背中に汗を伝わらせる。

待て待て俺達は兄妹だからな。

あくまで、な。


それから電車はアニメショップのある駅に着き。

電車から降りる俺達。

そして葉月は俺に向いてくる。

何か、その。


「...葉月?そ、そろそろ手を離してくれないかな」

「良いじゃん。別に」

「しかし...俺達に視線が注がれて...」

「お兄ちゃんは嫌?」

「...嫌って訳じゃ無いけど...その。は、恥ずかしいんだよね」

「私はそうは思わないから大丈夫だよ」


何が大丈夫なのかさっぱり分からない。

葉月は俺の手を握ってからそのまま笑みを浮かべる。

それから俺達はまるで恋人の様に移動を開始した。

そしてアニメショップに来る。

そんなアニメショップの入り口付近を見ると。


「あ。はっちゃん」

「来てたんだね」

「うんうん」


そこにピンク髪をした女子が居た。

可愛らしい顔立ちをしている。

イヤリングをしてギャルメイクをしている感じの女子だが...誰だ?

そう思いながら葉月を見た。


「あ。お兄ちゃん。此方は私のオタク友達の木村千夏(きむらちなつ)ちゃん」

「シクヨロデース。...噂はかねがねです。お兄さん」

「え?お、俺の事を知っているの?」

「そりゃそうっすね。はっちゃんから噂をよく聞きますよ」

「...そ、そうなんだね」


俺は汗をかきながら、いつの間にこんな友達を、と思いながら苦笑い。

すると木村さんは俺を見てから顎を撫でる。

そしてニカッとした。


「確かに良い人そうっすね」

「?」

「はっちゃんがオススメしている人として貴方を推していたんっすよ」

「お、おい。葉月。...どういう事なのか」

「どういう事ってそのままだよ?」

「尊様じゃないの?」

「それはそれでこれはこれ。...そういう事だよ。お兄ちゃん」


そしてニコッとする葉月。

俺はその姿に木村さんを見る。

すると葉月が「じゃあこんな場所での話もあれだし早速、行こうか。きーちゃん」と笑顔になる。

それから葉月は俺の手を握る。


「行くよ。お兄ちゃん」

「あ、お、おう」


それから俺達は移動を開始する。

そしてコスプレ会場と思われる場所にやって来る。

特設会場の会場内に入ってスタッフに受付などをしてから着替える場所に向かう。

そうしていると木村さんが俺に向いた。


「おにーさん」

「...は、はい?」

「...後で2人きりで話して良いっすか」

「え?う、うん。良いけど」

「有難う御座います」

「...」


俺は「?」を浮かべながら奥に向かった木村さんと葉月を見送る。

それから俺は会場内を見渡す。

居たのは可愛らしい特徴的なコスプレをしているレイヤーさんばかりだった。

とっても印象に残る感じだ。


「...」


『いつか貴方にも大切な趣味を理解してくれる人が現れるわ』


そうだな母さん。

その通りかもしれないな。

こんなに好きをアピール出来る人達ばかりだと。

そう感じるよ。


俺は微かしかない母親の懐かしい記憶を思い出しながら周りを見ていると「おにーさん」と声がした。

背後を見ると尊様に扮した葉月と。

その兄妹の妹になった木村さんが居た。


「良く似合っているね」

「そうっすか?お褒めに預かり光栄です」

「お、お兄ちゃん。私はどうかな」

「あ、ああ...」

「ほらほらおにーさん。ちゃんと全てが大好きって言わないと」

「何を言っているでしょう!?」


葉月はヘソ出しの衣装。

とってもスタイルが良いが...これ他の人に見られるのか。

うーん何だか複雑だな。

取られたくないな。


「...」

「か、可愛いよ。...葉月」

「あ、ありがと」


ほんのり赤くなる葉月。

これでは厳ついイメージの尊様が台無しだ。

だけど...これはこれで何だかまた別の...うん。

ヤバァイ気がした。


「じゃあ早速。レイヤーさんとして撮影会に行きまっせ」

「ま、待って。やっぱりきーちゃん。何だか恥ずかしいんだよね」

「何を言っているのお兄ちゃん。...行かないと」

「なりきらないで!?」


俺は苦笑しながらその姿を見る。

そして撮影会が始まる。

各々のコスプレを披露しながらみんな集中する。


その姿を見ながら「大好きって凄いな」と呟く。

長らく失っていた感情。

好きって何だろうか、と。


「...」


母親が...居なくなった時。

俺は初めて。

好き、というものを失った。

そして何が好きなのかが分からなくなった。

その好きを取り返したのが。

幼い頃から一緒に居る葉月だった。


「...めいいっぱい躍進してこいよ」


そして俺は葉月達を見る。

葉月達は嬉しそうな感じで活躍していた。

俺はその姿を見ながら飲み物とか用意する。

それから俺は汗を拭う。


「...何が好き、か」


実際の所。

アニメオタクになったのは当初から俺がアニメが好きだから、だった訳では無い。

初めからアニメオタクの葉月に汚染されたのだ。

それが小学生の時だった。

初めは馴染まなかったが...途中から俺もアニメにハマった。

グッズを買い揃えた。


「...」


葉月はとても良い義妹だ。

そして...誇りに思える。

俺は彼女を見る度に笑みを浮かべたくなる。

顔を綻ばしたくなるのだ。


「...はは」


そして俺は顔を綻ばせて撮影会で戸惑っている葉月を見る。

すると木村さんが間をぬってやって来た。

周りを見渡しながら飲み物を受け取る。


「プハー!!!!!ヒェヒェスポドレは美味しい!」

「...ああ。喉が渇いていたんだね」

「そうっす!」

「...」


俺の顔を見ながら木村さんは周りを見渡し。

そして最後に尊様になりきっている葉月を見る。

それから木村さんは手元にスポドレの入ったペットボトルを置く。

その光景を見てから前を見ていると。


「私、救われたんっすよね」

「...え?」

「...その話。そして...これからのおにーさんとはっちゃんの関係性についての話がしたいからさっき...2人きりになりたいって言いました」

「そうだったんだ」

「そうっす。...私は...」


木村さんはそこまで言って苦笑いを浮かべてから頭に手を添える。

頭からパチンパチンと音を立ててピンクのウィッグ...え?

俺は驚愕しながら木村さんを見る。

そこには...神秘的な白髪の長髪の少女が居た。

え?!


「...私、髪の毛とかのメラニン色素が溜まらなくて抜けてですね。黒く髪の毛が、眉毛とか全部が染まらないんっす。幼い頃からの遺伝子の異常の障がいで。...だから見た感じがお婆さん、お婆さんって周りに馬鹿にされて」

「...じゃあ...」

「私は...はっちゃんにアニメオタクとして救われた」

「...」


俺は静かに木村さんを見る。

木村さんはまたピンクのウィッグを頭に戻した。

それから俺を見てくる。

そして真剣な顔になってからこう話した。


「私からの心からのお願いです。...彼女を...はっちゃんの恋人になってくれませんか。彼女を幸せにしたいんっす」


まさかの言葉に俺はその場で凝固した。

それから「え?」となってから聞き返す。

今なんて言った。

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