「…え、何してるの?」「…添い寝?」

「ねえ、響谷…起きてる?」

 菜音が俺の部屋をノックする音で目が覚める。時刻は深夜2時。

 …菜音、こんな時間まで起きてたのか…。

「あぁ、うん。起きてる」

 俺がそう言うと、部屋の扉が開いて菜音が部屋に入ってくる。

「どうしたんだ?」

「…ううん、なんでもない…」

 俺の質問にそう返した菜音はそそくさと俺の布団の中に入ってくる。

「…え、何してるの?」

「…添い寝?」

 …なんでまた急に…。

「…なぁ、一応聞いておくけどさ、菜音って俺の事好きなの?」

「…う、うん…当たり…結構…気付くの早いね…」

 最近露骨に距離が近くなってたし、スキンシップも増えてたし…。

 俺は多分そんなに鈍感ではないのだと思う。

「…ねえ、もう寝る…?もうちょっと起きていようよ」

 そう言って菜音が俺の手をきゅっと握る。

 頰を赤らめて、上目遣いでこちらを見る菜音は、とても可愛いと思う。

「そんなに見つめて…私の顔に何かついてる?」

「いや…特に何もついてない。可愛いなって」

「…そ…そう…」

 照れを隠すように、菜音が俺の手を握る力を強める。

「照れてる?」

「て…照れてなんか…ないもんっ…」

 …可愛いなぁ。


 ■


 首筋に少しだけ走った痛みで、俺の意識は浮上する。

 何かが俺の上にのしかかっているような重さも感じる。

 薄く目を開けると、菜音が俺の上にのしかかり、首筋に噛みついていた。

「…菜音…また我慢できなかったのか…?」

「…あ…起き、ちゃった?…ごめんね…」

 俺の首筋から口を離した菜音がそう言う。

「いや…良いけど…」

「それと…我慢できなかったわけじゃなくて…その…あ、甘噛み…だよ…」

「甘噛み…?」

 …犬?

「…今、『犬?』って思ったでしょ。…否定はしないけど…」

「けど?」

「なんか不服…」

「…ごめん」

「いや…謝らなくてもいいんだけど…。…ごめんね響谷…もうちょっとだけ…いい?」

 そう言って、俺の許可を取る前にまた首筋に甘噛みを始める。

 …良いけど…返答くらい待っててほしかったなぁ…。


「………ん………」

 …朝、か…。

 俺の上に菜音がのしかかったまま寝ていたが、あのあとから俺は起きることなく熟睡する事ができた。

「…ひ…び、や…?」

「おう、おはよう菜音」

 薄く目を開けて、ゆっくりと俺の名前を呼ぶ菜音にそう返す。

「おはよ…響谷…」

「まだ眠いか?」

「…ん…ねむ、い…」

 眠そうに目をこすりながら、コクリと頷く。

「もうちょっと寝る?」

「…ひびやは?」

「俺はもう起きるけど…」

「…や…」

「え?」

「いっしょ…ねて」

 そう言って、菜音は俺の手をもう一度きゅっと握る。

「だめ…?」

 うっ…。

 やめろ、そんな風に言われたら断れない…。

「…わかったよ、20分だけな」

「…ん…えへへ…ひびや…すき…」

 …ほんと、いつもの菜音からは想像できないな、こういう姿は。


 それから約40分後、俺はまだベッドの上で菜音と添い寝していた。

「…菜音」

「…ん…?」

「もう40分経ってるぞ」

「…や…まだねるの…」

「…昨日2時半まで起きてたからだろ」

「…だってぇ…さみしかったんだもん…」

 …菜音って、眠いときもそうだが、時々甘えん坊になるよな…。

「…はぁ、もう気の済むまで寝ろ、俺も付き合ってやるから」

「えへへ…やさしいひびやすき…」


 それから約30分後、俺はまたしても菜音に首筋を甘噛みされていた。

 甘噛みとはいえ、これくらいの力だと一瞬菜音の歯型が残るかもしれない。

 ちなみに菜音はというと、俺の上に寝転がって熟睡中だ。熟睡しているのに甘噛みって結構器用だな。


「…い…っ!?」

「…ん………?…」

 突然、菜音の噛みつく力が強くなって、皮膚を突き破られたような痛みを感じた。

「ん…!?」

 俺の痛みに耐える声で起きた菜音も、すぐに首筋の皮膚を突き破ったと認識したらしい。驚いたような声を上げている。

 本来ならすぐに口を離して手当をするんだろうが…菜音は違う。なにせ、こいつは俺の血が好物らしいから。


「…ぷはっ…」

 俺の首筋から口を離した菜音は恍惚の表情を見せる。

「…俺の血ってそんなに美味しいの?」

「わかんない…好きだから…なのかな」

 …血の味…知ってるけど、美味しいと感じたことはないな…。

「あ…えっと…その…ごめんね」

「いや…いいよ。うん…」

 さっきの恍惚の表情からは打って変わって、俺のことを心配そうに見つめる菜音。そのままパジャマのポケットから絆創膏と消毒液を取り出して、俺の傷口の手当てを始めた。

「なんでその2つ持って来てんの?」

「だって…備えあれば憂いなしって言うじゃん…現に今助かってるわけだし…」

「まあ…ありがとな」

「うん。でも…自分で傷つけて治してるって、よく考えたらマッチポンプだよね」

 …まあ…だからどうしたって感じだと思うんだがな。

「っていうか、俺と菜音、今日は一切ベッドから出てないな」

「そうだね…響谷と寝れて幸せだよ…?」

 …なんだろう、その言い方は語弊を生む気がする。

「…抱いてくれてもよかったのに…ヘタレ…そんなんだから彼女にフラれたんだよ?」

「普通に傷付くからそういう事言うのはやめような」

「はぁい」


――――――――

作者's つぶやき:いやはや、甘噛みですよ、甘噛み。私甘噛み好きなんですけど、こういうのって癖に入るんですかね?

菜音さんのようなアブノーマルというかマイノリティというかな人も結構刺さったりします。

血が好きなのではなくて、響谷くんの血が好きっていう、血の嗜好もあったりします。皆さんは、血って美味しいと思った事ってあります?

――――――――

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