第7話 幼馴染との再会

 時刻は14:50。僕は第6会議室に向かっている。これから会いたかったけど会えなかった幼馴染と話すと思うと、とても緊張する。採用面接の時よりも緊張しているかもしれない。


 エレベーターに乗って3階へ。そして少し歩いたところに目的地はあった。


 そこの扉には“本宮日奈様、岬桜夜様”という紙が貼られていた。控室かな?


 ノックする。返事が中からあった。とても聞き覚えのある声だった。


「失礼します。」


 中に入ると、そこには懐かしい幼馴染の姿があった。


「5期生の岬桜夜です。よろしくお願いします」


「......2期生の本宮日奈。久しぶり、さーくん」


「っ...」


 そのあだ名も久しぶりだった。高校生になってからはあまり呼ばれなくなっていたから。


「久しぶりですね」


「敬語ダメ。やめてよ、せっかく再開したのに今は久しぶりに会うことができた幼馴染なんだから、私達。あとヒナって呼んで」


 一応先輩後輩の関係なので、敬語をつけて話したら怒られた。まあ、そうだろうね...僕も同い年の人の敬語で呼ばれたくはないもん。


「わかった...ヒナ」


「うん...ありがとう」


 それにしても、ヒナの様子がおかしい気がする。僕が知るヒナはもっとハキハキとものをしゃべる。さっきの敬語を突っ込んだ時みたいに。


「...それにしても、どうしてこの会社に来たの?」


 やっぱりおかしい。表情がぎこちない。


「...夢を叶えるため、かな」


「夢...どんな夢なの?」


「みんなに楽しくゲームをやってほしいっていう夢だよ。ヒナは?どんな夢なの?」


 そう聞くと、彼女の目線が下がる。まるで聞いてほしくないかのような様子だった


「私の夢は...ある人に振り向いてもらうこと。...でも、もう叶わない」


 ...申し訳ないことを聞いてしまった。もう叶わないからそんな表情をしていたのか。


「ごめん、忘れて」


 桜夜がそういうと、日奈は意味ありげに桜夜のことを見るが、何か別の話題を考えていた彼は気づかなかった。


「...ねえさーくん、私の夢ってなんだと思う?」


 そう質問された僕は混乱する。さっき言ったよね?


「え、誰かに振り向いてもらうって」


「はあ......」


「えぇ?なんかものすごく呆れられてるんだけど」


 全く理由がわからない僕はそう聞いた。


「そういうのは察したりできるのに、なんでわからないの?」


「もしかして怒られてる?」


「怒ってないよ」


 これ絶対怒ってる!どうしよう...


「ごめん、何か悪いことしちゃったかな」


「......悪いけど、悪くないから安心して」


 安心できないよ!


 やっぱり...夢を話すのは恥ずかしかったのかな?


「...絶対今的外れなこと考えてるよね?...はあ...」


 え?的外れ?そんなことないはず...


 ジト目になった彼女はこちらをにらんでいる。やっといつもの調子に戻ってくれたかな?


「はああああ......もういいや、さーくんらしいね...」


 長いため息をついて、何かを諦めた、というより悟ったように呟く日奈。


「...私の覚悟はなんだったの...いつになったら私をみてくれるの...?」


 何かヒナが言ったが、すごく小さな声で喋っていたので聞き取れなかった。


 そちらを見ると、彼女はこちらへすごく呆れを含んだ目を向けて、ため息をついた。やっぱり怒ってない?


「さ、この話おしまい!終わりったら終わり!...さて、さーくん、あなたの初コラボ、私がもらっていい?私のマネからは許可もらってるから、あなたのマネと話し合ってきてもらえる?」


「え、それならマネージャーさん同士で話し合えばいいんじゃないの?」


「......これだから、察しがいいのか悪いのかわからなくなる......」


 実のところは2人で会うための口実......まあ日奈のマネージャーにはバレていたようだが、そのための理由づけとしてちょうどよかったのだ。


 マネージャーさん達で検討すればいいという考えを導き出すことができるのなら、さっきの会話で私の真意も導き出して欲しかったと思う日奈だった。


「いいの、私が直接あなたに伝えたかっただけだし」


「そっか、ありがとう」


 こいつ、気づいてないな...?せっかく少しアピールしたのに...


 と、桜夜に視線を送る日奈だったが、またしても気付かれることはなかったのだった。


「これで話は終わり。今日はありがとう。さーくんと久しぶりに会えて嬉しかった」


「こちらこそ嬉しかったよ。コラボできるといいね、それじゃあ、またね」


 笑顔でそう言った桜夜は部屋を出て行った。


 1人になった日奈はそこにへたり込む。


「もう...反則でしょ、それは...さーくんの、ばか」


 そのつぶやきは誰にも聞かれずに消えていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る