おわりに

 気に入った作品にレビューを書きたいけど、怖くないですか? 私は怖いです。


 このキャッチコピーから始まった自主企画は、1か月の間に10作品というノルマを設けてスタートしました。残り1日程を残して14作品のレビューを完了したため、無事完走できたということでよいかと思います。レビューもかなり自然体でできるようになったと感じるため、当初の目的は果たせたと言ってよいでしょう。


 この企画に賛同いただいた作者の皆さまには改めて御礼申し上げます。想像以上にハードな企画で、夜遅く仕事を終えて帰宅してから夜中の2時ぐらいまで頑張るみたいなことが頻繁にありました。自身の創作活動をストップして、個人の自由な時間のほぼ全てを捧げました。その熱意を自作の執筆に活かせよとも思うのですが、素人の意見でも耳を傾けたいという意思を示された作者の皆さまのため、そこは身を削って頑張らせていただきました。


 肝心のレビュー内容ですが、お世辞にも褒められたものではないと思います。フラットな気持ちでのレビューをうたいながら偏りが出てしまったり、特に長編ではボケボケのレビューだったと思います。


 もし、次回の企画を開催するとしたら、もう少し作者の皆さまとのコミュニケーションを重視したレビューが良いかなと考えています。全体を俯瞰して、まっさらな状態で見た方が良いには決まっていますが、それだとレビュワーの負担がきつすぎ、限られた時間のためボケボケのレビューになってしまいがちです。作者さんとあらかじめ対話し、何を特に見てもらいたいかを示してもらえれば、そこに力を注ぐことができますし、作者さんもレビューに対する満足度が上がることでしょう。


 ただ、作者さん自身がなんとなく感じている既知の問題に対してはそれでよいのだと思いますが、未知の問題は解決できないことになってしまいます。ある程度はそれも分かるかもしれませんが、本気でやると本当に際限がないため、個人の趣味の範囲としてはこの辺りが限界かなと感じた次第です。


