Seq. 13
今日は一週間の真ん中の日、ミロとの練習試合当日だ。
ベクマス学園での練習試合は午後の教練の時間に行われる。試合をする学園生はその日の教練を免除されるということだ。
「まあ僕には関係ないんだけどね……」
むしろ試合がない日はまともに腕を磨けないとすら言える。
昼食を終えて真っ先に第三グラウンドまでやってきた僕は、1人きりでそんなことを考えていた。
「あらエクシイ。早いわね」
しばらくするとミロもやってきた。
両手で大量の木剣を抱えている。
「今日は6本なんだ」
軽く頭を下げながら木剣を数えた。
「これだけあれば、さすがのエクシイでも辛いんじゃないかしら?」
「さあ、どうだろうね」
会話をしながら、1カ月ぶりの試合にお互い高揚しているのが感じ取れる。
「2人とも来てるかー?」
そこに現れたのは、こんな日でも間抜けた声を出すコルム先生。
歩いてくる後ろにはミロの教練担当の先生と、救命系の湧能力を持つ医務の先生もいる。
「ちゃんといるな。そんじゃ、いつもの説明すっから並べならべ」
コルム先生が地面を指さしてここに来いと合図を出すので、ミロと2人で整列する。
「湧能力の使用は無制限。武器は学園で貸し出したもののみ、教員側で呼びかけたらすぐに戦闘を中断すること。万が一の事態には医務担当が待機しているから思う存分全力を出してくれて構わない。いいな?」
「はい」
「心得ております」
僕とミロ、それぞれが肯定を返す。
「あとエクシイ、絶対に木剣は壊すな」
「わかってますって。なんで毎回それ言うんですか……」
1回しかやってないのに。
「ならよし。あとは時間まで待機しておけ」
その言葉で僕とミロは黙ったまま離れていく。
普段第三グラウンドを使用している部は別の場所で教練を行うことになっているので、グラウンドはがらんどうだ。
僕はその広い空間を贅沢に使い、ストレッチをして過ごした。
◆◆◆
「時間だ、両者位置につけ。湧能力は開始まで発動しないように」
少しだけ声を張ったコルム先生の指示で、僕がグラウンドの北端に、ミロが南端に立つ。
僕は1本の木剣を構える。
対するミロは両手で1本ずつ持ち、残り4本は地面に突き立てる。
「それではこれより、『
場が静寂に包まれる。
「――――はじめっ!!」
――ダッッッ!
開始の合図ととも全力で走りだす。
「ふぅ……っ!」
ミロの方へ向かいながらリーゼを可能な限り広く展開する。
――ビュゥッ!!
正面から木剣が1本、とんでもない速さで向かってきた。
「くぅ……!」
喉に突き刺さる寸前にリーゼでとらえて固定する。
足を止めミロの木剣を確認する。地面に突き立てていたうちの1本が減っていた。
「さっそくだね」
僕の声は聞こえていないと思うけれど、まるで返事をするようにミロが首を傾けている。
挨拶代わり、とでも言いたげだ。
さて、どうしようか……。
ミロの湧能力は「
念動系は正直言ってそこまで珍しくない系統の力だ。僕が今までに戦った人の中にも似た湧能力を持つ人が何人かいた。
その中でもミロが学園2位に座している理由、1つは抜きんでた制御精度になる。
さっきみたいに、あれだけ正確に急所を狙ってこれるのはミロしかいない。
そしてもう1つ――。
「今回は4本か」
ミロの周りに突き立てられていた3本と左手に持つ1本の木剣が宙に浮きあがる。
数少ない、複数同時に制御できる逸材が彼女なんだ。
もっともこれは湧能力の特徴というより、ミロ本人の集中力というか、センスによるものなのだけど。
前回までの試合では3本が限界だったから相当量の練習してきたことがわかる。
僕だって負けてないよ。
固定していた木剣を手に取って地面を滑らせるように後方へ投げ飛ばす。
急に死角から突かれないよう、華刃演舞の射程外に出しておくためだ。
「お互い全力を出し切ろう!」
グラウンド全体に聞こえるように声を張り上げて叫び、再びミロに向かって走り出した。
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