第35話 高島凪の激昂

俺と葉月は親父と...涼子さんと4人でリビングの椅子に腰掛けていた。

それから俺は親父をチラ見する。

親父は寡黙な状態だった。

何も話しかけるな、という感じにも見てとれる。


「...それで。話とは何だ」


そう親父が新聞を置いた事をきっかけに。

俺は真剣な顔で親父と涼子さんに向く。

そして頭を下げた。

深々と下げた。


「...葉月さんとお付き合いさせてもらっています」


その言葉に涼子さんは「そうなのね」と嬉しそうな顔をする。

だが親父は...真顔のままだった。

俺は汗を流す。

そうしていると親父が「...そうか」とだけ言ってから立ち上がった。

そのまま去って行った。


「...えっと...お母さん...あれは」

「嫌じゃないって事ね」

「...え?」

「...私は彼の事が手に取る様に分かるわ。...長い付き合いだもの。...小五郎さんは嫌じゃないって言っているわ。...だけどちょっと複雑な考えなのかもね」

「そうなんだね...」


俺は直ぐに立ち上がった。

それから親父の背中を追う。

そして「親父」と声をかける。

すると親父は振り返った。


「何だ」

「...親父は...嫌か。俺と葉月が付き合うのは」

「...一言もそんなことは言ってない。俺はお前達の好きな様にすれば良いと思う」

「親父...」

「...どう止めてもお前は突き進むタイプだろう...和馬」

「そうだが...」

「では俺は何も言わない。少しだけ疲れたから先に寝る」

「...おやすみ」


何だか曖昧になってしまったが。

結論から言って俺達は付き合う事になった。

正式に親父の許可も得られたので、だ。

それから俺は翌日になってそんなこんなだったが学校に行った。

そしてとんでもない景色を目にした。



「?」


教室の前が野次馬らしき人達で賑やかだ。

俺は「???」と思いながら教室を覗くと...高島が眉を顰めて誰かと対峙している。

それは...女子だった。

見た事のない女だ。


「...?」


高島の様子を見る。

そんな高島はかなりキレている様に見える。

一方の女子は...落ち込んでいるというか。

何か複雑そうな顔をしている。

その近くには...星が居た。


「オイ。高島」

「...ああ。...在里」

「どうしたんだ」

「この女がとんでもない噂を流してな。...それで俺はキレているって訳だ」

「...どういう噂だ」


俺は泣いている星に聞く。

すると内緒にしておいてほしかった亡くなった弟の事とか。

全部バラしたらしい。

あまりの言葉に俺は青ざめた。


「それで。春山さん。貴方は最低だな」

「だ、だって貴方が付き合わないって言ったから」

「俺はそんな気はないとあれだけ言っただろう。...それなのに自己中心的な真似をしてもらっては困る」

「...」

「俺が怒っているの分かるかな。秘密をバラされたからだよ。せいちゃんのね」

「...分かっています」


春山という女子は俯く。

その顔に春山を見ていると教室に先生が来た。

大騒ぎの教室。

俺達に介入する感じだ。

そんな感じに俺は高島を見る。


「...高島。お前...下手な真似をすると...」

「知っている。将来に響くって言いたいだろう。...だけど俺は許せない」

「...」

「許す事が絶対に出来ない」

「...」


俺は星を見る。

星は...静かに大泣きしていたが教師の言葉に素直に従った。

俺は星を見てから春山を見る。

なんて最低な真似をしたんだ、と思いながら、だ。



騒ぎは直ぐに収まったが。

春山に対して高島はマジに怒っていた。

俺はそんな激昂している珍しい高島が生徒指導室から戻って来た姿を見てから眉を顰める。


「...ゴメンね。和ちゃん」

「何が?」

「今回の件...」

「お前は何もしてないじゃないか。...俺は...お前の気持ちが心配だ」

「私は...大丈夫。うん」


言いながらも落ち込んでいる星に対して俺は「...本当に大丈夫か」と聞いてみる。

すると星はじわっと涙を浮かべた。

それから顔を覆って泣き始める。

秘密にしてほしかった、という事を言いながら、だ。


「...そうだな」

「たっちゃんの横に居るのは友人としてなのに...」

「世の中は逆恨みをする奴も居るって事だな...最悪な世界だよ」

「そうだね...私、今回の事は本当にショックなんだけど」

「そうだな...」


俺は考える。

それから言葉を選びながら回答をしていると教室の連中がやって来た。

身構える俺。

すると教室の連中は「誤解していた」と言った。

そして顔を俺に向けてくる。


「...在里。お前の姿、勇敢だった」

「...そうだね」

「だよな」


驚きながら俺はそのクラスメイトの姿を見る。

すると星は目をパチクリしながら涙を拭って柔和になる。

俺はその姿を見ながらクラスメイトを見る。

クラスメイト達は「俺達も何か出来る事があったら」と言う。


「...」

「今回の件は...その。防げなかったけどな」

「...そうだな。何かあったら...頼るよ」

「ああ。そうしてくれ」


そして俺はこの日。

一応、クラスメイトとひょんなきっかけで和解する事が出来た。

何とか...和解する事が、だ。


俺はクラスメイトを見る。

それからまた考えた。

まあその。

自己中心的な馬鹿ばかりじゃないんだ、って事を。

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