 私のことはこれで置いておき。今回の企画でレビューした作品を一言程度で少し振り返っていきましょう。


1.自殺の絶えない世界で【完結済】/@Sainashi

https://kakuyomu.jp/works/16818093078673165872

 自殺志願者Xが誰なのかを探るという設定の良さが光る。願わくば、作者さんが考えていた本当の意味での完結を見たかった。


2.恐竜がパステルカラーで塗られていても、僕達に反論出来る根拠はない/@ju-n-ko

https://kakuyomu.jp/works/16817330658106322044

 タイトル詐欺な面はあるが、カジュアル向けに振り切った文章であり、とても読みやすかった。普遍的なダンジョンものを楽しく見たい方にはおすすめ。


3.旧市街に救われたアタシの日常/まるま堂本舗

https://kakuyomu.jp/works/16817330660990430576

 やや起伏に欠けるものの、ノスタルジックな旧市街を舞台として、車両整備一筋の女性の奮闘を描いた日常物。文章は独特な味わいがあり、他作品のチェックもぜひ。


4.マイグレーション 〜現実世界に入れ替わり現象を設定してみた〜/気の言

https://kakuyomu.jp/works/16817330668187679404

 創作の世界で頻出する、入れ替わり現象を異なる観点から物語に取り入れた野心的作品。ミステリーであり、サスペンスであり、ラブコメでもある。


5.サクラに狂わされる/野々宮 可憐

https://kakuyomu.jp/works/16818093078627419717

 桜の樹の下に埋まっていたのは死体ではなかった。でもある意味、死体だったのかもしれない。物語としては短いながらも心を動かすものがある。


6.贖罪の山羊は運命と踊る/加峰椿

https://kakuyomu.jp/works/16817330650042607252

 運命を操作できる理想郷を標榜するディストピアを舞台とした物語。まだまだ始まったばかりの段階だが、繊細な描写も良く、今後への期待が高い。


7.愛を生かすための呪い/藤崎 柚葉

https://kakuyomu.jp/works/16817330655659077722

 愛していると伝えることができない呪い。ままならない思いのつらさが身に染みる作品。呪いの謎を追うサスペンスであり、ジェットコースター的な展開が魅力。


8.ウィンド・マスターズ 異色の風使いたち/駿河 晴星

https://kakuyomu.jp/works/16818093081710116787

 当初は導入部に対して厳しい評価としたが、改稿の結果は出色の出来と言ってよく、以下に再レビュー内容を示す。


・ひとこと紹介

 その境遇に悲観することなく、前を向いて生きようとする少女の物語。


・レビュー本文

 藍色の目を持つ少女、咲羅は時代に取り残されたような村で拾われ育ちました。黒色に混じれない咲羅は、父母の愛に恵まれながらも、疎外感を募らせていきます。

 そんな時に村に起きた事件が切っ掛けで、咲羅の生活は一変し、学園で徐々に居場所を見つけ始めることになるのですが、その過程が繊細な描写でつづられています。

 離れ離れになってしまった父母といつか再会するためにも、その境遇に悲観することなく前を向いて生きようとする少女の物語と私は感じました。


 以前、この作品を批評させていただいたのですが、その時は特に第1章の分かりにくさ、不可解さに少々手厳しい評価をしておりました。

 それはうまく言語化までには至らず、拙いものがあったのですが、作者様はそれでも真摯に向き合われ、改稿に熱心に取り組み、現在は見違えるような状態に仕上がっています。


 咲羅が感じていた孤独、そして、どんな背景があって、なぜ事件の折に村人があのように排他的な反応をしたのか。今では分かる気がします。

 それにより、受け入れてくれた学園の人間たちの暖かさが一層際立つような、素晴らしい導入です。


9.樹法師タネの桜散る天地創造/星太

https://kakuyomu.jp/works/16818023214222766328

 草木を操る樹法を駆使し、灰に覆われた土地を取り戻すために旅立った少女と侍による和風ファンタジー。章ごとにゲストキャラクターが変わり、飽きさせない展開も良い。


10.アナテマの獣/灰原アシカ

https://kakuyomu.jp/works/16816452218395059165

 呪いを解き放った罪を償うために旅立った少年による本格派ダークファンタジー。その手の作品としては、残酷描写は比較的マイルド。恐怖演出も魅力。


11.迷宮回生〜転生した高校生、仲間と最強異能、ゲーム知識で最底辺からダンジョン探索して成り上がっていく物語〜/ともだち

https://kakuyomu.jp/works/16817330662935094597

 いまだ発展途上の作品。


12.若い林檎が熟すまで/翠雪

https://kakuyomu.jp/works/16818093083959942364

 これから世間の荒波にもまれていくであろう若い女性が、誰かの助けを待つのではなく自分を磨くことの大事さを学んでいく、きっかけとなる物語。多感な心の変化が丁寧につづられている。


13.瑞国伝/水野文華

https://kakuyomu.jp/works/16818093078198236614

 人生に絶望した宦官が傲慢な皇太子の側仕えとなった後、お互いに理想の国を創るための人間と確信し、やがて敬愛する仲に至るまでの過程が際立った表現で書かれている。


14.ウェーブ&ムーブ〈惑星テクトリウスの異邦人〉/保紫 奏杜

https://kakuyomu.jp/works/16817330653313722580

 剣とメカのモザイク文明が発達した惑星を舞台とした物語。カリスマ系ヒロイン、少しお茶目なAIを搭載した巨大ロボットなど、キャラクターの造形が良く、躍動感もある。


---


 以上、14作品の簡単な紹介でした。気になった作品があれば、リンク先からお訪ねいただければと思います。


 最後になりますが、このレビュー企画を行うにあたって、考え方の規範とした論述を紹介します。雲の上の人すぎて、フォローもしていないですが……。


フィンディルの感想論あれこれのこれ/フィンディル

https://kakuyomu.jp/works/16816700428800304108


 作品に対する感想の論者として、あるべき姿がここに全て書かれていると思って過言ではなく、もし感想を書くという活動をやったことがないけど、興味があるという方は一読を強く推奨します。


 長くなりましたが、これで自主企画「素人がフラットな気持ちを心がけてレビューした場合」の締めくくりとさせていただきます。


 ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

素人がフラットな気持ちを心がけてレビューした場合 平手武蔵 @takezoh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