第14話 ホワイトデー
長めです。いつもの1.5倍くらい。
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ヒナに手作りチョコをもらってから1ヶ月弱が経った。今日僕はバレンタインデーにもらったチョコのお返しを買いに来ている。
どうやら、事前に調べたところによるとチョコを渡せばいいバレンタインデーとは違い、ホワイトデーのお返しには意味があるらしく迂闊なものは送れそうになかったので既に買うものは決めてある。
例えばキャンディー。これには「あなたのことが好き」という意味があるらしい。逆にマシュマロは「あなたのことが嫌い」だそうだ。今日だけはマシュマロには触らないことにした。
しかし、今日買うつもりなのはキャンディーではない。好きとかそういう気持ちはお返しじゃなくてはっきり言いたいと思っているし......恥ずかしくて言えない。
じゃあ何を買うのかというと、それはマカロンとキャラメルである。前者は「あなたは特別な人」、後者は「あなたともっと仲良くなりたい」なのだそうだ。
......冷静に考えてみればキャンディーと大差ないのではと思えてきたが、それは考えないことにする。
他にチョコレートをくれた3人と宮野マネにはチョコレートを渡すことにした。
◇
3月14日。ホワイトデー当日。
今日は4月1日にある
打ち合わせもつつがなく終わり、全員が控室に集まったタイミングで、先日購入したお返しを取り出す。
「はい、これ。バレンタインデーにくれたチョコのお返し」
そう言いながら同期の3人と宮野マネに百貨店で買ったちょっとお高めではある何美味しいと評判のチョコを手渡す。
「お〜!せんせーありがとう!」
「これはこれで美味し、うん。満足」
「ありがとうございます!兄様!」
日々谷さんとエレナさんはお礼を言ってくれたのだが、塩見さんは早速食べている。なんだかなぁ.....
そこで抗議...というよりか遠慮の声が上がる。宮野マネだ。
「あの...私ももらって良かったのですか...?私何も桜夜さんに渡してませんよね...?」
「いつもお世話になってますし、お礼と言うことでぜひ受け取ってください」
「......そうですか、ありがとうございます」
宮野マネは少し嬉しそうにしながらチョコを受け取ったのだった。
「先月もそうでしたが,私もらってばかりですね...次はちゃんと用意するようにします」
「あれ、兄様、まだ袋の中に何か残ってますよ?」
マズい!
「ちょ、エレナさんダメ────」
桜夜があわてて静止しようとして振り向いた先で見たのは、すでに中身を見るために取り出してしまったエレナであった。机の上にはきれいに包装されたマカロンとキャラメルが。もう手遅れである。
「おぉ〜!!」「......なるほど、」「やるねえ、先生」「?どういうことですか?」
順番に日々谷さん、宮野マネ、塩見さん、エレナさんである。エレナさん以外には意味が悟られてしまったようだ。みんな知ってるものなんだろうか...?
