「喧嘩するほど仲がいいって、本当なんですね」

「はぁっ…はぁっ…!響谷…っ!」

 …最近、響谷への気持ちが段々とよくない方向に向かっていると思う。

 最近、何となく理解してきた。私は血を吸うと、欲求の抑えが効きにくくなるみたいだ。

 三大欲求は勿論、血を吸う欲…吸血欲も。

 だから、響谷の血を吸うごとに、もっと響谷の血を求めてしまう。

 最早依存症のそれだ。


 三大欲求も抑えが効きにくくなる。つまり、ご飯をたくさん食べたりもしてしまう。

 沢山食べるのは好きだけど、体重が増えるのはあまりいただけないと言うか…。

 睡眠欲も…最近、前にも増して熟睡できるようになった。心なしか肌も少し綺麗になった気もするし…。


 ただ、良い事ばかり、とは当然いかない。メリットがあればデメリットもある。三大欲求の一番最後、性欲だ。

 抑えが効かない。だから…。

「ひびや、っ…ひ、びやぁ…っ」

 …何をしたかは言わない。…言わないけれど、この後羞恥心と後悔で死にたくなった。

 どんどん抑えが効かなくなっていく。理性はある。正常に思考をすることもできる。


「…はぁ」

 響谷の事が好き…、それは変わらないのだけど…その気持ちが本当にまずい方向に走り始めている。

 今更止めてももう遅いだろう。

「…少しだけ、我慢できるかな…」

 一週間…いや5日…ううん、やっぱり2日。様子を見て…できるだけ続けてみよう。



「…そういう訳で、しばらく響谷の血を我慢することにしたから」

「…あぁ、うん…まぁなんて言うか…ごめん」

「いやいや!響谷は何も悪くないよ!」

 菜音がそう言うと同時に、二階から葵が下りてくる。

「…んあ、菜音ちゃん来てたんだ」

「…いつまで寝てんだよ、葵」

「あ、おはようございます。葵さん」

「うん、おはよ菜音ちゃん。…で、二人は何の話してたん?」

「…あぁ、いや、気にしないで。これは俺と菜音の話だから。…マジでどうしようもなくなった時には頼らせてもらうけど、それまでは俺たちで何とかするから」

「…そうか。…まあ、響谷はともかくとして菜音ちゃんがいるなら安心だな」

「おい」

「あはは…トラブルシューティングは響谷くんの方が得意だと思いますけどね…」

「まぁな。お前、見た目に反して結構インテリだからな」

「お、なんだ容姿差別か?」

「遂に響谷も差別しないと成り立たない世の中に差別反対って猛抗議する奴らと同等になったか」

「るっせぇ各方面に叩かれるような言い方してんじゃねぇ」

「事実だろ」

「事実だとしてももうちょっとオブラートに包めよ」

「可食フィルムは家にねぇってんだ」

「慣用句知らねぇのか中学生からやり直してこい」

「そこは小学生だろ」

「…本当に、仲良いね」

 いつものように葵と言い合いをしていると、菜音がそう言って笑う。

「まぁな」

「そりゃあ、仲良くないとやってられないしな」

「喧嘩するほど仲がいいって、本当なんですね」

「これに関しては喧嘩じゃないと思うけど」

「…なあ、菜音ちゃん。敬語は無くていいよ。私は尊敬されるような人間じゃないし」

「お、分かってるじゃねえか」

「るっせぇ響谷は黙ってろ」

「えっと、それはつまりいつも響谷と喋ってる喋り方で良い…ってことだよね?」

「そういうこと」

「…う~ん、違和感が抜けきらないけど…」

「まあ、そのうち慣れるよ」

「そうだね」

「…私も響谷とそれなりに仲がいい自覚はあるけどさ、なんだかんだ二人も仲いいよな」

「…まあ」

「そうかも…?」

「…で、何の話してたんだっけ」

「誰のせいで話題が吹っ飛んだと思ってんだ」

「はいはい悪かったよ」

「誠意が感じられない、-150点加点」

「…めんどくさ」

「まあ良いけどさ」

「…あんまりよくないような気がするんだけど?」

「大丈夫大丈夫、多分」

「他人事すぎるだろ」

「実際他人事だろ」

 …確かに。


 その後しばらくして、『仕事行ってくるわ』と言って玄関の方に葵が向かったのを確認して、俺たちは元の話に戻る。

「…で、今はどうなのさ」

「うん、ちょっと前に発散したから大丈夫」

「…因みにどれを?」

「聞かないで、死にたくなるから」

「OK、理解した。…で、血は吸わなくても大丈夫そうか?」

「…無理、すっごく、すっっっっっっっっごく吸いたい」

「…そんなにか」

「そんなに。…だからその…あんまり、私の前で肌とか見せないでね?」

「分かった。努力するよ」



 そして、その日の夜。

「…ひびや…ひびや…っ」

 俺は菜音に押し倒されていた。

「…菜音、我慢してくれ」

「…わ、かってる、けどぉ…つらい、よぉ…」

 菜音は、俺の首元にギリギリまで近づきながら耐えている。

「…吸い、たい…のに…」

「言い方は悪いけどさ、なんか薬物依存症みたいになってない?」

「…私も、そう…おもって、るよぉ…」

 菜音に押し倒されたまま、抵抗をせずに早数十分。

 …なんとなく、予期していた事態が起こる。

「おーっす、ただいぃ~…。…あー、悪かった。今日は友達と飲みに行くんだったわ」

「…葵、ステイ」

「んあ?何?響谷と菜音ちゃんの情事見せつけられんの?」

「だから違うからステイってんだよ」

「…いやぁ、私から見たらどう見ても…、なぁ」

 まぁ、一応誤解だと説得はした。したけども…。

「…まぁ、なんだ…一日二日くらいは家空けれるから、連絡はよこせよ」

 …なんか要らん気遣いをされた。


――――――――

作者's つぶやき:断食ならぬ断血…なんだか2日続くかも怪しいですけど…。

まあ、なんていうか、相変わらず響谷くんと葵さんは仲が良いようですね。

お互いにお互いを信頼し合ってるって言うか…こう、お互いに言い合いばっかりしてるんですけど、仲違いをしないのはお互いのキレるラインとか地雷みたいなのを把握してるからなんでしょうかね。

――――――――

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