閑話2 昔の約束と今の約束
「おはよ〜」「おはよう」「はよ〜」
8年前。桜夜と日奈がまだ中学3年生の頃のある日の朝。
「おはよう、さーくん」
「おはようヒナ」
まだこの頃はお互い仕事ややることがなかったからよく話していた。
「今日、自分の将来の夢とか目標とかを作文して、卒業文集の原稿書くらしいよ」
「うげぇ」
作文や感想文を書くことが苦手な桜夜は、眉をひそめて嫌がる。
「なんでわざわざ思ったことを書かなくちゃいけないんだよ...そんなの難しいに決まってるだろう...」
「えぇ?自分の思ったことをそのまま書くだけだよ?」
「それができたら今こんなに悩んでいないはずなんだが」
そう言いつつ桜夜は、文章を書くためにアイデアなどを紙に書いて頭の中を整理し始めた。
「......全然できてるじゃん」
「ヒナほどじゃないし」
「ふふふふふ」
そうして中学時代の終わりが近づいてくる。
◇
時は流れ、卒業式当日。証書を受け取った後、卒業式が終わったので、2人は教室に戻る。
他のクラスメイトたちが帰ったなか、残った2人はお互いの文集を読んでいた。
「さーくん、ゲームの楽しさ伝えたいんだ、さすがゲーム好きだね」
「...良いじゃん、ヒナは?有名になる...?yootuberにでもなるの?」
「ううん、まだヒミツだよ。有名になったら答え合わせしてあげる」
実を言うと半分当たっているのだが日奈は言うつもりはなかった。
「答え合わせって...どうやるのさ」
「そりゃあ、さーくんのお母さんに会いに行ってさーくんの居場所に突撃して...」
「怖い怖い」
なんだかガチでやりかねない雰囲気を纏った日奈の様子に少し怖くなる桜夜。
「ね、今から一つ勝負しない?」
「急にどうしたんだ」
「いいじゃんいいじゃん、今の私の気持ち、あててみてよ」
「勝負...?」
勝負になっていなかった。
「ええーっと、うーん?寂しい、かな?」
「ざんねーん、さーくんの負けだよ」
「勝てるわけないだろ、わかんないよ」
普通にわからない桜夜はギブアップする。
「そんなにぶちんなさーくんから私が1回なんでもする権利をもらいます!」
「え」
「期限はなし!大人になって言われても忘れたとか無効だとか言わないよーに」
「えぇ...」
◇◇◇◇◇
桜夜が帰った、例の会議室にて。
「昔、そんな約束したなあ...いつ使おうかな、ここぞ、って時に使わないと、あのにぶちんには効かないからなあ...」
いくらアピールしても気づきそうにない彼に対して、絶対に振り向かせて見せると決意する日奈なのだった。
(それにしても、ほんっとにもう!いつもいつも鈍いんだから!何のために恥ずかしい思いしたと思ってるの!)
心の中で文句を言う日奈。それでも、昔からそうだったが、恋愛ごと以外の気遣いがうまくできる優しいところも変わっていなかった、と安心もする彼女であった。
クリスマスも既に終わってしまったので、次のイベントは何か考える。
(初詣、とかかな...?あとバレンタインもあるし...チョコ作るの練習しとかないと...それで気づいてくれるかな)
◇
3日後。12月31日の大みそか2期生コラボ配信に向けての打ち合わせを終えた日奈は、家に帰ろうと本社ビルの1階ロビーに出たところ、桜夜と遭遇した。
「っ!?......」
突然の遭遇に変な声を出してしまいそうになる。そのせいで気づかれたのか、彼は彼女の方を向く。
「本宮さん、こんにちは」
いくら幼なじみ、いくら仲がいいとはいえ、事情を知らない他の人の目がある中で先輩と後輩、しかも異性である2人がいきなり仲良くあだ名呼び、なんてことをしているのは良くないというのはわかっている。でも気持ちは納得いかない日奈だった。
「こんにちは、岬くん。どうしたの?」
あくまでも先輩として振る舞っているかのように話しかけたが、次の彼の一言で猫はすぐ剥がれる。
「今から帰ろうと思うんですけど、一緒に駅まで行きます?」
「行く」
即答である。猫の意味などなかった。
◇
駅へ向かう途中の道でのこと。
「ねえ、さーくん」
「ん、なに?」
さきほどと違って、幼馴染として普通に話せることが嬉しくて、そして少し恥ずかしくて言葉に詰まる日奈。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでも。ところで、来年の初詣なんだけど、一緒に行かない?」
「...良いの?」
「なんで訊き返すの?誘ってるのこっちだよ?」
昔と同じく、自分に自信がない、むしろ悪化してそうな彼を見て、大学で何かあったのか、と心配する日奈であったが、今は違うと言葉を呑み込む。
「わかった、行こうか」
やった、と言わんばかりに笑顔を見せる日奈。
「じゃあ、連絡先ちょうだい?また予定とか伝えるから」
「...はい、これ」
連絡先を交わした2人は、ここが駅前であることに気づく。
「じゃあ、私はこれで。楽しみにしてるね、さーくん!」
「うん、またね」
桜夜に見送られ、駅へと向かった日奈の顔は普段の彼女を知る人からは想像もできないような明るい笑顔を振りまきながら帰宅するのだった。
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