第19話 新たな研究の始まり

太陽が昇り、朝の光が研究室の窓から柔らかく差し込む中、斉藤 学は目を覚ました。机に突っ伏していたまま、いつの間にか眠ってしまったようだ。疲れ切った身体に鞭打ち、ゆっくりと体を起こすと、デスクの上には昨夜のままの書類と、コンピュータのモニターが静かに彼を迎えていた。


「やるべきことが、まだある…」斉藤は自分に言い聞かせるように呟き、椅子に深く腰を下ろした。森下 啓が遺したメッセージが、彼の心の中で静かに響き続けていた。森下が追い求めた「量子の迷宮」の謎、それを解き明かすために、斉藤はこれからも研究を続ける決意を新たにしていた。


斉藤はまず、森下が残したデータを基に、新たな実験計画を練り直すことにした。森下が発見した異常なエネルギーパターンや、時間軸の歪みがどのようにして「量子の迷宮」を生み出したのか、それを解明するためには、新しいアプローチが必要だと感じていた。


「このエネルギーの動きが…何かを示しているに違いない…」斉藤はデータを見つめながら、独り言のように呟いた。森下が迷宮に取り込まれる直前に記録されたエネルギー値は、通常の物理法則では説明できない異常なものだった。そのパターンを解明することが、森下が見た真実に迫るための鍵になると斉藤は考えていた。


斉藤はまず、エネルギーパターンの解析を行うために、大学内の他の研究者に協力を求めることにした。自分一人でできることには限界があると悟った彼は、この研究をさらに進めるためには、専門知識を持つ他の科学者たちの協力が不可欠だと感じていた。


斉藤は電話を取り、まず最初に声をかけるべき人物を思い浮かべた。それは物理学の専門家であり、かつて斉藤と共同研究を行った経験のある中村 隆一教授だった。中村教授は量子力学の権威であり、彼の助けがあれば、森下の残したデータをより深く解析できると考えたのだ。


「中村先生、お久しぶりです。実は、相談したいことがありまして…」斉藤は電話口で、淡々としかし慎重に話を切り出した。


「斉藤先生、久しぶりですね。一体どんな相談ですか?」中村教授は穏やかな声で応じたが、その声には興味がこもっていた。


「実は、最近ある研究を進めているのですが、かなり特殊な現象に突き当たっていまして…」斉藤は森下の実験についての詳細を説明し、「量子の迷宮」に関する研究を共有した。


中村教授は電話の向こうでしばらく沈黙していたが、やがて静かに言った。「それは非常に興味深いですね。確かに通常の物理法則では説明できない現象のようです。私の方でも解析を手伝いましょう。」


「ありがとうございます、中村先生。」斉藤は安堵の息を漏らした。「この研究には、まだ多くの謎が残されていますが、森下君が追い求めた真実に辿り着くためには、どうしてもあなたの助けが必要なんです。」


「分かりました。私も全力で協力します。」中村教授は力強く応じた。


こうして、斉藤は中村教授との共同研究を再開することになった。二人はそれぞれの専門知識を活かし、森下が残したデータを徹底的に解析するための計画を立て始めた。斉藤の研究は、これまでとは違う新たな段階に入ろうとしていた。


次の日、斉藤は中村教授の研究室を訪れ、持参したデータを元にして、今後の研究方針を話し合った。中村教授は、森下が発見したエネルギーパターンについての斬新な仮説を提案し、それが「量子の迷宮」の形成にどのように関与しているかを考察した。


「このエネルギーの動きは、単なる物理現象ではなく、何か別の意図が働いている可能性があります。」中村教授は画面に映し出されたグラフを指しながら言った。「もしかすると、これは単なるエネルギーではなく、何かしらのメッセージを含んでいるのかもしれません。」


「メッセージ…?」斉藤は驚いて問い返した。


「はい。エネルギーそのものが情報を運んでいるという仮説です。森下君が何を見つけたのか、その答えはこのパターンの中に隠されている可能性があります。」中村教授は真剣な表情で斉藤を見つめた。


斉藤はその言葉に、新たな可能性を見出した。森下が最後に残したメッセージと、このエネルギーパターンが結びつくことで、「量子の迷宮」に隠された真実が明らかになるのかもしれないと考えたのだ。


「これは一筋縄ではいかないかもしれませんが、必ず解明してみせます。」斉藤は力強く言った。


「私もそのつもりです。」中村教授も同じ決意を持って応じた。


こうして、斉藤と中村教授による新たな研究が始まった。森下が見つけた「量子の迷宮」の謎を解き明かすために、二人は再び力を合わせて挑むことになった。物語は、新たな展開を迎えようとしていた。

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