【4章】全力で戦い抜け

Seq. 23

「そういえば2人はどれくらい試合があるんだっけ」


 ベクマス闘技大会初日、第一試合開始前にまず開会式が第一グラウンドで行われる。

 僕は一緒に学園湧者会用の待機場所に立っているミロとエリーに問いかけた。


「ワタクシは5試合ね。1日1試合という感じだわ」

「私の方は3試合です。2日目に1試合と、4日目に2試合になります」


 それを聞いて「意外と少ないんだ」とつい言ってしまった。

 いや、去年の僕の25試合を基準にすれば誰でもそうなるのだけど。

 それでもエリーはともかく、ミロの試合数はもっと多くてもいいと思う。


「たしかにそうだけれど、どの試合も珠玉のカードだと思うわ。それに……」


 ミロがそう言ってエリーと顔を見合わせた。

 一度2人で笑い合ってからこちらを向く。


「私とミロ先輩、戦うことになってるんですよ」

「そうなの。とっても楽しみだわ」


 両者ともにすごく嬉しそうにして言った。


「そうなんだ。僕が戦えない分までしっかり勝つんだよ、エリー」

「任せてください! 暫定では3位でも、本ランクでは2位になってみせますよー!」


 ふんすと意気込むエリーに対して、不敵な笑みを浮かべるミロ。

 心の内では「できるものならやってみなさい」と言っているのかもしれない。

 この2人の試合、ぜひとも見たいなと思っていると――。


「よぉーエクシイ、久しぶりだなぁ!」


 突然何者かが僕の肩に体重を乗せてきた。

 倒れそうになるのを踏ん張って耐える。

 数年ぶりに聞いた声だけど、誰なのかちゃんとわかった。


「あの、ごめんなさい。学園の方ではありませんよね。お名前をお伺いしても?」


 急な来客に困惑しながらミロが尋ねた。

 そうか、名前は知っていても顔を見るのは初めてらしい。

 エリーは言うまでもなく口を開けたままポカンとしている。


「オレか? オレはなぁ、アンドリュー・コーダーってんだ。よろしくなっ!」


 その名を聞いた2人は少し間をおいてから驚きの声を上げた。

 何か言いたそうにしているのも構わずアンドリューさんが口を開く。


「ちょっとコイツ借りてくけどいいか? いいよな、よし! サンキュー!」

「あのちょっと、待っ、えぇーっ!?」


 僕は軽々と担ぎ上げられた。

 そのままどこかへ運ばれる。


 あぁ、2人の姿がどんどん小さくなっていく……。


◆◆◆


「それで、何の用でしょうか?」


 アンドリューさんに連れていかれたのは武道場だった。

 グラウンド1つが収まるくらいの広さを持つ建物の中には石畳で覆われた床があり、その周囲を鉄板の壁が囲んでいる。その壁の上には学園生全員が余裕で収まる数の座席が並んでいるけれど、今はそこに誰もいない。


「まあそう焦るな」


 そう言って腰に携えた細身の剣を引き抜き、地面と平行に構える。


「今から見せるもん、よーく見ておけよ!」


 剣を握る手に力が込められたのがわかった。

 その剣先に光が収束していき、やがて放たれる。

 光はここから走って十数秒かかるであろう向こう側の壁に一瞬で達し、焦げ跡を残した。


「懐かしいだろ? オレの湧能力『光一閃こういっせん』。簡単に言えば今見たいな光弾を飛ばす力だ。大抵の魔物は容易く貫ける」


 光一閃についてはよく知っている。これを攻略するためにずっと特訓してきたのだから。

 驚いたのは、記憶の中のものと比べて速度が何倍にもなっていることだ。


「あとこんなこともできるぞ」


 アンドリューさんはそう言って、今度は腕を後ろに伸ばし剣先を目線と反対方向に向ける。


「よっ」


 光弾が放たれた、と思ったらアンドリューさんがいなくなった。

 気がつけば先ほど焦げ跡をつけた壁の前に立って手を振っていた。

 また同じような動作をしてこちらへ戻ってくる。


「ほっ……と。力加減次第でこんな移動手段にも使える。一気に相手の懐に飛び込んだりな」


 初めて見た使い方に頭を抱えた。

 ほかにもまだ知らない力があるなら、勝ち目はないのではないか……。


 そんな僕の思考を読み取ってか、アンドリューさんがこう言った。

 

「安心しろ、できることはこの2つだけだ。ほかに隠しているもんはなんもねぇよ」


 僕は「そうなんですね」と相槌を打った。

 しかし、ここまで言われると安心感を抱くよりも、1つの疑念が湧いてくる。


「どうして手の内をさらすようなことをするんですか?」


 迷わず質問した。


「別に深い意味はねぇよ。オレが見せたかっただけ。その代わり、存分に対策してきてくれ」


 その言葉の意味はすぐに理解できた。

 ナメられている。そういうことだ。


「……わかりました。その余裕、絶対に後悔させてみせます」

「おう。楽しみにしてるぜ」


 決戦まであと4日だ。

 その日までの特訓は今まで以上にハードなものになるだろうが、僕は必ずやり切ってみせる。

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