第11話 真実への糸口

研究室の窓から差し込む月明かりが、斉藤 学の顔を淡く照らしていた。森下 啓の研究ノートを再び手に取り、そのページをめくる度に、斉藤は深い溜息をついた。森下が何を見たのか、それを知るためには、彼が行った実験の詳細を理解する必要がある。しかし、その全貌はまだ掴めていない。斉藤は森下が遺したメモやデータを一つ一つ丁寧に読み解きながら、手がかりを探し続けていた。


「このアルゴリズム…」斉藤はふと、ノートの中に書かれた特定の計算式に目を留めた。それは、森下が「量子の迷宮」と呼ばれる現象を発見する直前に使用していたものだ。斉藤はこのアルゴリズムが、並行宇宙への扉を開くための鍵であり、森下が迷い込んでしまった原因だと考えた。


「これが…全ての始まりか?」斉藤は独り言のように呟きながら、ノートに書かれた数式を白紙の紙に書き写し、自分なりに解析を始めた。数式は複雑であり、解読には時間がかかるだろう。しかし、斉藤はその過程で、何か重大な発見があるはずだと信じていた。


研究室の中は、夜の静寂に包まれていた。斉藤は時折、深い呼吸をしながら、自分の集中力を高めようと努めた。森下の残した手がかりは断片的であり、その全てを一つに結びつけるのは容易ではない。だが、斉藤はこのアルゴリズムが、並行宇宙と現実世界を繋ぐために使用されたものであるという確信を深めていった。


その時、斉藤の手がふと止まった。ノートの一部に、他とは異なる奇妙な符号が書き込まれているのに気づいたのだ。それは、まるで暗号のように見えたが、斉藤にはその意味がすぐには理解できなかった。


「この符号は…何だ?」斉藤はメモを取り出し、その符号を写し取りながら、解析を試みた。符号の中には、数字と記号が混在しており、それが何かを示していることは明らかだった。だが、それが具体的に何を表しているのかを解読するには、さらなる時間が必要だった。


斉藤は頭を掻きながら、その符号が何を意味するのかを考え込んだ。森下が残したこの符号には、何か重要なメッセージが込められているに違いない。それが分かれば、森下が行った実験の全貌を明らかにすることができるかもしれない。


「この符号を解読しなければ…」斉藤は決意を固めた声で呟いた。そして、彼はその符号を基に、新たな仮説を立て始めた。もしかすると、これは座標を示しているのではないか?もしかすると、森下が行った実験の具体的な場所を示しているのかもしれない。


斉藤は地図を広げ、その符号に対応する座標を探し始めた。符号の組み合わせが示す地点を慎重に解析し、ついにある場所に辿り着いた。それは、大学からそう遠くない場所に位置する古びた研究施設だった。


「ここが…森下君が最後にいた場所か?」斉藤はその地図をじっと見つめた。彼は心の中で何かが確信に変わりつつあるのを感じた。森下が行方不明になった原因は、この場所にあるのではないか?


斉藤はすぐに行動を起こす決心をした。彼は地図を片手に、研究室を出て車に向かった。森下が見つけた「量子の迷宮」の謎を解明するためには、この場所を調査することが不可欠だ。斉藤はエンジンをかけ、目的地へと急いだ。


夜の闇がキャンパスを覆い尽くす中、斉藤はその不気味な静寂に包まれながら車を走らせた。森下が残した手がかりが、彼をこの場所へと導いているように感じた。だが、その先に何が待ち受けているのか、斉藤にはまだ分からなかった。


古びた研究施設は、かつて科学の最前線だった場所だが、今では廃墟同然の状態にあった。斉藤は施設の前に車を停め、周囲を見回した。静寂の中に、かすかな風の音が響くだけで、他には何も聞こえなかった。


「ここに、森下君は…」斉藤は独り言のように呟き、施設の中へと足を踏み入れた。建物の中は暗く、埃が舞っていた。廊下を進むたびに、斉藤は何か不安な気配を感じたが、それでも前へと進み続けた。


施設の奥へと進んだ先に、かつての実験室があった。斉藤はその扉を開け、内部を確認した。そこには、使い古された機材やコンピュータが残されており、まるで時間が止まったかのような空気が漂っていた。


「これが、森下君が使っていた場所か…」斉藤は辺りを見回しながら、その場に立ち尽くした。彼は、ここで何が行われたのかを知るために、残された機材やデータを調べる必要があると感じた。


斉藤は古びたコンピュータの電源を入れ、森下が残したデータにアクセスしようと試みた。画面がゆっくりと立ち上がり、かつて森下が使っていたプログラムが表示された。斉藤はその画面をじっと見つめながら、森下が何をしようとしていたのかを理解しようと努めた。


「これが、量子の迷宮を作り出したプログラムか…?」斉藤は自分に問いかけた。森下がこのプログラムを実行し、その結果として異常な現象が引き起こされたことは確かだ。しかし、その具体的な内容はまだ不明瞭だった。


斉藤はデータをさらに深く調べ、何か手がかりを探し続けた。そして、ついに一つのファイルを発見した。それは「実験記録」と名付けられたファイルであり、森下が行った実験の詳細が記録されていた。


「これが…真実への糸口か?」斉藤はそのファイルを開き、画面に表示された内容を読み始めた。そこには、森下が行った実験の詳細が克明に記されており、彼が何を発見し、何に取り憑かれたのかが次第に明らかになっていった。


斉藤はその内容に驚愕しながらも、同時に深い恐怖を覚えた。森下が行った実験は、単なる科学の探究を超えたものであり、彼自身の存在を脅かす何かを引き起こしたのだ。


「森下君…君は一体、何を見てしまったんだ…?」斉藤は画面に映し出されたデータを見つめながら、森下の絶望と恐怖を共有するかのように感じた。そして、彼はその恐怖に立ち向かい、真実を解き明かすためにさらに深く調査を進める決意を固めた。


古びた研究室の中で、斉藤は再び一人、未知なる領域へと足を踏み入れた。森下が残した謎を解明するために、彼は決して諦めない覚悟を胸に秘めていた。

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