記念特別SS:血を飲む事を除けば、ただの幼馴染

PV数1,000越え記念SS:今年こそは海に来た

「菜音、日焼け止め塗った?」

「もちろん。日焼け対策はばっちりだよ。ちゃんとウォータープルーフのを塗ってきたしね~」

 そう言いながら、菜音は足をパタパタと上下させる。

「…あんまり前の座席蹴んなよ」

「分かってるよ、当ててないから」

「…ったく、こっちはまだ独身だってのに」

「んじゃあ彼氏でも彼女でも作ればいいだろ」

「えー、やだよ面倒くさい」

「そんなら最初からんな事言うなよ」

「ぼやいて悪いかよ」

「別に良いけどさ」

「…まぁ、響谷が幸せそうならそれで良いんだよ、私はさ」

「…どうだか、幸せならいいんだけどな」

「むっ、私と居る時は幸せじゃないの?」

 ハリセンボンの様に頬を膨らませた菜音が俺の方を向いてそう言う。

「そう言うわけじゃない。し、むしろ幸せだぞ」

「そっかぁ、それならいいや~」

 そう言いながら、俺の肩に頭を乗せてくる。

「楽しみだね、海」

「って言っても、もうちょっとで着くけどな」

「えぇ~…あと2時間くらいはこうしてたいよぉ」

「我が儘言わないの」

「…はぁい」

 少し不機嫌そうに返事をする菜音の頭を撫でる。すると、あっと言う間に菜音が上機嫌になる。

「…イチャついてるとこ悪いが、もう着くぞ」

「うぃ」



「ん~…暑いね…。ラッシュガード着てきたのはミスだったかな?」

 車内から出た俺達が、直射日光に曝される。

「ま、いいんじゃねぇの?水着姿は響谷だけが見りゃ」

「それもそうだね」

 なんてことを言いつつ、俺たちは砂浜に向かう。


「…ん、しょっぱい…」

「なんで海水飲んでんだよ」

「いやぁ、たまには海の味を知りたくって」

「不味いだけだろ」

「うん、すっごく不味かった」

「…まぁ、体調壊さなかったらいいんだけどさ」

「いや止めろよ、彼氏だろ」

 …まあ、ごもっともか。

「…そんじゃま、さっさと海入ろうぜ」

「「おー」」

「…やる気ねぇな。溺れんなよ。お前ら二人を救助すんのはご免だかんな。特に響谷」

「…お前なぁ…」

「あはは…。でも葵さんならちゃんと助けてくれるって」

「それは勿論、分かってるよ。あいつは溺れかけの俺ら二人くらい簡単に救助できるからな」

 …ま、溺れたら溺れたで後で葵から愚痴を言われたりしそうだが…。そん時はそん時だ、思う存分あいつの愚痴を聞いてやろうじゃないか。



「ん~!やっぱ泳ぐって気持ちがいいね!」

「だな、海の中は涼しくていい…」

「…しょっぱ…」

「…葵、お前海水飲んだか?」

「…口に入ったわ…」

「草」

「何が『草』だ。こっちは全然面白くもなんともねぇよ、しょっぱいわ。そんな草はとっとと塩害で枯れちまえ」

「…ほんと、仲良いよね」

「…あぁ、まあそりゃな」

「そう言えば、響谷のお母さんって今どこで何してるの?」

「…さぁ?世界のどっか旅してんじゃねぇの?」

 連絡先とか知らねぇし、葵から母さんの話を聞いた事も少ないし。…去年くらいはオランダにいるとか何とか言ってたけど…。

「日本に帰って来てたりして」

「まさか。…いや…まあないとは言えないのか…」


「なんかさ、恋愛漫画であるよね。学校一の美少女が溺れてて、それを助けたら惚れられた…みたいなさ」

「あぁ、まあ王道…的な展開なのかもな」

「…っていうか普通に縁起でもないね、海でこの話するのは」

「…だな…」

「…ねえ響谷…」

「ん?…」

「そろそろ、欲しくなってきちゃった…」

 …えぇ、ここで?

「…いいけど…取り敢えず一目に付かない所行くぞ」

「はぁい」

「んぁ、お前らどこ行くの?」

「すぐ戻ってくる」

「…おぅ、そうか」


 ■


「流石に急すぎるだろ」

「あはは…ごめんね?」

「別に謝れとは言わないけどさ」

「ナイフ…は流石に無いから、ラッシュガードで隠れるところにするね」

「おう」

 菜音の唇が首元に触れて、菜音の歯が俺の皮膚を突き破る。

「…っ…」

 多少の痛みに耐えながら約5秒ほど。菜音が俺の首元から口を離す。

「…ごちそうさま、響谷」

「おう。…で、大丈夫なのか?」

「うん、まだ我慢できるよ」

「そうか、そんなら葵んとこ戻るぞ」

「はーい。あ、でもその前に手当てしなきゃね」


 そして、菜音に手当てされた傷をラッシュガードで隠して葵の元に戻る。

「おぅ、おかえり。随分早かったな」

「俺たちが何をしてると想像したのかはあえて効かないでおくけどそれじゃないぞ」

「ならなんで人目に付かないとこに行ったんだよ?」

「…まあ、葵さんになら話しても良いけど…流石にここだと、ね…」

「帰りの車の中で話すか?」

「うん、そうしよっかな」


 ■


『…響谷の様子は?』

「…まぁ、相変わらずだよ」

『…そう』

「ってか、いい加減顔出せよ」

『…それは…』

「…響谷は、お前に文句を言いたそうだったぞ」

『………』

「まあ、帰ってくる来ないは好きにすりゃ良いけどさ。お前、ほんとに何で自分の息子置き去りにして世界旅行行ってんだよ」

『それに関してはノーコメント』

「あっそう、まあそう答えると思ってたよ。ってか、そんなに響谷の事が心配なら顔出さなくても良いから日本に帰って来いよ。治安悪いだろ、海外は」

『今はシンガポールだから大丈夫』

「…そうかよ。…まあでも、響谷は幸せそうだぞ」

『そう…なら、良かった。そろそろ切るから、またね』

「おぅ」

 ………はぁ。


――――――――

作者's つぶやき:えー、ギシカノに引き続きこの作品もPV1,000越え…ありがとうございます、皆様。

さて、私は全くと言っていいほど…いいえ、泳げません。…ので、海で泳いだりしないです。

けどもまぁ、二人のイチャつき&葵さんと響谷くんのいつでもどこでも変わらない言い合いをお楽しみいただけましたでしょうか。

葵さんは水香さんよりも出演率が高くて良いんですよね。

それと後半の描写から分かる通り、響谷くんのお母さん…梨帆さんは結構響谷くんの事を気にかけてます。

…自分から家に置き去りにしておいて、どういう風の吹き回しなんでしょうかね。

…まあ、いいんですよ、響谷くんは今幸せそうですから。

――――――――

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幼馴染が急に血を飲みたいと言ってきた ますぱにーず/ユース @uminori00

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