第26話 神里由希子と在里和馬


5月になった。

もうすぐテストなのだが。

5月16日辺りに中間考査がある。


5月3日になったその日。

俺は外出をして近所の商店街を歩いていた。

何をしているかと言えば。

乙武星羅さんの誕生日プレゼントを探しているのだ。


「...それにしても何が良いかな」


そう呟きながら俺は見渡す。

この商店街は案外、少子高齢化もあって若者を取り入れようと頑張っている部分があって...比較的、若者世代にも受けそうな物が売ってある。

なので商店街に来てみたが何も浮かばない。

そりゃそうだろうけど。


女子にプレゼントとかありえないだろう。

そう思いながら歩いていると目の前に小学2年生ぐらいの女児が居た。

誰かにそっくりな女児。


誰にそっくりなのか分からないが誰かに似ている印象がある。

暫く観察していると女児は迷子っぽかった。

あちこちを不安そうにフラフラ巡っている感じだ。


「あの。どうしたの」


何をしているのか。

しかし馬鹿だな俺も大概に。

女児とかに簡単に声をかけて良いもんじゃない。

1人きりの女児に、だ。

だけど何だか放って置けない気がした。


「あ...」

「迷子?」

「...はい。迷子です」

「...そうなんだね。...家の場所...分かる?」

「薬を買いに来たら家の方角が分からなくなったんです」

「...そうなんだ。もし良かったら警察とか行く?」


そうしていると「こら!御子!」と声がした。

その声は聞き覚えのある顔だった。

俺はその顔を見る。

それは...八頭身の美少女。

間違いない。


「...あ、アンタ...」

「あ...神里...?」

「...御子を救ってくれたのか」

「...迷子だったからね」

「...そうか...」


「御子」と言いながら御子さんを叱る神里。

俺はその神里にハッとした。

それから「神里」と尋ねてみる。

神里は俺を見る。


「何?」

「...お前...星羅さんの好きなもの分かる?」

「好きなもの...ああ。誕生日か」

「...そうだな」

「そうだな。...じゃあ先ずは私の家に来るか」

「へ!?」


俺は驚愕しながら神里を見る。

「しかしそこまで世話には」と言うが。

神里は「お礼がしたい」と俺を見据える。

俺は困惑しながらも付いて行く事になってしまった。

断る勇気が無かった。



神里の家に来ると。

いきなり平坦な地面で神里が派手に転んだ。

それから膝から出血する。

俺は訳も分からず「大丈夫か?」と聞く。

たまたま絆創膏を持っていたから良かったのだが。


「すまないな」

「...いや良いけど。あんな何も無い場所で派手に転ぶなよ」

「...」


神里の家は少しだけ古い感じの家だった。

婆ちゃんの家、と言っても過言じゃ無いぐらいだ。

俺はその事を思いながら玄関から上がる。

すると向こう側から「あら?」と声がした。


「まあ。由希子ちゃん。どうしたの?その子」

「...同じ学校のおと...」

「彼氏?」

「違うわ」


母親と思われるその美魔女は。

40代ぐらいの黒髪の美人。

超美女性だった。

俺は驚愕しながら神里を見る。

すると神里は手すりを伝っていた。


「?...何をしているんだ?」

「...ああ。気にすんな」

「お姉ちゃん...」

「何も言うな」


それから神里はゆっくり手すりから離れてから歩き出す。

そして和室に。

客室に通された。

神里がゆっくり目の前に腰掛ける。

俺も促されて腰掛ける。


「...今日...在里を呼んだのには理由がある。...丁度良い機会だから話すけど...私、アンタに会いたかったから」

「ま、待て。それは一体。...お前は俺が好きなのかな」

「違う。そういう意味じゃない。...妹のお礼もあるけど」

「...どういう?」

「在里。...私からの頼みだけど。是非、彼女と付き合ってほしい。乙武星羅と」

「またなんで?お前、そういうのはお前自身が許さないって...」


いきなりだな。

御子さんが俺達の前にお茶を運んで来る。

俺は頭を下げながらそのお茶を受け取ってから飲む。

そして神里を見る。


「...私には将来が無いかも知れないんだ」

「...将来ならあるだろう。わかい...」

「急速に進んだ悪性の脳腫瘍なんだ」

「...は?」

「悪性癌に近いグリオーマって言ったら分かるか」

「...お前...まさか」


それで何も無い所で派手に転んだり。

手すりを伝っていたのか?

俺はそう思いながら神里を訝しげに見る。

すると神里は手を見せる。

そこには傷跡がいっぱいあった。


「最近、視界が霞んだり。...何かおかしいって思った」

「...」

「...それで大学病院に行ったんだ。そうしたら進行が早い悪性の脳腫瘍って言われたんだよな」

「信じられない。お前が?」

「そう。私が、なんだ」


そして神里は俺を見据える。

俺はその姿を見ながら複雑な顔をする。

すると神里はお茶を飲んでから俺を見てきた。


「若いヤツは病気の進行が早いって言った。...私は20歳ぐらいまで生きられないかもしれないんだ」

「それでお前は...俺と星羅さんが...くっ付いてほしいって願っているの?」

「...そうだな。...色々考えてからそう思ったんだ」

「...お前がまさかそういう事になっているとは」

「そうだな。私も驚愕だよ」


神里は苦笑しながら俺を見る。

その事に俺は「...星羅さんは知っているのか」と聞いてみる。

すると神里は「知ってるよ」と答えた。

それから「この前話した」とも言う。


「...何だか最近、星羅さんに元気が無いのはそのせいなんだね」

「そうだね。言わなかったら良かったのかもだけど」

「誰にも知らせないのは最低な真似だよ。やめた方が良い。...俺の経験上」

「...そうだったな。すまない」


俺の怒りにそう言いながら神里は無言になる。

練炭自殺した母親と重なる部分がある。

思いながら俺は神里を見る。

神里は無言でフッとなる。


「まあ私みたいなのは死んで良かっただろうけど。アンタにも最低な真似をしたしね。こういう人間は死んだ方が良い」

「冗談でもそんな事を言わないで。...怒るよ」

「...アンタはその姿でずっと居なよ。...私の期待を裏切らないでほしい」

「...ああ」


そして俺は涙を流して横で泣いている御子さんを見る。

それから俺は神里を見る。

神里はそんな御子さんを撫でながら「私としては...今までの事を今、謝りたいんだ。...アンタに。...死ぬ前にしておきたい」と言う。


「...あくまで死ぬ前提で言わないでほしいけど」

「私は20歳まで生きられない可能性があるって言ったから」

「...」

「...それはそうとアンタは...何かを星羅に贈りたいって言ったよね」

「...ああ」

「星羅のプレゼントはきっとアンタからも告白だ。...まあ冗談は置いても...何でも喜ぶと思う。そう悩まないで良いと思うしな」


神里はそう言いながら俺に笑みを浮かべる。

俺はその顔を見ながら「そうだな」と話した。

それから考え込んだ。

そして。

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