『運命の数奇』や『選択の重み』という言葉を強く感じさせられる短編でした。
とある、寝たきりになった老人。その老人が戦時中に体験した『ある出来事』を回想するというもの。
「最後の命令」という形で、彼は上官からあることを実行しろと命じられていた。それに対しての強烈な葛藤。
その先で、彼はどんな決断をしたか。
『野火』や『白鯨との戦い』などの作品で描かれていた『あるテーマ』が扱われていますが、また異なる切り口を見せてくれた作品でした。
とある選択の結果が、思わぬ道を作り出すこともある。『数奇』という言葉が似合いそうな、意外性のあるラスト。
読み応えもあり、しみじみと感じ入らされる作品でした。
読ませて頂きました。驚きました。カクヨムでこれが読めるとは思いませんでした。
デリケートな内容で、中身的には文芸に属するのでしょうが、登場人物とストーリーをうまくアレンジしてカクヨム的なバランスを整えられたことがよく伝わってきます。
それでもpv250なのか…。カクヨムじゃこの手のは厳しいんだなあ…。なのに★143で、やたらアンバランスです。「一部のコアなファンに熱狂的に支持された」ということが分かりますね。
もちろん、カクヨムで上位に入っている作品も面白いですが、こういった、日の当たらない(失礼)良作にちゃんと辿りつけるプロセスが整えられるといいなあ、と思っています。
おそらく既に読まれていると思いますが、津本陽さんの「わが勲のなきがこと」は同じテーマの長編です。飢餓地獄のニューギニア戦線のお話しですね。ラストシーンが唐突で大好きでした。
脚本の用語で、フラッシュとは回想シーン挿入を差しますが、本作品における戦地を巡るフラッシュには、トトトトトという銃声が聞こえてきそうなほどの臨場感を覚えます。
映像、臭い、感触、温度……。
地球の歴史、人類の歴史、国の歴史、個人の歴史。
涼子の名前の由来や、ひいては涼子の個性も含めて、まもなく散りゆく一人の男の人生と哲学、漢気が、五千文字たらずの短編でまっすぐに飛び込んできます。「勝男」という名前を選ばれたのは、おそらく感性による直観だろうと思いますが、こちらもこれ以外ないだろうと腑に落ちます。
時代だったと言えば、それまでですが、そこには同じ出来事が千あったとしても、ここに生きて、死にゆくのは一人の男。
涼子から始まる効果的な冒頭のシーン。
構成として勝男が主人公になっていますが、現代の涼子を際立たせるつくりにしたならばどうなるのか、そちらもぜひ拝読してみたいと思いました。
神視点の語りは、深いやさしさとユーモアを持つ、文鳥亮その人であると感じられる。彼(もしくは彼女)のカメラワークが堪能できる、一篇の心打つドラマです。映像で観たいです。
素敵な作品をありがとうございました。