Mimic


 本物じゃないけど、偽物ではない

 偽物だけど、ある意味本物でもある


 大きかれ小さかれ

 僕らは「真似」をしてこの世界をやり過ごしている気がする


 幼子は、自分が置かれた環境の「真似事」をして育ち


 優等生や成功者を見倣えと、偶像の「模倣」を求められ


 伝統は、古の良き形に「インスパイア」されて


 芸術は、巨匠や憧憬の対象を「オマージュ」する


 流行りものは、寄せ集められて「パロディ」となり


 負け惜しみは、格好つけるために名言を「パクる」


 結局は、真似することでしか僕らは前に進めない


 先例がないものに渋る態度が出てしまうのは

 理由の一つは恐らく、真似するものがないから


 うまくいかなかった時、「これを真似たから駄目だったのだ」と

 安全に責任転嫁できる対象がないから


 先例がなければ、言い出した自分が責任を取らなければならないと


 そして自分は、そんな気力も能力も持ち合わせていやしないのだと

 心の底で、密かに、きっぱり諦めをつけてしまっているから


 そんな、無意識にも無責任な振る舞いをする大人たち


 上手に息をする人の真似をいくらしてみたところで

 僕はただ「僕」であり 「不器用な僕」のまま


 みんなが優しい人の真似をしたとて

 偽善者もいれば聖母のような人もいる


 みんなが悪い人のふりをしても

 極悪人になる人がいれば悪戯っ子で済む人がいる


 本物と偽物と擬態と変身と


 真偽と類似の愛憎の中で


 今日も僕は「僕」のふりして

 ひとつ、くしゃみをした

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