好きだから

第20話 対峙

「...遅い...」


和馬さんがまた遅い。

どうしてこうも遅くなるのか。

私は和馬さん養分を吸収しなければ生きていけない。

そう思いながら期待して待っているとドアが開く音がした。


「和馬さん。おそ...え?」


そこに居たのはこの前会った...例の噂の女子だった。

乙武星羅さんだった。

私を真剣な顔で見ながら頭を下げる。

その姿に困惑しながら和馬さんを見る。


「...話がしたいんだって」

「話って...何も話すことが無い...」

「葉月さん」

「...何でしょうか」


私は警戒しながら乙武さんを見る。

すると乙武さん直に「...貴方は...和馬くんが好きなの」と聞いてきた。

その言葉に私は心臓をドクンと跳ねさせる。

やはりそうなのか、と思いながら私は乙武さんを見る。


「...貴方もですか?」


答えが絞られる。

その言葉しか出てこない。

すると乙武さんは胸に手を添える。

それから意を決した様に顔を上げる。

そして私を見てくる。


「...私は在里和馬くんが好き」

「...」

「...!...そうですか」


私は乙武さんの言葉に目線を横にずらす。

すると唇を噛んだ。

そして顔を戻す。

乙武さんは真剣な顔を崩さないまま居た。

私は和馬さんを見る。


「...私の和馬さんは誰にも渡さない」

「...やはり貴方も好きなんだね。和馬くんが」

「はい。...私のお兄ちゃん。いや。恋人は渡さない」

「...じゃあライバルだね。これから先」


そして私は「立ち話も何でしょうし」とリビングに案内する。

するとその言葉に乙武さんは頷いてから和馬さんを見る。

和馬さんは「...」となっていて無言で頷いた。



「和馬さんを好きになった理由は何でしょうか」

「私が和馬くんを好きになった理由は救ってもらったから。2回も」

「...そうですか」


また和馬さんはロクでもない事をしている。

こんな美少女に好かれるとか尋常じゃないと思う。

それに...。

私はそう思いながら乙武さんを見る。


「乙武さん。貴方はそれが言いたいのでこの場所に来たんですか」

「私は自分自身を変える為。私は...決意をする証としてこの場所に来た」

「まあどっちでも良いですけど。貴方には渡さない。私の方が...過去から和馬さんを知っていますから」

「...私だって1年前から学校でずっと和馬くんと一緒だった。この気持ちは負けない」

「...」

「...」


すると和馬さんが私と乙武さんを見てから「落ち着いて」と言う。

落ち着ける訳が無いでしょう。

私は心配しているのだ。

だって和馬さんが取られるかもしれないし。


「...葉月さん」

「...何でしょうか」

「貴方の事。聞きました」

「...?」

「貴方は...お父様を失っていると」

「ですけど。それが?」

「...私も弟を病気で失っています。その悲しみを...彼が支えてくれた」

「...それは...」


私は「!」となりながら乙武さんを見る。

すると乙武さんは「...私は3つになった弟を病気で亡くしました。...だからその痛みは分かる。...私は...貴方では無いから何も出来ないけど。寄り添う事はできる」と言ってくる。

その言葉に目線を逸らして和馬さんを見る。

何で話したのか...だけど。

今はそんな事は良い。


「...だとするならそれは3回目の救いでは?」

「そうですね。...どっちにせよ私は...本当に彼が好き。大好き」

「...じゃあどっちが先に和馬さんを惚れさせる事が出来るか勝負ですね」

「そういう事。...いや。それが言いたい訳じゃ無いんです」

「じゃあ何が言いたいんですか」

「私は...そちらの失った方では貴方と分かち合いたい」


その言葉に私は「!!!!!」となる。

それから私は彼女を見る。

乙武さんは「...この事は実は小学校時代から一緒の幼馴染も知らない。...だけど私は気軽に痛みを話せる大人になりたいから。...お願いします。手伝って下さい」と言ってから立ち上がる。

そして私に頭を下げた。


「...」


私は思い出す。

お父さんの面影を、だ。

そして目を閉じる。


それから目を開けてから「...私は...」となる。

困惑する、が。

だけど。


「...そうですね。...その点だけなら協力したいです」

「...葉月...」

「...お互いに乗り越えられる様に...全てを頑張りたいです」

「...有難う御座います...」


そして乙武さんは私に手を差し出してくる。

私は立ち上がってからそのまま手を握る。

こうして見ると。

良いライバル同士なのかもしれない。

そう思いながら私は乙武さん...の顔を見る。


「...でも決して和馬さんに関しては譲る気は無いです」

「それは確かに。私も一歩も譲る気は無いですよ?」

「...」

「...」


私達は笑みを浮かべ合ってからそのまま和馬さんを見る。

和馬さんは「...」となっており冷や汗をかいていた。

何をされるのだろう、と恐怖に思っている目だが。

うふふふふ...ぐふふ。


「ねえ和馬くん」

「な、何でしょうか」

「私と葉月さん。性格的だけど。どっちが好き?」

「へ...」


その言葉に私は期待の眼差しで和馬さんを見る。

和馬さんはみるみるうちに真っ赤になる。

そして「きゅ、急用を思い出した」と立ち上がってから脱走した。

チッ。聞けなかったか。

そう思いながら私は乙武さんを見る。


「...ねえ。葉月さん」

「...何でしょう」

「貴方は...通信制の学校に通っているの?」

「そうですね。...それで通学しています」

「じゃあ殆ど...彼と一緒なの?」

「...羨ましいですか?」

「そうだね...」

「...でも和馬さんの学校生活を見れるのは貴方の特権だと思います」

「そうだねぇ」


それから私は真剣な顔で乙武さんを見る。

すると乙武さんは苦笑した。

私も苦笑しながら。

そのままクスクスと笑い合った。

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