Seq. 25
ついにこの日が来た。
ベクマス闘技大会最終日、僕とアンドリューさんの試合が行われる日だ。
「いよいよだねエクシイ。頑張ってね」
「きっとあなたなら勝つことができるわ」
「それなりに応援はしてますよ、エクシイ先輩」
朝、学園に来るとみんなが思い思いの激励をくれた。
僕は「ありがとう」と言ってグッと握りこぶしを作った。
緊張がないと言えばウソになる。でも今はそれ以上に気持ちの昂ぶりが抑えられない。
「あぁー…………だはぁ……」
ひと通りのやり取りを終えると、何かをこらえ切れなくなったエリーが突然うなだれた。
「まだ昨日のこと引きずっているんだね、エリーちゃん……」
昨日のこと、つまりエリーとミロの試合だ。
結果はミロの勝利だった。
でも、予想に反してと言っていいのか、手に汗握る戦いが繰り広げられていた。
「なかなか惜しかったもんね」
そう口にすると、無敵走で回避に徹し攻撃の隙をうかがうエリーと、華刃演舞を使って寄せ付けなように立ちまわるミロの均衡が思い起こされる。
お互い決定打に欠けていたものの、些細なミスが致命傷に繋がりかねない激戦だった。
けれど、最後は上手く懐に誘いこんだミロの一撃で幕を閉じた。
「ワタクシもいい試合だったと思うわ。ぜひ、また戦いましょう」
顔を下に向けているエリーの手を取りミロが言った。
エリーは顔を上げ、その手をぶんぶんと大きく上下に振る。
「約束ですよ! 次の練習試合はエクシイ先輩じゃなくて私としてくださいね」
笑顔で「もちろんよ」とミロは言う。そして時計を確認した。
「そしたら、ワタクシは今日の第一試合に出なくちゃだから、そろそろ失礼するわ」
「うん、ミロも頑張ってね」
去っていくミロの背中を見送っているとピアスが話しかけてくる。
「エクシイは今日の試合、どれを見るか決めてる?」
「あ、ごめんピアス。さすがに今日ばかりは自分の試合に集中しようと思うんだ」
昨日まではピアスと一緒に試合を見て回っていたけれど、今日は決戦に向けて身体を温めておきたい。
グラウンドも武道場も全て使われるから、誰も来ないであろう裏門あたりでやるつもりだ。
そのことを伝えるとピアスはうなずいてくれた。
「じゃあ、わたしはエリーちゃんといるね」
こうして2人と別れ、1人でのウォームアップに励むことになった。
◆◆◆
ゆっくり息を吐き出すのとともにリーゼを広げていく。
全部吐ききった次はまたゆっくりと空気を吸い込む。そして同時に広げたリーゼを消し去っていく。
この4日間でリーゼを自分の身体の一部のように扱えるようになってきた。
「はぁー……。ふぅぅーー」
今度はリーゼを前に向かって広げていき近くの木に絡みつかせた。
うん、しっかりと異物を掴んでいる感覚がある。
これならアンドリューさんの光一閃とも張り合えそうだ。
「あとは、速度と連射力が合わさった場合にどこまで対応できるかだね」
特訓に付き合ってくれたリンの湧能力では速度を出すために連射力が犠牲になってしまう。
だからそればかりは実際に戦ってみないとわからない。
そんな思索にふけっていると学園に響き渡る鐘の音が聞こえた。
「そろそろお昼か……」
ひと息つこうかと思い背中を伸ばす。そこで誰かが歩いてくる姿が目に入った。
向こうは僕が気がついたのを見て駆け寄ってくる。
「すんません。邪魔しちゃいましたか?」
「いや、ちょうど休憩しようとしていたところだから気にしないで」
頭を下げてくるリンに向けてそう言った。
エリーにでも僕がここにいることを聞いたのだろう。
何か用事があるのかと考え問いかける。
「それより、何かあった?」
「はい。伝言を頼まれて……」
リンの言葉に思考を巡らせる。
こんなときに伝言だって? いったい誰から?
何か重要な話かもしれない。
続けられるリンの話に黙って耳を傾ける。
「コルム先生から、食堂の今日の日替わりランチ、メインがカツレツだからちゃんと食べとけって」
ずっこけた。
そんなことをわざわざ人を使って伝えてこないでほしい。
もしかするとゲン担ぎまでしっかりしておけというコルム先生なりのエールなのだろうか?
いやあの人はただ面白がってやっている絶対そうだ。
くだらない茶番に巻き込まれたリンが不憫でならない。
「なんか、ごめんね」
どうして僕が謝らなければいけないのだろう。そう思いながらも謝罪はしっかりする。
リンは気まずそうな苦笑いをこぼすだけだ。
どうにもいたたまれなくなって、その場しのぎでこう口にするのだった。
「食堂行こうか……」
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