閑話3 かつての桜夜
高校生だった頃。一時期、僕は他人を信じられなくなってしまった。
◆─────
高校1年生の時。それは突然、いや偶然に見てしまったものだった。
当時僕がいたクラスには、学年でも有名になるほど仲のいい3人組の女子がいた。彼女らの仲の良さはいつも3人で行動しているほどだった。
やがて、その3人組のうちの1人に彼氏ができたらしい。付き合い始めたことで、3人で共に行動する時間が減っていく。
そして僕は見てしまった。
ある日、教室で発生したゴミをまとめてゴミ置き場に運んだ帰り。校舎裏で例の2人が話し合っているのを見た。
「────最近、あいつ付き合い悪くない?」
「そうだね、彼氏ができたからなんじゃない?でも」
とっさに僕はその場から離れた。陰口だと思った僕はそれ以上聞いていられなくなったからだ。
ちなみにこの時の2人の会話には続きがある。
「────でも、仮にわたしらが同じ立場だったら?友達よりかは彼氏を少し優遇しそうじゃない?」
「......そうね、その通りじゃん。ごめん、後で謝りに行こ」
全然陰口じゃなかったのだが、残念なことに勘違いはなおせなかった。
教室に走って戻ってきた桜夜は、友達──のはずのクラスメイトから声をかけられる。
「なあ岬、今日みんなで晩御飯食べに行かね?」
さっきのことがなければ二つ返事でOKしていたのだが、その時の桜夜は誰のことも信じられなかった。
「ごめん、今日用事ある」
これ以上、怖いものは見たくない。そんな現実逃避とも取れる思考回路を働かせた結果、嘘をついた。
「...そうか、すまん。また今度行こうぜ」
そう答えた彼は教室を出て行った。
この時の彼が僕の嘘に気づいていたかどうかはわからない。しかし自分の顔は罪悪感でいっぱいになっていただろうから気づいていたかもしれない。
その日、僕は初めて人のことを信じなかった。
しばらくして、教室を出て校門に歩いていると、日奈と会った。
「どうしたのそんな顔色して!?何があったの!?」
そんなに酷い顔だったんだろうか。日奈は荷物を投げ出しそうなくらい慌ててこちらに走ってくる。
「ちょっと、いろいろあって...」
「全部話しなさい!」
◇
学校では非常に言いづらいことだったので、彼女を自宅に招いて話すことにした。当時はお互いまだ隣同士に住んでいたので時間的にも問題はなかった。
「...たぶんそれ勘違いだよ。あの3今日も仲良く帰ってたもん」
それから日奈からいろいろ聞いたが、聞けば聞くほどこちらが勘違いだったとわかる内容だった。
しかし、1度でも他人のそういう1面を見てしまった桜夜にはそれでも信じることができなかった。
その後も人を信じられずぼっちになってしまい高校生活が終わる...かと思われたが、そうはならなかった。事情を知っているとはいえ、日奈がいつも一緒に行動してくれていたから。
おかげで僕に対するイメージが悪いものとならず、ただ単に喋らないだけのやつ、という評価にとどまったのだ。
まあ、高校生なので、小学校やそのくらいの時とは違って距離感はあるとは思うが、それでも近くにいてくれたのは確かである。
僕は彼女のおかげで完全な人間不信になることを避けることができた。何か話す時もサポートしてくれたし、それのおかげで高校2年生の時にはぼっちではなくなっていた。人とは裏表があって然るべきものだと納得したから。
それでも、ヒナは別である。彼女に万が一嫌われでもしたら......それすなわちぼくに救いようがなくなったということなのではないか。それに今の関係性が心地よいと思っていた僕は、“変化”を恐れて、そこから一歩も進まず退かずで停滞している。そしてついにはそこから関係性が発展も疎遠もせずに高校を卒業してしまった。
◆─────
ホロスクールVに入社してから出会った人々はライバーであろうがマネージャーさんであろうがSEさんであろうが、みんなフレンドリーで仲が良かった。お互いを信じ合えている、ということだろう。
初めはその労働環境に歓喜したものだが、次第にこうも考えるようになった。そこにぼくの入り込む余地はあるのかな、と。
それでもみんなは新しく入ってきた人たちにも優しく丁寧に仕事を教えてくれている。
そんな人たちを見て、僕はようやく理解することができた。
何かに怯えて可能性を全て捨てるよりかは、怯えに耐えてやりたいこと、叶えたいことに向かって全力で進むべきだ、ということを。
ここまで考えて、ようやく長年の心の闇を浄化できた気がしていた。だが、まだ悩み事があったのだ。しかし...
「(ヒナの事好きだとか......恥ずかしてくて言えない)」
再び悩み始める桜夜だったが、今度の悩みはこれまでとは比べ物になく清々しいほど、そして微笑ましい理由で一貫していた。
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