幼馴染が急に血を飲みたいと言ってきた

ますぱにーず/ユース

本編

「血、飲ませて?」

 放課後、いつもの様に幼馴染の三宅みやけ菜音なのと家路を辿っている。

「いやー、今日も一日疲れたね~」

「お前だいたい寝てたろ」

「寝てても疲れるんですぅ~」

 なんだそれ。

「なんかさ~、学校って空気感だけでもう疲れちゃうんだよね~。どうにかならない?響谷~」

「俺にはどうにもできん。文科省にでも直談判しに行けばいいだろ」

「じゃあ交通費出してよ」

「なんで俺が交通費出さなきゃなんねぇんだよ」

「尽くす男はモテるぞ?」

「知らん。俺がモテるモテないは興味ないって知ってるだろ?」

 少なくとも今は恋人を作る気は無い。恋人自体は少し前までは居たのだが…。

「やっぱ浮気されたから~?」

「…うっせぇ」

 そう、菜音の言う通り、浮気された挙句にフラれた。向こうから告白しておいて酷いものだ。…本当に。


 …珍しい。いつもだったら菜音がこんなに黙ってるなんて。

 そう思って、後ろに振り返る。

「…菜音、どうかしたか?」

 俯きながら歩いている菜音が心配になって声を掛ける。

「…あ、あの…ね、響谷…」

 顔を赤くした菜音がモジモジしながら俺に何かを言おうとしている。

「なんだ?」

「そ、その…」

「うん」

「…飲ませて」

「飲みたい?何を?」

「響谷の…血…」

 …は?


「…はぁ?」

 どうしたいきなり。

「頭…大丈夫か?」

「…そういう反応…するよね…。で、でも…もう、我慢…できないの…っ!」

 そう言うと菜音はどこからともなく取り出したナイフをこちらに向ける。

「…菜音?」

 向けられたナイフに気圧されて後退りをする。しかし、俺のすぐ後ろは塀。もう後ろには下がれない。

「…ごめんね、響谷」

 そう言って一歩、また一歩と、菜音がゆっくり歩み寄る。

 俺の左腕を掴み、左の人差し指にナイフを当てて―――。

「―――いっ…」

 指の皮膚を切られる。そして、傷口までが菜音の口の中に運ばれる。




「………、…ありがと、響谷…」

 体感数十分、菜音に傷口から血を舐め取られていた気がする。

「…えっと、傷口、手当するからちょっと待ってね」

 菜音はそう言って鞄の中を漁り、消毒液と絆創膏を取り出す。

 …あれ、ナイフって鞄の中に手入れずに取り出したよな…どこに仕舞ってたんだ?

「…痛っ…結構沁みる…」

「ごめんね、ちょっと我慢して…」

 菜音は傷口を消毒した後に絆創膏を貼ってくれた。…アフターケアもバッチリって事か。


「それにしてもなんで急に血なんか飲みたいって、どうしたんだよ?」

 俺がそう聞くと、また菜音がモジモジしだす。

「え、えっと…なんでって…その…血が欲しくなって…」

「…全くもって理由になってないぞ」

「言語化するのが難しいんだよぅ…」

「…まあ、良いけどさ。…あんまり他の奴にこんなことするなよ?」

「…欲しいのは響谷の血だけだから大丈夫」

 そう。…ならいいや。

「ごめんね…もう抑えられなくって…」

「いや…いいよ、別に」

「じゃ、じゃあ、さ…また…我慢できなくなったら…その…血、貰うね…?」

「…殺すなよ?」

「わ、分かってるよっ!」


「ただいま~」

「おう、おかえり響谷。それと菜音ちゃんも、いらっしゃい」

 家に帰ると、今日は珍しく葵がこの時間に家にいたようで、玄関で俺たちを出迎えていた。

「はい、お邪魔します」

 菜音がそう言って葵にお辞儀をする。

 菜音ってなんかこう…葵には他人行儀が抜けていない感じがする。

「…なあ、響谷」

「どうした?」

「なんで菜音ちゃんって私には他人行儀なわけ?」

「知るか」

「おう、いつも通りの辛辣さで安心した。…っていうか響谷、その絆創膏どうしたんだ?教科書で指切ったか?」

「…あー…えーっとー…」

 葵にどんな言い訳をしようか考えていると、不意に菜音を目が合う。

 …おい菜音、目を逸らすんじゃない。

「…まあ、カッターでちょっとな」

「…ほーん…まあ、そう言う事にしておいてやるよ。んじゃ、私は仕事行ってくるから。そんじゃあな~」

 葵は俺と菜音の間になんかあったことを察してる感じだったが、一先ず俺の言い訳を信じてくれた。

「おう、いってら」

「いってらっしゃい、葵さん」



「…ねえ、響谷」

「どうした?」

「響谷はさ…今後どれだけ私が響谷(の血)を求めても…嫌いにならない?」

「あぁ、うん、多分」

「そう…良かった…」

「あ、そうだ菜音。一応聞いておくけどさ、菜音って人間だよな?」

「あ、当たり前だよ!」

 だよな。よかった、吸血鬼とかの類ではないようだ。

「でも、響谷の血を飲みすぎちゃったら、羽とか生えちゃうかもね…?なーんて」

 そんなこと無い…無いよな…?

「流石に冗談だよ、私はちゃんと人間だってば」

「まあ…なら良いんだけど」

 14年近く一緒にいた幼馴染が実は人外でしたとか洒落にならない。

「そういえば、ご飯とかどうすんの?」

「あー…今日は泊まってく。着替え取ってくるね~」

「はいはい」

 リビングのソファから立ち上がって玄関の方に消えていく菜音を横目に、俺は夕飯を2人前作り始める。

 葵はまぁ…多分夕飯は先食ってるだろ、冷蔵庫の食材減ってたし。っていうかあいつ、俺が明日の弁当に入れようと思って取っておいた唐揚げ食いやがって…。


――――――――

作者's つぶやき:いやー…響谷くんのお話は書きやすくて良きです。

それはそうと、響谷くんの幼馴染は所謂アブノーマルっていうやつなんでしょう。マイノリティとも言ったりするんですかね。

さて、葵さんに関してですが、特に響谷くんの保護者みたいな記述は無いので保護者ではない…つまり両親生存ルートの響谷くんです。よかったですね、響谷くん。

あ、GSMワールドはこれと同時並行で書いていきます。

――――――――

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