「今日は響谷に決めて欲しい」
「そういや葵」
「ん?どした?」
「俺の母さんと父さんって今どこで何してんの?」
「あぁ、今アムステルダムにいるぞ」
「…えぇ…」
「ほれ、証拠写真」
そう言って葵がスマホの画面を見せる。
映っていたのは、葵曰くアムステルダム国立美術館らしい。
「…なんでオランダ?」
「さぁな、私も知りたい。ってか、行くにしても響谷も連れてけってんだ」
「俺がいなかったら葵はまともな飯食えずに死ぬだろ?」
「家事をお前に教えてやったのは誰だと思ってんだ、あと金稼いでるのは私だ。お前に金やらんぞ」
「…まぁ、いいんじゃないの?それで野垂れ死んだところでだろ」
「バカ言え、お前が死んで悲しむやつが少なくともここに一人いるだろ」
「…え、そうなの?」
「当たり前だろ。そうじゃなきゃお前が自立したころにはとっくに関係切ってるっつーの」
「あぁ…自立するまでは面倒見てくれんのね」
「そりゃな」
「…てかさ、預金はまだもうちょっと余裕あるし、葵も旅行とか行ってきたら?」
「悪いな、私にはそんな趣味は無いんだ。ってか、すくなくともお前と一緒に行かなきゃ気が済まん」
「なんだよそれ」
「一応保護者だからな」
「…まぁ、親でもないし、知り合いでも友達でも親友でも、ましてや恋人ですらないもんな」
「…で、保護者かどうかも結構怪しいか」
「お、珍しく分かってるじゃん」
「…正直超不服だけどな」
本当に、俺と葵の関係はどう名前を付ければいいものか。
ただの知り合い、というわけではないし、保護者と言うにしても、葵が俺の保護者らしい行動をしてくれた覚えがない。
「…まじで、俺と葵の関係って何なんだろ」
「もう知り合いで良くないか?」
「…俺の母親の親友、だな」
「それは関係じゃなくて事実だと思うんだが」
「事実だって関係だろ?」
「…まぁそうか。…っと、悪い、ちょっとこの後友達と飲み行くんだわ」
「おう、分かった。気を付けろよ」
「わーってる」
「後いい加減彼氏でも作れ」
「るっせぇ黙れフラれた男のくせして」
「人の傷口を的確に抉るのはやめましょーね」
「お前が始めた物語だろ。…そんじゃ、いってくる」
「てらー」
■
葵が家を出て数十分後、菜音からメールが届く。
『ね、そっちの家行きたいんだけどいい?』
『お好きに』
菜音からのメールにそう返信して、玄関の鍵を開ける。
するとその数秒後に扉が開いて、菜音が家に入ってくる。
「響谷、放課後ぶり」
「あぁ」
「ちょっと洗面所借りるね」
靴を脱いで玄関に上がった菜音はそう言って洗面所の扉に手を掛ける。
「あぁ、どうぞ」
俺はそう返して、キッチンに戻ってお茶を用意する。
暫くしてリビングの扉が開いて、菜音が入ってくる。
「…えぇ。…なんでメイドのコスプレしてんの?」
「いやぁ…ね?」
「『ね?』って何?『ね?』って」
「まぁまぁ。いいじゃん、コンカフェ嬢ってことでさ」
「…なにも良くないと思うんだけど」
「そう?」
「取り敢えず着替えてきなさい」
「えぇ~、じゃあ感想だけ!聞いたら着替えるから!」
「感想…?」
そう言いながら、俺はメイドのコスプレをした菜音を頭頂部からつま先まで見る。
「…まぁ、かわいい…んじゃないの?」
「言いきってくれないの?」
「可愛いと俺は思うよ?思うけどさ、俺の家コンカフェじゃないんだわ」
「うん…まあそれは…はい」
「はい、感想言ったんでさっさ着替えてきてね~」
「はぁ~い」
菜音の背中を押して洗面所まで連れて行く。
「どうせなら見る?幼馴染の生着替え」
「見ない。ってかもう葵で見慣れてる」
「あぇ、そうなの?」
「あいつ気が付いたら家にいるから。洗面所で顔洗おうとしたら風呂上りの葵と遭遇したことが何度かあるな」
「ナチュラルにラッキースケベ…、忍者なの葵さんって?」
…ラッキーってかアンラッキーだろ。
「…まぁ、忍者ってのは強ち間違ってないか」
なんか気が付いたら家にいるし。すぐどっか行くし。…家に来て飯食ってだらだらしてどっか行く…マジで謎だな、葵の生態。
「ふ~ん…。で、着替え見る?」
「だから見ないって言ってるだろ」
「うんうん。じゃあ着替え見ましょうね」
「話聞いてた?」
「聞いてるよ?理解はしてないけど」
「ちゃんと理解もしてくれよ」
「もう、嫌だばっかり言わないの。本当に、ひーくんはお母さんがいないと駄目なんだから」
「…そんな母親、欲しかったなぁ~…」
「…あっ、うん…なんかごめん。てっきり、『誰がひーくんだ』とか『菜音は俺の母親じゃないだろ』とか返してくれると…」
「…あー…誰がひーくんだ」
「うん…もう遅いね」
「だな。…それじゃあ、俺はリビングで待ってるから」
「は~い」
■
その後、元の服に着替えてきた菜音が、俺をソファに押し倒す。
「…今日は、どっちがいい?一応ナイフもあるよ」
「どっちでも」
「今日は響谷に決めて欲しい」
「じゃあ血吸うのやめて」
「その注文は無しね。言うと思ってたけど」
「…まぁ、菜音の満足度が高い方でいいよ」
俺がそう言うと、有無を言わさずに俺の首元に菜音の歯が突き立てられる。
暫く血を吸われた後、口を離される。
「…当分はひじきかレバーかな」
「そんなに吸っちゃった?」
「単純に回数が多いから…かも」
「そうなんだ…ごめんね」
「別にいいよ」
「それじゃあ、手当てするからちょっと待っててね」
そう言って、ポケットから消毒液や大きめの絆創膏を取り出して手当を始める。
――――――――
作者's つぶやき:…最近、菜音さんがナイフを使わなくなってるんですよね。
噛み付いた方が満足度が高いそうです。少々理解に苦しみます。
…あれですかね、良く噛んで食べた方が満腹に感じるとかそんな感じの理論なんでしょうか。
…私も血を吸ってみたら分かるんですかね。…あっ痛っ…やめておきます。
この痛みに耐えてる響谷くんって凄いんですね…。それにしても、吸血衝動がある人って現実にも居るんですかね?
――――――――
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