「べ、別になんでもないから」
「これで誤魔化すのは無理だって。それが通じるとは思わないことだー!さ、あなたの好きな人を言いなさい!」
「えっ...?」
「言うかぁ!」
滅多に大きな声を出さない僕に驚いたのか例のものの近くにいたエレナさんが固まる。その好きに僕はそれをひったくって控え室から逃げ出す。
「あーあ、行っちゃったー...ざんねん」
「えぇっ!?ちょっと待ってください!?兄様の...あの状態って...好きな人だったんですか...!?」
「......その様子だと...赤坂さんも先生の好きな人に心当たりがあるの?」
「“も”...?塩見さんも心当たりがあるのですか?」
「うん。さっき証拠を見つけた」
「後で答え合わせしましょう!!」
「私を除け者にしないでよー...」
「あはは...その辺にしときましょう、誰しも知られたくないことの1つや2つ、あるんですから」
同期の好きな人考察談義に花を咲かせる残りの5期生たちを見て苦笑し、ヒートアップする前に制止する宮野マネだった。
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一方。ブツを持って逃走した桜夜はというと。
「あーあ...これ絶対後で問い詰められるやつじゃん...このまま帰ろうかな...いや、渡してから帰ろう」
こんなところで怖がっては先日の自分で決めた目標を反故にしてしまう、と帰ろうという考えを却下する。
そして、2期生控室前。今日はヒナがいることは事前に確認済みである。
「(どうしよう...今更だけど怖気ついてノックしようとしても手が動かない...)」
土壇場になって怖気ついた桜夜は控室前でまごまごする。何も知らぬ人がみればおかしな人の完成である。
「(いや、ここで渡さないと)」
そう決心した桜夜はひと思いにノックをした。だがしかし。
「はーい!ちょっと待ってくださーい!」
帰ってきたのは2期生リーダー、高野さんの返事であった。
「(!?そうだった...ヒナが今日ここにきていたのって...コラボの打ち合わせだって2期生のマネージャーさんが言ってたじゃないか!)」
ヒナがいるか否かについてだけしか考えていなかった桜夜には残りの2期生の2人の存在がすっかり抜け落ちていた。
「(まずいまずい...どうすればいいんだこれは!?)」
このままではダメかと思われたが、思わぬところから助けが入った。
「待ってみゆちゃん...もしかしたら私かも」
「え、そうなの?ヒナちゃん何か約束でもあったの?」
「まあ、そんなところかな...違うかもだけど」
「えぇ...?」
そんな会話が中から聞こえてきて、桜夜は思わず大きなため息をつきそうになる。しかしそこで新たなことに気づく。
「(......これはこれで渡した後ヒナが大変なんじゃないか!?)」
「はーい、なんですかー?って...さーくん!」
悩む暇もなくヒナが出てきた。
「うん。久しぶり、ヒナ。お取り込み中だったらごめん」
「ううん、大丈夫。というかそれって...」
「......その、お返し」
「.........ありがと。でも今かぁ...どうしよう、みゆちゃんにまたネタ与えちゃうじゃん...」
「...ごめん」
やはり、懸念していた通りのようなことになるのだろう。
「いや、そういうことじゃなくてね!?すっごく嬉しい!中身何か見てもいい?」
「それは、その、また後で見て...じゃあ」
「えっ!?もう行っちゃうの!?待ってさーくん...行っちゃった......」
流石に恥ずかしさが限界突破したのでさっさと退避してしまう桜夜。それを見て少し残念に思う日奈。
やはり中身が気になり少し袋の口から覗いてみる。そこに入っているのはマカロンとキャラメル。
「...っ!」
お返しの意味を知っていた日奈は、当然この袋に入っているものの意味もわかる。できれば直接言って欲しかったものだが。
しかし、あれだけ進展のなかった彼との関係が彼が私のことを少しでも意識してくれていることによって進んだと思うと嬉しくて、思わずもらった袋を抱きしめてしまう日奈なのだった。
「ヒナちゃーん?結局なんだったのー?...あらあら、これはこれは」
流石に長いと感じたのか、中からリーダーである美優が日奈に尋ねる。ちょうど袋を抱きしめてしまったタイミングで。
「ぅえっ!?ちょ、みゆちゃん!今のなしなし!」
「ダメでーす☆ さ、教えてもらおうじゃない。あ、ゆうきはダメだよ一旦退出してくださーい。あ、どっか行かないでね」
やがて廊下には日奈と入れ替わりで何も知らない彼女らの同期、山田ゆうきが残されるのだった。
「ひどくね...?」
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突然締め出されて10分ほど経った頃。言われた通り廊下で暇を潰していると、ようやく入室許可が降りた(?)。そして中に入った俺を待っていたのは顔を真っ赤にして言葉にならない言葉を発している本宮とめちゃくちゃニッコニコないい笑顔を携えた高野だった。
────山田ゆうき 談
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