Fall in fall


 鮮やかな彩に魅了され

 金木犀の馥郁が心を満たし

 生命いのちの実りが君の頬をふくらませる

 微かに体温を溶かした夜風が君の寝顔を撫でる隣で

 星と望月の内緒話が僕を深い眠りに誘う


 あまりにも沢山で

 少しだけもの哀しい置き土産を残して秋が去る頃

 僕の血汐のほとぼりは始まりから一向に冷めないまま

 君の哀愁は今しがた募りはじめたばかりなのに

 こがらしは無造作に虚ろな音を立てて

 一歳ひととせの劇の第三幕を下ろす


 僕の眼に映る初霜の

 すっと透き通った記憶の中に

 まだ煌々と燃える恋情を抱えたちいさな手

 夕映えを照り返して遊ぶ小鳥

 そのぬくもりと純粋さの放つ耀かがやきが

 今も誰かの心を澄みわたらせているのかも知れない


 秋に取り憑かれた僕は

 秋ゆえの寂しさと

 秋ゆえの恍惚の感情に

 まだ未来を掴みあぐねているこの手で

 迷わずそっと君の冷たい手を包んだ


 秋に舞い落ちる葉は

 秋ゆえの美しさと

 秋ゆえの儚さで

 刹那にも足らないその散る瞬間を

 誇らしげに全うしたのだ


 月は

 秋だから

 円いから

 誰かと見ているから

 綺麗というわけじゃないんだね

 綺麗にみえる人にはずっと

 月が綺麗でいてくれたのかな


 綺麗な月を綺麗だと思える

 そんな些細な感覚を一緒に側で感じていたいと思う人になら

 「月が綺麗ですね」と

 ふと伝えることができる気がする

 

 Fall in fall

 秋の滝

 滝の秋

 滝に落ちる

 秋へ堕ちる





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