空腹を満たすことばたち

《飴玉のうた

春の薄紅 苺味

向日葵色の 檸檬味

夕焼け色の 蜜柑味

淡雪色の 林檎味


甘く儚い宝石は

ころり とろりと溶けてゆく


の人がくれた飴玉は

切なく恋しい味がする

あの子がくれた飴玉は

微笑みこぼるる味がする


濃くこっくりと広がった

思い出の味 恋の味


ひとつぶ食べてごらんなさい

ほっと吐息がこぼれたら

きっとあなたは優しい子


《恋情の実り》

恋の果実はいかが?

甘くてほのかに酸っぱい

優しい綺麗な味


でも早くしないと味は

少しずつ、少しずつ

変わっていって

やがて味わえないまま

次の果実が実るのを待つ


だから、おいしいうちに

君に届いてほしいの


片想いも両想いも

全部、素敵な味

美味しいうちに

渡さなくちゃ


君はどんな恋の実をもってるの?

私のこの実りを

君は受けとってくれるのかなぁ…


なあんてね


《らあめんの日》

平常心をもって わりばしを割る

ここでちょっと上手くいかないと

午後の気分にささやかなわだかまりを残す


麺を持ち上げて、ひとくち。

つるり、と口へ飛び込んできた奴らは、あれだけ軽々と私の中へ入っておきながら

胃の中でだんだんと重たい足かせになる


美味しい。美味しいのだけれど。

今日のラーメンはおいしいほどにかなしい

勢いよくすすった麺は、私の中でだんだんとぐろを巻いて

いつの間にか私を内側から締め上げていく


スープをすくって、ひとくち。

しっかりと手の込んだだしの味が、私を小さくほぐしてくれる

さらり、と一瞬で私の一部にでもなってしまいそうで


美味しい。やはり美味しいのだ。

今日のラーメンがかなしいほどにおいしい

誰かのこだわりが向けられる対象に

自分が選ばれたような気がする


誰かの喜怒哀楽も、誰かのご自慢の麺とスープに絡めれば

きっといいアクセントになるのだ

そう思えたら、おいしさは格別だった

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