「…あはっ。みーつけた…」

「なぁ、お前」

 放課後、学校の屋上にて、俺は男子生徒に胸座を掴まれていた。

「三宅さんと最近一緒だからって良い気になってるんじゃねーぞ」

「…?良い気にはなってないと思うけど…」

 …いい気ってなんだ?

 それに、俺こんな怒りを買った覚えもないんだけど?

「…うざいんだよ!」

 そう言って、俺の顔をその生徒は一発殴る。

「何の取り柄もないお前が!努力せずに!三宅さんの隣に立ってるのが!釣り合ってないんだよ!」

 続けて4発。


「…今後、お前は三宅さんに近付くな」

 再び胸座を掴んで俺にそう言った後、突き飛ばすように手を離して屋上から出て行った。

「…あー…痛ってぇ…」

 尻餅をついた俺は、そのまま仰向けになってそう呟く。


 …何の取り柄もない…か。確かにそうかもな。

 菜音はまあ美人だと思うし、成績もそこそこだし…。


 大して俺は中の中。運動も勉強もまぁ平凡。…取り柄があるなら…なんだろ…。

 …『菜音が俺なしでは生きていけない』とかか?…言うほど取り柄かそれ?


「…うわっ、スマホ画面割れてる」

 葵に連絡を取ろうと鞄の中からスマホを取り出すと、画面が割れていた。

 さっきの衝撃で割れたのだろうか。


「…しゃーない、このまま帰るか…」

 菜音は今日友達と帰るって言ってたしな。


 俺は起き上がって、そのまま家に帰った。



「おかえ…どうしたそれ」

 家に帰ってリビングに入ると、葵が俺に疑問を投げかけてくる。

「…あぁ…まぁ、ちょっとな」

「………お前、こういう時だけ詳細を語らないのやめろよ。少なくともトラブルシューティングは私の方が長けてるんだぞ」

「生徒同士のいざこざには保護者はあんまり関わらないほうが良いだろ」

「暴力沙汰が起きて関わらない保護者はお前の親くらいしかいねえだろ。…で、何があったんだよ」

「…菜音と一緒に居たら男子生徒から殴られた」

「は?…え、それだけで?」

「それだけで」

「意味わかんねぇんだけど」

「それは俺もそう」

「…何?お前そいつに死ぬほど恨まれてんのか?一挙手一投足が苛立つくらいの恨み持たれてんじゃねぇの?」

「…じゃあその状況って何?」

「例えば、そいつの好きな人を寝取ったとか」

「…俺がそんな事するような性格に見えるか?」

「性格は見えないだろ」

「面倒くせぇ奴だなお前」

「あ、なんだやんのか」

「負傷者に追い打ちできるならやればいいだろ」

「おういいぜ、やってやんよ」

「…はぁ、やってもいいが、その場合お前の評価は俺の親と同等になるぞ」

「うわ最悪だ。やめとこ」

「賢明な判断だな」

「…で、話を戻すが、心当たりとかはマジでないんだな?」

「あったら直してるってんだ」

「そりゃそうだな。…そいつになんか言われたか?」

「えっと…『釣り合ってない』とか…『今後一切三宅さんに近付くな』とか『うざい』とか」

「…え、それ単なる嫉妬じゃね?」

「…だと思うけど…」

「暴力沙汰…いやぁ、青春アオハルしてんねぇ」

「どこがだ。結構痛かったんだぞ」

「…ってか、お前なら一人くらい余裕だろ」

「…いや、まぁさ、そうなんだろうけど…」

「…ハンムラビ法典って知ってるか?」

「目には目を、歯には歯を…のあれだよな?いきなりハンムラビ法典ってどうしたんだよ」

「つまり、殴られたら殴り返して良いんだよ。正当防衛とかいう法律は気にすんな」

「…いや、それはまずいだろ」

「殴られたら殴り返されて当然なんだよ」

「…そういうもんか?」

「あぁ、本来はな。っていうか、向こうから殴ってきてんだから本人も言い出しにくいだろ」

「…あぁ、まあ…そうかもな」

「こっちは受動的に動いてんだ。向こうの方が多少罪は重くなる。こっちは多かれ少なかれ罪は軽くなるさ」

「まあそうだな。…悪い葵、手当てしてくれるか?」

「…めんどくせぇな。時給いくらだ」

「時給ゼロ円」

「…まぁ、いいけど。てか、取り敢えず風呂入ってこい」

「へいへい」



 俺が教室に入って自分の席に座ると、菜音が俺の方に近寄ってきて話しかけてくる。

「…響谷、そのガーゼどうしたの?」

 菜音は心配そうに俺の頬に手を伸ばして、俺の頬を撫でる。

「…あぁ、まあ…ちょっと、な」

「大丈夫なの?」

「あぁ、まあ大丈夫。葵が手当てしてくれたから」

「そうなんだ…それならまあ、安心かな?」


 そして、少し離れたところから感じる視線。

 菜音にばれないように目をそちらに向けると、あの男子生徒がこちらを見ていた。


「…?響谷、本当に大丈夫?保健室いかなくてもいい?」

「あぁ、だから大丈夫だよ」

「…本当?それなら良いけど…」




 そして、放課後。

 また俺は男子生徒に屋上に呼びだされていた。

「…ほんっとうに!お前!!!」

 今度は殴ったり蹴ったりするわけではなくて、首を絞めてくる。

 …こいつ、殺す気かよ。

「死ね!死んでしまえ!」


 そんな時、屋上へと続く階段のドアがけ破られたように開く。そして、ナイフを片手に携えた菜音が、扉から入ってくる。

「…あはっ。みーつけた…」

 ゆっくりと、着実に、菜音は男子生徒と距離を詰めていく。


――――――――

作者's つぶやき:学生が人を殺めてしまったら少年院的な所に行くんですかね?

それとも刑務所なんでしょうか?凶悪に殺し過ぎたら最悪市警とかもあり得るんでしょうかね?

…さて…。

最近こっちばっかり更新してる理由はですね、あの、GSMワールドを毎日投稿しながら学業の両立は結構本気でやばめになってきたんですよね。

こっちが平均執筆時間1時間に対して、GSMワールドの方は平均2時間半ですよ。2時間半なんですよ。

そう、時間が無いのです。

なんで暫くこっち更新です。すみません。

――――――――

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