「…響谷、どうしたの?」
時刻は深夜1時。響谷の部屋のドアをゆっくりと開いて、中に入る。
「…響谷…寝てる、よね………?」
まるで響谷に確認を取っているかのように、そう呟く。
近くまで忍び寄って、響谷の寝息を確認する。…うん、ちゃんと眠ってる。
ナイトウェアを脱いで下着姿になって、響谷の布団にこっそりと潜り込む。
「…あった、かい…」
響谷の体温で温められた布団が、心地よく私と響谷を包み込む。
響谷を背中からそっと抱き締める。
『大好き』
そう心の中で何回も叫びながら眠りに就いた。
■
菜音…お前、何してんの?
嫌じゃないけども…嫌じゃいけどもさぁ…。
なんでかは知らないが、菜音が俺の布団の中に入って来て俺を抱き締めて寝てるという訳の分からない状況になっていた。
…俺、これどうすればいいわけ?菜音を起こすのもなんかあれだし…。
なんて思考ができたのも束の間、唐突に襲われる睡魔に意識を手放して―――。
―――目が覚める。
昨日の光景は俺の見た夢だったと信じた―――かった。
床にはどう見ても菜音の物であろうパジャマ。そして隣には下着姿のまま俺に寄り添って眠る菜音の姿。
なんかすごく幸せそうな寝顔をしていて、起こすのをめちゃくちゃ躊躇ってしまう。
「「…あっ」」
ふと、俺の部屋のドアを開いた葵と目が合う。
「…お前なぁ…貞操観念どうなってんだ」
部屋の中に入って来て、菜音が脱ぎ捨てたパジャマを拾い上げて葵が俺にそう言う。
「…一線は越えてないぞ」
「………そうか」
言葉では納得しつつも、葵は俺を訝しげに見つめてくる。
「…本当だぞ?」
「…わーったよ、信じる」
「っていうか、俺はそんな嘘つかねぇっての」
「あぁ、お前はもっと反応が露骨そうだからな」
…実際のところは知らんが、なんか反論できないのが悔しい。
「…ま、んな事よりとっとと起きて朝飯作ってくれ。今日は朝早いんだ」
「へいへい、ちょっと待ってろ」
■
「…んー…おはよ、ひびや…あおいさん」
「おう、おはよう菜音ちゃん」
「おはよう菜音。ぐっすり眠れたか?」
「…ん」
…寝惚けてる菜音を見るのは何気に初めてかもな…。
「とりあえず顔洗って目覚ましてこい」
「ん…」
コクリと小さく頷いて、洗面所の方へ向かっていく。
それからしばらくして、いつもの元気な菜音が洗面所から出てくる。
「おはよ、響谷」
「おう、おはよ。朝飯作っておいたから、冷める前に早く食えよ」
「うん。いただきます」
■
今日は久しぶりに、菜音とショッピングモールに来た。特にこれと言ったものを買いに来たわけではないが、何時もの様にぶらぶらと散策して欲しい物を買う。
「次はあっち行こうよ」
とか。
「この服いい感じじゃない?」
とか。
「あ、ねぇねぇ見て!これすっごくお洒落じゃない?」
とか。
…まあ、本当にいつも通りって感じだ。
特にこれといったアクシデントやトラブルが発生することもなく、平和にショッピングモールの中を見て回る。
…のだが、偶然にも、俺の元カノ…理世を見つけてしまう。
理世の隣には、新しい理世の彼氏…っぽい人。
「…響谷、どうしたの?」
「…いや…特に」
なんか、『いや、元カノを見つけて』とは言いにくい。…察してくれ、と思いながらはぐらかす。
「ふーん?元カノを見つけて何でもないって、そんなわけないでしょ?」
「…バレたか」
内心でホッとしつつそう返す。
「…やっぱりさ、まだ好きなの?」
「…まあ、そうといえばそうなんだろうけど…、でも、今はもうそんなに、かな」
「そうなんだ…。…あっ、そうだ響谷、フードコート行こうよ、お腹空いてきちゃった」
菜音にそう言われて、スマホで時刻を確認する。13:30…もうそんなに時間が経ってたのか…。
「じゃあ、さっさとお金払ってフードコート行くか」
「うん」
■
服とかをいくつか買った後に、俺と菜音はフードコートに来ていた。
休日の昼という事もあって、フードコートはそれなりに混雑していた。
「それじゃあ、私注文してくるから席取っておいて」
「了解」
それから菜音と行動をして、席を確保する。
「…あら、響谷くん。偶然ね」
聞き覚えのある声…っていうか、つい最近まで好きだった声。
「…理世」
「もうあなたとは恋人じゃないの。気安く理世なんて言わないで」
「…分かったよ、長埜さん」
…めんどくさ。
「それで…その人が新しい彼氏さん?」
「えぇ、奏斗くんよ」
「…ふ~ん…確かに平凡だな」
「…はぁ…」
開口一番『確かに平凡』って…いやまあ事実だから否定はしないけどさぁ…。
「で、新しい彼氏自慢でもしに来たの?」
「奏斗くんがね、私が裏切った元カレの顔が見たいって言うから」
「そうそう。まあでも、こんなザ・普通の顔なら、普通の女子くらい釣れるんじゃないか?」
…なんだ、ただの冷やかしか。
そんなことを思いながら、元カノと元カノの彼氏からの言葉を右から左に聞き流していると、菜音がこっちに戻ってくる。
「…ねぇ、響谷…この人たちってさっきの元カノさん達だよね」
「…あぁ、うん、そうだな」
「…何の用ですか?」
2人に向かって、菜音がそう冷たく言い放った。
――――――――
作者's つぶやき:海は特別編SS行きになりました。なんていうか、長埜さんも城井さんもこう…性格悪いと言うかなんというかですね…。
菜音さんは若干お怒りな感じでしょうかね…。
それはそうと、あの前半の添い寝的なののくだりがすごく短いなぁと書いてて思いましたね。
あと、次回か次々回、最終回です。次回分を書いて字数が2000文字越えたら次々回が最終回となります。
――――――――
よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます