第3話 同期のみなさん(1名を除く)と食事に行ったら...

 絵師さんようじょのお兄ちゃんにされた1週間後。再びメールが来ていた。それも2通である。1つ目は知らない人だった。


『初めまして。5期生マネージャーを勤めさせていただきます、宮本みやもとまみと申します。次の会合ですが、12月の最初の水曜日で検討しています。もしご都合が悪ければ御連絡ください。』


 今は特に何も予定は無い(NEETだから)ので問題ない、と返信する。


 そしてもう1通も目を通す。こちらは日々谷まなさんからだった。


『今週日曜日に5期生のみんなで昼食にでも行きませんか?』


 という内容だった。こちらも異存はないので了解の旨を送っておく。


 VTuberになってから毎日が楽しくなったと思うのだった。


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 日曜日。本社ビルの近くのイタリアンレストランサイ◯リヤにて、赤坂さんを除く5期生3人が集まっていた。


 この中では最年長なので僕が音頭を取る。


「じゃあ改めて自己紹介といこうか。もちろん場所が場所だから、“もうひとつの名前”は言わないようにね」


 2人とも頷く。


「では改めまして、僕は岬咲夜、ブラック企業を辞めてここに来ました、23歳の社会人1年目です。よろしくお願いします。」


「私は日々谷まな、大学1年生です。うーん...好きなものは甘いものです!よろしくお願いします」


「なんで好きなもの言ったし......私は塩見由奈。趣味は読書と映画鑑賞。文学なら得意だからよろしく」


「ゆなちゃんも好きなの言ってるじゃん!」


「趣味だし」


「.........仲良いんだね」


「良いよ!」「良くない」


 同時に相反する答えが返ってきて戸惑う。


「えっ......ゆなちゃん...私のこときらいなの...?」


「いっいや、違う、嫌いじゃないから」


「じゃあ仲良しだね!」


「.........そろそろ本題にいこ」


 ようやく話せそうだ。と、その前に。


「その前に...何か注文しようか」


「私きのこパスタがいい!」


「...グラタンでお願い」


「ぼ、僕がするの?...まあいいけど、きのこパスタとグラタンね?」


 そう言われて注文用紙に番号を記入して店員さんに渡す。そして再び彼女らの方に向いた。


「じゃあ何か雑談でもしようか。あ、みんな同期だし、お互いに敬語ナシにしよう。みんなはどうしてこの会社に行こうと思ったのかな?」


 とりあえずお互いを知るのにちょうど良い話題といえばこれなので聞いてみる。


「私はやることが見つからなかった時に、VTuber募集の告知をtwetterで見つけて面白そうだから応募した」


 そう答えるのは塩見さん。なんだか彼女はマイペースな気がした。


「私は、お母さんがアイドルだったから、多くの人に接する仕事をしたかったんだけど、アイドルになるのは少し怖かったし、VTuberならいけるし、自分の個性もさらけ出せると思ったから!」


 なるほど...お母さんに憧れてサービス業に、か。良いね。


「さくらんせんせーは?」


「っ!?...誰だそれは...?」


「もちろんあなただよ?」


 何がもちろんで何が先生なのか。全くわからない。敬語なしにした途端フレンドリーになったな。そういう明るい子なんだろうか。


「スーツ着てて丁寧な喋り方で賢いから先生!」


「あ、ハイ」


 考えることを放棄した。よくわかったのだ。この子は天然に違いない。


「で、なんでVTuberになろうと思ったの?」


「...僕はもともとゲームの楽しさ、素晴らしさというものを伝えたくてゲームをプログラムする会社に入ったんだよ。でも、辞めさせられて、自分のやりたい夢を叶えるためには何が正しいか考えてる時に、この仕事にありついたんだよ」


「へえー。せんせーだね」


 何がだ。ちょっとよくわからない。


「まあ、僕はそんな感じかな」


 そしてちょうど話が終わったタイミングで注文した料理がやってきた。きのこパスタ、グラタン、ボロネーゼである。


「おいしいね」「ん、うまうま」


 しばらく黙々と食べる時間が続いた後、やがて日々谷さんが口を開いた。


「そういえばさくらんせんせー、ひとつ聞きたいことがあるんだけど、良いかな」


「ん、なにかな?」


「せんせーって好きな人いるの?」


 いきなりそんなことを言われて飲んでいた水を吹き出しそうになる。そして割と否定できない自分に驚く。


「............えっと......?」


 かろうじて捻り出した言葉はこんなのだった。


「いるね、私の直感はこう言っている」


 と、塩見さん。


「えー!?良いじゃん良いじゃん!!教えてよせんせー!」


 とは日々谷さん。いる前提で話してない?


 2人にずいっと詰め寄られる。くっそ...勝てそうにないな...


「えっと...その、まだ言いたくない、かな」


「いるんだ」


 ...しまった。肯定したも同然じゃないか...


「まあ今問い詰めても仕方ないし、やめとく」


「そうだね。食べ終わったし、帰ろ?」


 ......見逃された気がした。と同時に、次はない、とも言われた気がした。


「「「ごちそうさまでした」」」


 それぞれの会計を済まして、店を出たところで解散となった。


「また今度聞くからねー」


 改めて考えるとなんで問い詰められるのかわからなかった。


 まあ、いいか。


────────────────────


11/4追記

主人公、岬桜夜の年齢に誤りがありました。

25歳とありましたが、正しくは23歳です。申し訳ないです。

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