第31話 神里由希子の思いと在里葉月の思い
「...」
俺は無言で電話を切った。
遂に気付かれたか。
そう思いながら...俺はスマホを観る。
確かに昔は母親の件もあり荒れていた。
その時に出会った女子の1人が乙武星羅さんだった。
「...はぁ」
そうため息を吐いているとジュース。
飲み物を持ってから葉月が現れた。
露店で買ってくると言ってから花束を置いて居なくなっていたのだ。
俺は笑顔の葉月から渡されたそのジュースを有難く受け取りながら飲む。
「和馬さん」
「...うん?どうした?」
「...何か...変な事でもあったの?...何だかスマホで電話を取ってからおかしいよ?」
「...いや。何もないよ。...何もね」
「口調も変わったし」
「...」
俺は盛大に溜息をまた吐いた。
それから真剣な顔で葉月を見る。
すると葉月はビクッとしながら俺を見た。
イラッとした野郎に視線を向けられた様に萎縮する。
首を振った。
「...実はな。...俺は乙武星羅さんに...昔、会った事があるんだ」
「...え」
「...別の町の引っ越す前の子供会で会ったんだ。短期間だけだったけど。...お前が熱を出して寝ていた時の事だ」
「...そ、そうなんだ。ふーん」
「...葉月。昔の俺は荒れていたろ。だけど...直ぐに調子が戻った。それは...彼女のお陰でもある。つまり...星羅さんの」
「...」
葉月は「...ねえ。どこまで気付いていたの?星羅さんって事に。...和馬さん...星羅さんを突き飛ばして助けているよね」と言ってくる。
俺は冷や汗が出る。
そして無言になっていると葉月は畳み掛ける様に言ってきた。
「その時には既に乙武星羅さんって気が付いていたんじゃないの」
「...い、いや。そういう訳じゃない」
「...ずるいなぁ...」
涙を浮かべた。
それから震え始める葉月。
そして踵を返した。
ダッシュで走って行く葉月。
「葉月!待て!オイ!!!!!」
俺は慌ててジュースを捨てて。
花束を置いて走り出す。
そして猛ダッシュで走って行く葉月を追う。
人混みをかき分けて走る。
「クソ!なんちゅう足の速さだ」
そう言いながら俺は葉月を追う。
しかし見失ってしまった。
クソ!葉月。
どこに行った。
☆
涙が溢れて空に消える。
ずっと大粒の涙が止まらない。
ずるいずる過ぎる。
何でそんなの。
初めから運命は決まった様な...そんなのアリ?
おかしいよ。
私だって異性として和馬さんが好きなのに。
大好きなのに。
「...」
気が付くと私は分からない場所に居た。
ここは...町の中心から外れている。
だけど丁度良かったかもしれない...今の感情では。
そう思いながら私は落ち込んで初めての公園に来た。
それから盛大に溜息を吐いてブランコに乗る。
涙が止まらない。
「はぁ...」
そうやってまた思い出して落ち込んでいると「ねえ」と声がした。
顔を上げるとそこに...八頭身のニット帽の女性が居た。
制服を着ている。
無茶苦茶な美女だが...だ、誰?
そう思いながら見ていると「アンタ。確か在里葉月だよね」と女子は言う。
「...え?貴方は...」
「私は神里。...神里由希子」
「...じゃあ貴方が...神里...あ。呼び捨て...」
「神里でも何でも呼べばいい。呼び方なんてどうでも良い」
「...」
私は無言で彼女を見る。
すると彼女は棒の飴を舐め始めた。
何かその棒の飴をゆっくり私に渡してくる。
棒の飴を受け取りながら私はまた涙を浮かべた。
「しかし。アンタなんでこんな場所に居るの?」
「...何でも良いでしょう。私がこの場所に居る事が悪い事ですか?好きで居るんですけど」
「いや。私の家近いんだよね。だけど在里の家は遠い。何でこんな場所に居るの?寂れた場所なのに」
「...」
私は飴を食べる。
栄養補給をしてから神里を見る。
神里はブランコをぶらぶら動かす。
だけど左手は鎖を握る為に動いてない。
私は「?」を浮かべて見ていると。
「...もう知ってるかもだけどさ。...私、最近、抗がん剤治療し始めてさ」
「...?」
「昨日から髪の毛が抜け落ち始めてな」
「...え...」
まさかの言葉に私はバッと音が鳴りそうな感じで神里を見る。
すると神里は私を見ながら「頭の腫瘍が左手の神経圧迫していてさ。...動かなくなってきている」とブランコを動かす。
よく見ると杖を持っていた。
私は「...」となってから落ち込んでいると。
神里は帽子を脱いだ。
「...あ...」
その下はあまりに真っ新な坊主頭だった。
私はまた衝撃というかショックを受けて見開く。
それから神里を見ていると神里またゆっくりとニット帽を被った。
そしてオドオドしている私を見る。
すると神里は静かに私を見据えながらこう言った。
「私は長く生きられない。多分、幸せにならない。...だけどアンタはどんな形であっても健康。...幸せになる未来があるよね」
「私は...」
「まあなんつうかこういうのはどうでも良いけど。...何か見せたくなったから見せたけど」
「...?」
「在里にフラれたか何かあったんだろうけど。私は在里の義妹の癖に在里と違ってアンタはなよってしている姿は今の私にはかなりムカつく姿に見える」
「...!」
私はその言葉に俯く。
そして飴を舐めていると神里は右手で私の頭を撫でた。
それからこう言ってくる。
「...アンタはまだ終わっちゃいない。始まりにすら立ってない」
「...え?」
「神里と付き合うのが最後なんでしょ。アンタの最終目標は」
「...確かにそうです...けど」
「もう終わったって思っているかもだけど。...私は終わっているとは思ってない。終わりにすら値しないって思っている」
「...恋愛した事ないでしょう。貴方は」
「...」
「私はこの恋愛病が苦しいんですよ。この痛みは貴方には分からないでしょう。偉そうに...」
「...アンタは私という人間に好きな人が居ないとでも」
神里の右手を退かしているとそう言われた。
私は「え?」となってまた衝撃を受けながら神里を見る。
神里は私を見据えた。
ゆっくり神里は空を見上げる。
「私がもう良いって言ったけど。...私は乙武星羅が同性として好き」
「それって...」
「私はこの先も健康なら心から大切にしたかった」
「...」
そして神里が私に向いてくる。
ふっと笑う。
それから「もう一度言うけど。それもあるけど。この17年間だけど私は青春だけは色々な人に本当に色々と教わったから言う。というかこれだけは分かる。アンタはまだスタートラインに立っちゃすらいない。遅かれ早かれ全てをやり遂げてから落ち込んで後悔しな」と言いながら私を見た。
「...立てるか。...だったら戻りな」
「...有難うございました。...飴玉」
「そんなのどうでも良いよ。たまたまポケットにあっただけ」
私は神里由希子に頭を下げてブランコから立つ。
その場を離れそして走った。
戻る為に。
全てを...やり遂げる為に。
大好きを伝える為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます