第12話 3Dアバターの完成

 2月上旬。VRサーバーも完成し一息ついているところに一通のメールがきた。


『5期生3Dアバター最終調整の日程についての連絡』


 というメールのタイトルだった。先日、宮野マネから言われた2月から忙しくなるという言葉を思い出して少しだるくなる。


 メールによると、日程は2月14日、バレンタイン当日らしい。その日には特にこれといった予定はない。と言いつつも少し期待している自分がいる。


 頭を振ってその考えを振り払いながら、カレンダーを見る。14日には何も予定が入っていないことを確認したのち、その日にばつ印を記入する。そしてまだ見ぬアバターを楽しみにしながら追加のVRサーバーを作り始めるのだった。


 ◇


 2月14日その日。3Dアバター最終調整の日である。


 本社ビル内のいつもの会議室に行くと既に宮野マネとエレナさんがいた。


「おはようございます、宮野さん、エレナさん」


「おはようございます、岬さん」


「おはようございます!兄様!」


 2人の前の机には、4枚の紙がある。そこには4人の人物の絵が描かれていた。


「3Dアバター楽しみですね!兄様!」


「ものすごくがんばってくれたらしいから、あとでお礼しに行こう...」


「おはよ〜、お、せんせーじゃん」


 次に入ってきたのは日々谷さん。


「何してるの?...お〜!きょーじゅだ!...エレちゃんは...市長?ゆなちゃんはなんだろう、お姉さんかな...?」


「じゃああなたは妹ね」


「うわっ!?」


 音もなく日々谷さんの後ろに立って彼女を驚かせていたのは塩見さん。日々谷さんが僕のアバターをきょーじゅだと言い始めた頃からいた。


「おはよう、塩見さん」


「おはよう、先生」


「............」


 先生が定着してしまっている。せめて、せめて名前をつけていってほしい。


「では、全員揃いましたし、3Dモーションキャプチャールームに行きましょうか」


 宮野マネのその言葉によって抗議の機会が失われてしまったので、そのままついていくしかなかった。


 ◇


 3Dモーションキャプチャールームにて。この部屋にはたくさんのカメラと目の前に大きなディスプレイがあった。


「うわぁ...すっごい」


 そう感嘆の声を出すのはエレナさん。


「では、今から最終調整を始めさせていただきます。本日みなさまの調整を手伝わせていただきます、富田とみたと申します。よろしくお願い致します」


「こちらこそよろしくお願いします。5期生リーダー、夜桜美咲こと岬桜夜です」


 ちなみにエレナさんは冨田さんが現れたとわかるとすぐに僕の後ろに隠れた。どうやらまだ人見知りは完全に治ったわけではないようだ。


「それでは、皆さんにはこちらを装着してもらいます。これで体の動きを検知します。こちらの機会に皆さんの身体データを登録してあるので、そのまま着用してみて動いてみてください。同時にアバターも前のスクリーンに映されます。自分の動きと連動しているかチェックしますので、こちらの指示に合わせて動いてください」


 そう言われながら渡されたのは全身を包む黒いラッシュガードのようなものだった。これで自分の体の動きを検出して3Dモデルの動きと同期させるようだ。


「装着しましたね?では、スクリーンにアバターを映します」


 その言葉と同時に前方のスクリーンには4人のライバーが現れた。


 手を振ってみる。向こうの自分もこちらに向かって手を振っている。笑うと向こうも笑い、真顔になると向こうもそうなる。


「では、その場で何回かジャンプをしてみてください」


 ジャンプをしてみる。向こうの自分が着ているコートの揺れも再現されていて、とても完成度が高いと思う。隣で日々谷さんと日々谷さんのが跳ねているが、気にしないことにする。


「ほらこっちみてきょーじゅ!ほらほら〜」


「やめなさい真宮さん、僕じゃない人にやってあげなさい」


「むぅ、つまんないの」


「まみ、やめなさい。それ以上はダメ」


 やはりというべきか、こちらを揶揄おうとしてきた日々谷さん。それを無視すると、さらにエスカレートしそうだった彼女を塩見さんが止める。先が思いやられるのだった。


 ◇


「では、これでモーションキャプチャーテストを終わります。協力ありがとうございました」


 そして、あれからクルクル回ったり走ったりした。エレナさんの回り方がバレエに似ていた。


 特に問題は見つけられなかったので、そのまま完成になるのだそうだ。


「3Dアバターってすごいね...あんなにぬるって動くんだ......」


 そう呟くのはエレナさん。


「このモデル、VRサーバーでも同じものを使うつもりらしいよ」


「VR...?」


「そうそう、いまSEの人たちがVR学校サーバー作ってリスナーさんとコラボ企画とかそんなのやるらしいよ」


「あ〜、まみーじゃーさんから聞いたことあるそれ、すっごい面白そうだよね」


「自前のサーバーでVRライブとかできたら経費削減にもなるかも、らしい」


「そんなことできるんですね...すごいです...」


 まだみぬVRサーバーについて話す4人。この中に主犯格がいるとは残りの3人は露ほども思っていない。


「まず体育館ができるって話を聞いたことがあるけど...」


 もうできてます。


「そうらしいね、全校集会をVRサーバーでやってみようって企画が4月デビュー直後くらいにあるんじゃないかな」


「へえー、早くデビューしたいなー」


 4人は自分のアバターがデビュー配信しているところを想像するのだった。ちなみに、残りの1から4期生の人たちにはVRアバターデータがなかったので、今作られている最中である。


 氷室香奈のアバターを楽しみにしている自分に気づき、慌ててその考えを振り払うのだった。

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