四季事件



 今年の秋は短いね

 誰のせいにもできないけれど

 季節が生きているとしたら

 今年の秋を殺した犯人は誰?


 容疑者①:冬

 夏はずうっと居座って

 私まで縮んじゃうかと思った…

 でも殺してないわ 大事な家族

 誰一人欠けていいはずがないの


 容疑者②:夏

 梅雨と上手く替われなかった上に

 今年は手を引く時機タイミングがつかめなくてね

 でも殺してないよ 僕なわけがない

 君たちの想い出が僕のアリバイでしょう?


 容疑者③:春

 秋の紅葉に嫉妬?まさか!

 私には桜がいますからね

 殺していません 嘘など不要

 命の尊さは誰よりも知っているつもりです


 探偵は困った

 確保しようのない証拠

 裏の裏も取れない証言の宴

 手元に散らばる朧気な記憶

 ゆっくり、手繰り寄せて

 「今」を見る



 ふと、探偵はある容疑者に向かって問う


 あなたの責任ではないですか?


 利用するだけ利用して、やるべきことを先送りにしたのではないですか?


 現実に目を背けて、自分が後で被る不利益を他人に押し付けたんじゃないですか?


 故意ではない、成り行きで、事故でそうなってしまったのだと、言い訳するつもりですか?


 ねえ、人間さん…あなたがた、何様のつもりですか?



 真犯人でもないが確実に関与している「容疑者」は

 何を思うともなく

 更生しようというよりも

 むしろ自らの生存を維持するために

 渋々自身の傲慢さを恥じるよう努めた


 人間はもう、「自然」に踊れなくなってしまった

 それでも


 手の中で命震えるその「瞬間とき」が

 幾星霜と継がれるまで


 真犯人が捕まらずとも

 この事件はお蔵入りになんてさせない


 四人の季節がまた屈託なく笑えるように

 探偵はそう心に決めて


 自らもその罪滅ぼしを願い出た

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ひとりうたあつめ 紫丁香花(らいらっく) @azuki-k01

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