「てな事があったから、お前、今日から菜音ちゃんと同居な」
菜音から男子生徒を庇って、巻き込まれで腹を刺されてから1週間ほど、俺は退院日を迎えて、ようやっと自由に動けるようになった。
「よう、響谷。迎えに来てやったぞ。退院祝いは何が良い?」
葵にメールを送ってから約10分、葵が病院の入り口から入ってくると同時にそんな事を聞いてくる。
「いらねえよ」
「そうか。そんじゃ帰るぞ。菜音ちゃんが待ってるからな、私の家で」
「…は?」
「いやぁ、実は響谷が入院してる間に菜音ちゃんが同棲したいって言ってきててさ」
「…マジか」
■
時は遡る事一昨日。
「…ん~、あいつの退院祝い何がいいかな…」
明後日に響谷が退院する情報を聞いたので、今はスマホで適当に響谷の退院祝いを見繕っている最中だ。
…まあ多分要らないって言うんだろうが。
なんて事を考えながら画面を眺めていると、不意にインターホンが鳴る。
「は~い」
モニターから外の様子を確認すると、立っていたのは菜音ちゃんだった。
「あ、菜音ちゃん」
『あ、こんにちは…』
「こんにちは、どうしたの?」
『あ、えっと…少し相談したいことがあって…』
「分かった。鍵は開いてるから入っていいよ」
『流石に不用心すぎでは…』
「…あぁ、まあ響谷に怒られるか…帰ってくるまでには鍵閉めとこ」
そんな事を呟いて、玄関に向かう。
「いらっしゃい、菜音ちゃん。響谷はいないけど適当に寛いでて。お茶出すから」
「あ、うん…」
■
「それで、相談ってなに?」
「えっと…その、響谷と…あの、同居…したくて」
「…ッ!?ゴホッ!ゴホッ!」
「…大丈夫…?」
「あぁ…大丈夫、気にしないで…。…それで、響谷と同居したいってのはどういう事?私としては別に好きにしたらいいけどさ。住居とかの確保はどうするのさ?」
「えっと、そのまま私がここに住みたいなって…」
「…あぁ、そういう。いいよ」
「えっそんな簡単に…」
「一人増えるだけだし、部屋は腐る程余ってるし…1室でも有効活用してくれんなら本望よ」
それに、名義は私だが使ってるのは実質響谷だけだしな。私はここに飯食うのと寝るために帰ってるだけだから居て居ないような物だ。
「…因みに空きは何部屋あるんですか?」
「んーっと…大体4室くらい?」
あと滅多に使わない私の部屋を含めて5つ。
「…そんなに多かったとは…」
「だから、別に1室使うくらいは好きにしたらいいさ。ちょっと広めの部屋もあるし、響谷と一緒の部屋にもできるぞ」
「あぇっ!?…いや…そ、それは流石に…その、ぷ、プライバシーとかが…」
「…その方が良さげだな」
「違わないけど違う!」
…何言ってんだ?
■
「てな事があったから、お前、今日から菜音ちゃんと同居な」
「拒否権は?」
「あ?逆にあると思ってんの?」
「…んなこったろーと思ったよ畜生め」
「別に嫌じゃないだろ?」
…うん、嫌ではないな。お互い昔からの仲だし。…ただ…。
「否定はしない…が、せめて事前に連絡くらいしろって」
「報連相の重要さに今更気付いたのかお前」
「ああ誰かさんの所為でな」
「おう、そうか。そんじゃあその誰かさんに感謝しないとな」
はいはい、あんがとあんがと。
「…なんか、すっげぇ誠意の感じられない感謝を述べられた気がするんだが」
「お前心読めるのかよ」
「いや全く」
だろうな。
なんて、いつもと変わらない会話?言い合い?を葵と繰り広げながら家へと帰っていく。
■
「…おぉ、久しぶりに見る我が家だ」
「この感覚を私はいつも味わってるんだ。覚えとくと良いことあるかもな」
「絶対にねぇわ。断言できる」
「1個くらいあったっていいだろ」
またしてもそんな会話をしながら、玄関のドアを開ける。
「おっかえりぃぃぃいいい!!!!!」
「おわっ…!?」
開けるや否や、菜音が俺に飛び込んで抱き着いてくる。
「…菜音、玄関前でそれやるの危ないって」
「あ、ごめん。でも待ちきれなかったんだもん」
犬かな?
「はいはい」
「むぅ、また犬っぽいって思ってるぅ」
「…まぁ、だって犬っぽいもん」
「…なんか不服」
菜音がそんなことを言いながら、俺の後ろに回していた手を解いて離れる。
「おかえり、響谷」
「あぁ、ただいま。菜音」
「…よし、今日の夕飯は豪勢に作ってやるか」
「あんまり味濃いのは無しな。病院食で舌が薄味に慣れてるから」
「おう」
そう言いながら、葵は真っ先に家に入る。
「なんかさ、響谷が帰って来てから葵さん元気になった気がするんだよね」
「そう?」
葵も寂しかったのかな。正直俺も寂しかったと言えば寂しかったが。
■
俺の部屋の目の前にある部屋に、所謂『女子っぽい部屋』ができていた。
それを見ると本当に、菜音がここに住むんだという実感が湧いてくる。
「…ほんとにここに住むんだな、菜音」
「響谷を傷つけちゃったけど…響谷は責めないって言ってくれたし…だから、もっと一緒に居たいなって」
にへらと笑う菜音の頬は、薄く赤く染まっていた。
「そうか」
「うん。それに今度は…守りたいから」
「…そうか」
「いっつもお姫様みたいに守られてばっかりだしね」
「…そうか?」
「…えっ、違った?」
「…さぁ…?」
■
そして、その日の夜。
「…響谷…寝てる、よね………?」
――――――――
作者's つぶやき:えーっと、最低5話以内には完結させる予定です。いつかのギシカノの様に番外編SSも制作する予定なのでお楽しみに。
まずは響谷が寝てる間に…。
そして今度は海ですかね。
で、最終回…的な流れにしようかなと思っております。
予定なので変更する予定はもちろんございます。なんだったら海のお話は番外編SSで書こうかななんて思ってたりもします。
『幼馴染が急に血を飲みたいと言ってきた』、最後までお楽しみください。
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