第10話 互いの心音
☆
お兄ちゃんが帰って来た。
その顔は少しだけ何だか複雑そうな顔をしていた。
何かあったのだろうか、と思いながら私は声をかける。
するとこう返事があった。
「...ああ。いや。何も無いんだ。大丈夫だよ」
だけど私は昔から居るから知っている。
これは何かあったという事を。
私はお兄ちゃんを見ながら「そうなんだ」と言ってから笑顔になる。
これで問い詰める様な真似はしない。
何故ならお兄ちゃんはそんな真似をすると更に喋らなくなってしまう。
「...どうしたの?」
「...いや。何でも無いよ。お兄ちゃん。...その。ちょっとお願いがあるんだけど」
私は話をすり替える。
それから私はチラシを取り出す。
それはアニメショップでのコスプレ撮影会の案内チラシ。
私から受け取ったそのチラシを見てからお兄ちゃんは見開きながら私を見る。
「これに行きたいの?」
「そうだね。コスプレなんて最近してない」
「...どういうコスプレなの?」
「ん?...そうだね。...当然、尊様かな」
「そうか。...良いんじゃないのかな。葉月らしいよ」
「有難う。お兄ちゃん」
まあ実際...私がこの場所に行きたいのは...それだけじゃない。
コスプレ撮影会だけじゃない。
何をしたいかといえばお兄ちゃんと一緒に店内を巡りたい。
つ、つまり。
でーt...いや違うけど。
「良かった。丁度俺も気晴らしにアクリルスタンドとかのアニメグッズを見たいって思っていたから」
「そ、そうなんだ。...じゃ、じゃあ巡ろうか」
「そうだね」
そして笑みを浮かべるお兄ちゃん。
だけど何だか顔の表情が複雑だ。
私がこれはサポートしないといけないよね。
そう思いながら私は気を込める。
それからリビングに来たお兄ちゃんを見る。
お兄ちゃんは悩ましい感じで落ち込んでいた。
私はずっと考える。
そして考え込んである1つの答えに行き着いた。
まさか...いや。
それは。
「...お兄ちゃん」
「うん?何?」
「...まさか例の彼女?」
「...」
お兄ちゃんはビックリしながら私を見る。
そして「い、いや?」と動揺する。
私は考え込んだ。
それから「...」となる。
これ何かマズイ気がする。
「お兄ちゃん。...何があったの?」
「...な、何がとは?」
「...何だか悩んでいるから」
「何もないよ?アハハ...」
「...」
つい聞いてしまった。
だけどお兄ちゃんは否定する。
私はその反応にジト目になってからお兄ちゃんを見る。
ふーん。言わないつもりか。
そう思いながら私は口をへの字にする。
「...ねえ。お兄ちゃん」
「な、何」
「...私とその彼女さん。どっちが可愛い?」
「ちょ。それどういう意味?」
「答えて」
「...可愛いって...いうか。...その。葉月は(義妹)として可愛いし好きだよ」
違うなぁ。
聞きたいのはその答えじゃないんだけどな。
そう思いながらも、まあでもその概念は抜けないよね、と考えてしまう。
私は溜息を盛大に吐いてからお兄ちゃんの大きな手を見る。
まさか手を繋ぐ訳にもいくまい。
だってお兄ちゃ...いや。
これなら?
「葉月...さっきから何かおかしいよ?」
「私は至って普通だよ。お兄ちゃん」
「...?...!!!!?」
私はゆっくりお兄ちゃんの横から座り寄り添う。
それから膝の上にあるお兄ちゃんの手に対し私の手を伸ばしてお兄ちゃんの手をそのままそっと握った。
そうかこうすれば良いんだ。
どうすれば良いかって?
答えは簡単だ。
「な、何をしているの!?」
「え?これは兄妹のスキンシップだよ」
こう答えれば何でもアリだと思う。
これから境界線をぶっ壊していったら良いんだ。
考えながら私はお兄ちゃんを見る。
お兄ちゃんの手はゴツゴツして大きかった。
運動部じゃないんだけど大きい。
そうかこれが男の子の手か。
「ま、待って葉月」
「...ん?」
「兄妹のスキンシップって...これは」
「私はあくまでスキンシップって思ってる」
「...い、いや。でも何だか」
「まあまあ。年頃の普通の兄妹ならこういう事するよねぇ」
嘘ばっかり。
全部、恋愛アニメの中の話だ。
私達はあくまで兄妹。
血が繋がってないとはいえ、だ。
そう思いながら私はお兄ちゃんの手を握る。
「...」
だけど兄妹だからと言っても血は繋がってない。
血が繋がっていたらヤバいけど繋がってないから。
だから良いよねこういうの。
だって好きだもんね。
お兄ちゃんが。
「葉月...」
「...お兄ちゃん。私はこれは兄妹のスキンシップって思ってるから。全然大丈夫。やましい事は何も。何一つないよ」
「な、何が大丈夫なのかな」
私は手を合わせてから「それにしてもさ。お兄ちゃんの手。大きくなったよね」と笑顔になってお兄ちゃんを見る。
それから私は寄り添う。
お兄ちゃんは赤面しながら私から必死に離れるが。
それを逃さないぐらい端っこまで身体を詰める。
「...な、何だか恋人みたいだから止め、冗談は止めてくれないかな。葉月さんや」
「恋人?お兄ちゃんは恋人って思っているの?妹を?変態だねぇ...お兄ちゃんのスケベ...」
しかし嘘ばっかり。
私も十分な変態だと思う。
兄を異性として好きになるとか本気で変態の極み。
あってはならない話だ。
だけどね。
あくまで血が繋がってないんだよ。
あの日からきっと好きになったんだよ。
「...」
「...」
猛烈な心音。
互いの心臓の音が鳴り響く。
かぁっと身体は無茶苦茶に熱い。
冷やす為の室内の換気扇は回っている。
だがマグマの様に熱い。
手も何もかもが溶けてしまいそうだ。
このまま身を任せて溶け合って一心同体...になれれば。
いかほど楽か。
「は、葉月。冗談抜き...で。俺達は兄妹なんだから。アニメみたいな...」
「ここはリアルな世界だよね。お兄ちゃん。変態さんだー」
「じゃ、じゃあもう離して...」
「...お兄ちゃんはこうされるのが嫌なの?」
「い、嫌って事じゃないよ。妹は可愛いなって」
「じゃあもしだけどさ。...義妹と義兄の境界線を超えたら?」
「境界線をこえ...え?」
直後。
お兄ちゃんの身体の熱が爆上がりした気がした。
私も激しいぐらいに心臓が高鳴る。
血圧も何もかもが相当に高いだろう。
測ったら1000とかいっているじゃなかろうか。
静脈も動脈も全部壊れるぐらいに血流が強くなっている気がする。
血圧計が壊れる。
あまりに恥ずかしくなって私は正気に戻った。
パッとお兄ちゃんから手を離した。
それから唇を噛んで元に戻す。
そしてニコッとした。
「な、何でもない。アハハ」
そして私はお兄ちゃんを振り切ってそのまま玄関に向かう。
これ以上この場所に居たら心臓が大爆発する。
取り敢えず気を持ち直したいから。
コンビニへ行こう。
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