特別編SS:血を飲みたいと言った幼馴染と

夏祭りに花火はつきもの?

「なぁ、夏祭り行ってきたら?」

「…どうした急に」

 いつもの様に葵と晩飯を食べた後にソファでゴロゴロしていると、葵が唐突にそんなことを言いだした。

「いや、特に理由はねぇけどさ。菜音ちゃんと行ってきたら?ってだけ。思い出作りにはなんじゃねぇの?」

「…だなぁ」

 菜音に電話を掛けようと思ってスマホを手に取ろうとすると、先に菜音から電話が掛かってくる。

「もしもし。どうした?」

『あ、えっとね…その、夏祭り、一緒に行きたいなって』

「…すごい偶然だな。俺も今菜音を誘おうとしてた」

『あはは、そうなんだ。以心伝心ってやつなのかな?』

「どうだろうな?」

 その後、待ち合わせの場所と時間を決定して電話を切った。



 迎えた夏祭り当日。待ち合わせ場所で菜音を待つ。

「…あ、いたいた。響谷~」

 しばらく待っていると、菜音が手を振りながらこちらに向かってくる。

「…浴衣、着てきたんだ」

「うん、やっぱりこういうのって雰囲気が大切だと思って。…どう?似合ってる、かな?」

「可愛いと思うよ」

 なんていうか、新鮮だ。浴衣を着た菜音を見る機会なんか全くなかったからだろう。もっと菜音が魅力的に見える。

「ほんと?」

「あぁ」

「そ、そっか…えへへ…」

「…ったく、まだ独身な私の事も考えろっての」

 存在感が空気だった葵が呆れたようにそう口を挟んでくる。

 いい加減恋人の一人でも作れってんだ。結構モテてんだろお前。

「…ま、それはそうとして行くか」

「おう」

「はい」

 そっと、菜音の手を握る。すると、とても嬉しそうな顔をして握り返してくる。

 しばらく道路を歩いて、夏祭りの会場へと向かう。車で行こうともしたが、近くに駐車場が無い事をマップアプリで確認済みなため断念した。




「うへぇ、すげぇ数の人だ…」

 長い一本道に立ち並ぶ屋台。そのどれもに必ず人がいて、賑わっている。

「そりゃぁ、夏祭りだからな」

「じゃあ、はぐれないようにしなきゃね」

 そう言うと、菜音は俺と腕を組む。

「…歩きづらくない?」

「うん、ちょっとだけ…。でも、それ以上に響谷とくっつけるから嬉しい」

「そうか」

 まぁ、俺も嫌ではない…というか普通に嬉しいし。

「…楽しいか?」

「まだ早ぇって」

「それくらいしか話題が無いんだよ」

「…そう」

「あっ!ねぇねぇ、焼きそばあるよ焼きそば!食べよ!」



 それから、射的や金魚すくいなど、屋台を一通り満喫した。

 満喫しきった後には、丁度花火が上がる時間になっていた。

 特に穴場が~、とかそういう所を知っているわけでもなく、というか結構な都会にそんな場所がある筈もなく。俺たちは人混みの中で花火を見る事になった。


 夜だとは言え夏は夏。それに周囲にはたくさんの人がいる。当然、暑い。

「…暑いね」

「体調悪くなったら言えよ?」

「うん…ありがとうね」

 水入りのペットボトルを片手に、俺と菜音、それと葵は花火が上がるのを待つ。


 ―――空に花が咲いた。数秒遅れて、太鼓の様な重低音が響く。


「たーまやー」


 また一つ、また一つ。空に一瞬だけ花が咲いては消えていく。


 隣を見れば、そんな光景に目を輝かせる菜音がいる。


「綺麗、だね」

「そうだな」


 夏の暑さも、今だけはこの花火を引き立たせる要素になって。

 花火が告げるのは、夏の終わり。秋の始まり。

 夏が終わったら、その夏には思い出が残る。


 こんな茹だるような暑さの中に、光って咲いて儚く消えていく花が夜空に幾つも上がった。


 星よりも近く、星よりも短い。そんな一瞬が積み重なって、思い出を織りなしていく。


 そして、俺はそれを今ここで、恋人と見てる。


 上手く言葉にはできない。たった今、この瞬間だけの景色。月並みに言い表すのなら…綺麗だ。



 夏祭りが終わった。俺たちは、言い得ぬ高揚感を持ったまま、家に帰った。


「…また、来年も行こうね」

「そうだな」


――――――――

作者's つぶやき:菜音さんって同居してましたよね?と、思ったそこのあなた、大正解です。

…まあ、あれですよ。帰省っていうやつです。帰省と言うほどの距離もありませんが、帰省は帰省です。菜音さんは響谷くんの家で暮らしてるので、夏休みくらいは帰省したのでしょう。…多分、きっと、maybe。

――――――――

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