メロディだってたまには休みたいので、言葉を野放しにしてみた

相棒


 拝啓 相棒へ

 「お元気ですか」だなんて…聞くまでもないわね(笑)


 貴女はいつも、誰かの心を捉えて離さない

 スーパースターみたいな特別感はないけれど

 息するように誰かの日常の一部にすんなり溶け込んじゃってさ

 私はありふれすぎていて逆に陰が薄くなってる


 空白を彩って煩くないのもいいんじゃない?

 私が余白をちょっと陣取るだけで面倒くさそうな顔をする人がいるの


 私のほうがお姉さんだし、お洒落のアイデンティティもいっぱい持ってるつもり

 でも…貴女はいつも流行の先の先を行くのね

 それでも時々アンティークを着こなしたり、誰かのブロカントにもなる

 私なんか、お古は通じないどころか、忘れられちゃうんだから

 

 貴女はダイレクトには語らないけれど

 おかげで、いろんな人に同じ好感をもらえるのね

 私ってばお喋りだから

 多くを語る代わりに、分かってもらえる人は貴女ほど多くないわ


 それどころか最近は

 貴女に頼らないと誰かの心に近づくことすらできなくなっていくの


 貴女の些細な変化でさえ

 私を十分すぎるほど飾ってくれるのに

 私がいくら頑張って機転を利かせたところで

 気づいてくれる人は百人中両手分いるかいないか

 ましてや貴女のアクセサリーにもなれっこない


 ねえ、本当はさ

 私が貴女の相棒だなんて言うのも

 おこがましいって思っているんでしょう?


 悔しい

 私だけじゃ何もできないみたいじゃない


 羨ましい

 ころころと姿を変えては、細かい好みに対応できるのが


 苦しい

 型破りができるのはいつだって貴女から


 でも知ってる

 どんなに貴女が私より好かれようと

 変幻自在にその容姿を変えられようと


 貴女が光に触れるよりも早く

 誰かの目に触れるよりも早く

 その姿にぴったりの素敵な名前をあげるのは

 私の特権だってこと


 私が多少意味深すぎたほうが

 貴女の素直さが活きるってことも


 それに甘んじたりはしないわ

 いつか私自身の力で

 世界中の人の心を震わせてみせるから

 見ててよ

 


 Parole et mélodie


 言葉と旋律





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